西村-手形の話

 怖い話ってめちゃくちゃオチついてるのあるじゃないっすか。

 実は幽霊を見たその場所ではなんたらの事件があって死んだなんちゃらが出てきていてー、みたいな。

 ああ、それが別に良い悪いとかの話をしたいんじゃなくて、そこまで知ってないと話しちゃ駄目かなーとか思ってたんすけど、さっきの話聞いた感じ、別にいいかなって。

 そういう話もあるんすけど、語るには長すぎてどうすっかなと思ってたんで、確実に蝋燭燃えてる間で終わる、短い話を一つ話させてもらうっすね。


 二年の西村。

 さっきの話にもちなんで、手というか、手形の話っす。


 小学六年の夏休み明けの話なんすけど、教室に行くとやけに騒がしい。

 久々に会ったからってのだけじゃない騒々しさ。テンション上がってるやつもいれば怖がってるやつもいる。

 どしたん?って聞いてみたら「お前美術室見てねえのかよ!」ってテンション高いやつが言うわけで。

 見てねえよ何かあったん?って聞いたら「手形手形!パーの手が真っ赤でビタン!って!」ってテンション上がりすぎて要領得ない感じで。

 しゃーないから落ち着いてるというか怖がってる感じの奴にも聞いてみたら、どうやら、美術室の窓の下に手形がついていたらしい。

 えーまじ?って疑ったらじゃあ見に行くぞってさっきのテンション高えやつに引っ張られて、クラスの何人かと一緒に校庭まで行ったら、マジであったんすよ。

 バンバンバンって叩いたみたいに右手の痕が残ってた。窓の下から手形四つ縦に並べたぐらいまで十何個も。

 最初登校してくるとき俺よく気づかなかったなって思うぐらいには割と沢山あったっすね。壁が白ってかグレーっていうかそれ系だからなおさら目立つのに。

 でも、まあ、それだけでしたね。

 幽霊とか、それこそ、その手形つけてる化け物がいたら怖かったんだろうけど、手形だけ見ても別にな……って感じっす。自虐じゃないけど、冷めたガキだったんで。こいつなんでこんな食いついてんだろと思いながら朝の会始まるからって教室に戻りました。

 ホームルームも、中休みも、ずっとそいつはしゃいでるんすよ。すげえやべえ幽霊だって。さっきも言ったけど、俺、冷めたガキで、推理小説とか読んで頭良くなった気でいた嫌なガキでもあったんすよ。

 はしゃいでるやつを小馬鹿にしながら、「夏休み中でも美術室は入れるし、手に絵具塗って窓の下に触ったらすぐにつくでしょ。いたずらだよ」って最初に話聞いてからピンときてた推理披露したんすよ。

 そしたらそいつも腑に落ちない顔しながらも、そうかなあ、って黙っちゃって。内心言い負かしたみたいな感じで優越感に浸ってたっすね。いやーマジで嫌なガキ。

 で、昼休みになってそいつが校庭に行くのを見送って、江戸川乱歩だったかな、それにちなんで幽麗塔読んでた気がするっす。

 ページが進んで、時間も進んで、もう少しで授業開始のチャイム鳴る直前ぐらいにそいつが全速力で走ってきて。

 俺の机にバン!って手叩きつけて「違った!いたずらじゃない!いたずらじゃ無理!」って大声で叫びました。

 周りの奴らもざわざわしてるけどそれ耳に入ってないみたいで、おそるおそる、何が、って聞いたらですね、息も切れ切れで言うんすよ。


「手形、指が上向いてた」って。


 手形が全部、上向いてた。窓から手伸ばしたんじゃ無理な位置まで全部そうだった。

 それ聞いて鳥肌立ちましたね。だって、人間にはできないじゃないですか。人間じゃないなら、ことじゃないっすか。本当だから見に行こうってそいつが引っ張っていこうとするのに抵抗して、チャイムまで粘って、放課後もダッシュで家に帰りました。あいつがそう言ってるだけ、俺は信じないってずっとタオルケットにくるまってました。

次の日、仮病使おうかなと思ったけど親にバレそうだし、見ないように見ないようにって考えながら教室まで行ったらあいつがブスっとした顔してる。

聞いてみれば昨日の放課後も夕方になるまではしゃいで、それじゃ飽き足らずに朝早めに登校したらもう業者が来て塗りつぶされたあとだったらしい。


結局、それっきり。それ以外に何も起こらないし、なんかのやり方での人為的ないたずらだったかもしれないけど、俺はそれ以上調べなかったっす。

だって、それで人じゃないってのが完全に証明されたら怖いじゃないっすか。


以上、手形の話でした。


次の人どうぞ。

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