ある百の怪の会の末路

怪蒼炒飯

縣-元:吊り小屋の話

 あんまり長々説明しても時間足りなくなるんでね。

 前もって話した通り、『名前名乗るのと、何の話かの説明と、何が怖かったかの言語化は必須』ってのだけ注意おねがいします。

 一応、伝統らしいんで。

 じゃあ、始めていきまーす。


 トップバッター、民俗学研究会一年のあがたです。

 ほんとは会長から話し始める予定だったんすけど、なんかトラブってるらしくて遅れるっぽいんで、俺から話し始めさせてもらいます。

 怖い奴に会った話でもあり、怖い人に会った話でもあります。


 俺、たまに変な色が見えるんですよ。


 いや、霊感とかじゃなく。

 水たまりの油膜ってあるじゃないですか。あれ。あんな感じ。なんか視界に違和感あって目を凝らすとピント合うみたいな感じがして、物でも、建物でも、なんもないところでも、色が変わるんです。カラフルに。

 それがきらきらしてたりすると別にいいんだけど、美術の授業で筆洗った時の水みたいな色になってたら、直感的にやばいなって感覚があります。実際に実害食らったことないけど、このままだと被害者になるなっていう直感はあるからさっさと逃げます。背筋がぞわぞわとか、鳥肌とかじゃなくて、ものすごい危機感とか直感としか言いようがないです。『うわっ、さっきから一人でブツブツ呟いてたおっさんがこっち見て目合った』みたいな嫌悪感と危機感?言語化難しいな。実際に体験してサンプルケース取ろうにも、意味わかんねえ現象掘り下げるのも怖いし、一回目が致命的だったら嫌でしょう?だから俺は逃げることしかできないです。まあ、きらきらしててもまあ長居はしないですね。急に変わることもあるし、あとは目がチカチカするんで。


 だから、しょぼいんですよ、俺の見える感覚ってやつ。そもそも人型とか化け物とか見えたことないんですよ。ほんとに、水たまりのあれみたいな感じのが見えて、それが普通はないようなところにあるから異常だってのがわかるって程度。たぶん道路になんかいても小さくて地面にくっついてたらたぶん見分けつかないです。

 それでも口滑らせたら霊感あるだのなんだのって尾ひれついて最終的に素行悪い先輩グループに巻き込まれて心霊スポット連れてかれました。あんまり揉めるのもそれで浮くのも嫌だから、一回だけっすよ!って条件つけて。口約束だったとしても、それ口実に次は絶対行かないって覚悟がありました。


 OBの先輩が車出して、心霊スポットの雑誌見て、ど・こ・に・し・よ・う・か・な・か・み・さ・ま・の・い・う・と・お・り、とかやってて。ちょっと笑いましたね。幽霊見に行くとこ神様に聞くのかよって。

 結局近場のところになったんで、早めに帰れそうかなとか思いながら車に揺られて十分ぐらいしたところにそれはありました。

 小屋?納屋?区別つかないけど、たぶん、農機具とかしまってるところ。しまってた、って過去形になりそうなぐらい腐ってる木造のやつがあったんです。

 どんな曰くが?って聞いても運転手の人が『吊ったらしい』ってだけしか答えてくれない。そのあたりからなんかみんなおかしかったんですよね。車内でギャーギャー騒いでたし、こういう時に余計なことして祟られそうなお調子者の先輩とかもいたんですけど、みんな通夜か葬式かってぐらい静かでした。

 冷めてるとか飽きてるとかじゃなくて、息を殺してるって表現が似合うような緊張感もある沈黙です。

 それでも帰ろうとか言い出すわけでもなくて、見て回ろうぜとか言うわけでもない。ただ突っ立ってるだけ。もしかしてこの雰囲気のまま長居するの?って思ったんで、わざと恐怖を煽るように言ったんですよ。


「やばそうな気配します。今から見るんで、やばかったらいっせーので逃げましょ」


 って。

 実際、なにも感じなかったから、まるっきり嘘です。

 なんか違和感があって、目に力込めて注視して、ってのがいつも見えるときのパターンだったから。

 みんなが静まり返ってるのに俺は何も感じなかったから、こんなヤンキーみたいなくせして雰囲気に飲まれてるのかって内心見下して調子乗ってたのもありますね。

 適当に何かが見えたふりして叫びながら車に戻って、金輪際巻き込まないでください!ってキレて帰ろうと思ってました。

 一応、好奇心というか、試してみたいのもあって、違和感とかは無いけど、目に力入れたら。


 色が、見えました。


 でも、きらきらでも、濁ってもない、みたことのないような色が。

 いつもみたいなぐじゃぐじゃのカラフルなのじゃなくて。肌色に、うっすら赤と青が透けてる。

 手だって、なんとなく思いました。他にもその色の組み合わせってあるんだろうけど、なんでか手が目を塞いでるって思ったんです。

 そういうときって声出ないんですね。全速力で踵返して車に乗りこんで、追いかけてきた先輩たちに早く早く早く出してくださいはやく!って全力で叫んだ。

 先輩たちに「何が見えたんだ!」って話しかけられてる最中も目つむってずっと手が見えたってだけ言い続けてました。言い続けてるのにずっと聞いてくるんですよ。


「おいどうして逃げたんだ」

「首吊ったやつが見えたのか?」

「吊った奴は?」


 ずっと、何回も何回も。それで、怖かったのと無理やり連れてきてお前ら何にも見てないくせによって怒りが頂点に達して。


「うっせえな!!知らねえよ!!吊った奴なんていなかったよ!!見えねえんだろお前ら!!手だよ!!手!!」


 って思わずブチギレたら。


「そっかぁ、もうみえないかぁ」


 って。

 後輩に、生意気な口とか利かれたら手出るような人たちなのに。納得したみたいにうんうん頷いて。それが無性に怖くて。それからは先輩たちもなにも言わないから、俺も何も言えなくて。

 家の近く通ったからすんませんここでいいですって車から降りた時にも「今日はありがとな。今度なんか奢るわ」って言われたけど、すんません大丈夫ですって逃げて帰りました。


 元々親しいグループでもなかったし、そもそも、学校にまともに通ってるかどうかも怪しいラインの人たちだったんで、その後は関わりなかったんですけど、気になるから動向探ったんですよね。

 同じ部活の別のクラスのやつの友達の兄貴の友達ぐらいの感じの薄い繋がりだったんですけど、まあ、同じ学校の人じゃなかったらしくて。

 だから、それが怖かったです。薄いつながり辿って、そういうのが見えるやつを連れて行こうとする人たちがいるってのと、見せた後にあんな反応する人たちがいるってことが。そういう人たちに関わっちゃったってことが。

 幸いなことに、その後も、今も、つながりとかは無いんですけど。

 例の小屋、前までは『吊り小屋』って呼ばれてたんですけど、今は『手の家』って名前で呼ばれてるらしいんです。


 広めたのは、たぶん、その人たちだと思います。


 怖い人って関わりたくないですよね。

 ということで俺の話は終わりです。


 次の方、どうぞ。

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