第16話 手紙
「あっ、場所を言わなかったですね……ゲオルグ様。私と一緒の場所でいいですか?」
「ああ、二人っきりで食べられるところにしてくれ」
「それなら大丈夫です。私はいつも一人ですから」
「では、すぐに行こうか」
「はい」
ゲオルグ様がそっと手を差し出そうとすると持っている花束に気づいた。
「ああそうだ。これを持ってきたのだったな……ミュリエル。これを君に」
「私にですか?」
「そうだが……あまり驚かないのか?」
「驚いてます」
こんな大きな花束なんて初めてだった。ルイス様とは隠れて付き合っていたから、こんな花束など持って帰られなくてもらったことなどなかった。でも、これは愛情表現じゃない。ゲオルグ様の側妃になったから贈ってきたのだろう。
貰う理由がなくて受け取れにくいけど、ゲオルグ様には側妃になった私に贈る理由があるのだ。そう思えば、断れなくて受け取った。
テラスへと無言でゲオルグ様と行けば、すでに二人分の昼食が準備されていた。人が増えたせいか、すぐに準備はできるらしい。料理は多めに作るからだろう。
ゲオルグ様が私の椅子を引いてお互いに座った。
「いつも、朝食はテラスだと言っていたな」
「はい。部屋へは持ってきてもらうわけには……」
「昼食もテラスなのか?」
「今は女官たちが来ましたので……ルキアがまだ慣れてないのです。今もどこかに隠れてしまって……」
ルキアは臆病な子だ。すぐに隠れてしまう。だから、はぐれたスライムだったルキアを、森に行った時に私が偶然見つけて『魔眼』の力で私が使役している。
「ミュリエル。女官を突然入れたのはなぜだ?」
「ゲオルグ様が来るのでしたら、必要かと、思いました」
「俺の?」
「はい。後宮に執事は入れられないとお聞きしてますので、アニータから女官長につないでもらってお伝えしたはずです」
「ふーん……後宮では、給仕は要らないから気にしなくていいぞ」
「そうなのですか?」
何だか不機嫌な様子になってしまった。突然前触れもなくゲオルグ様が来たから、給仕もないままで食事が始まっていると、ガヤガヤと騒ぎ出した。
そして、テラスの周りに女官となった令嬢たちが集まりレスリー様が私とゲオルグ様のそばにやって来た。
「陛下。失礼いたします」
「……何の用だ?」
「ミュリエル様にお手紙をお持ちしました。すぐにお茶も淹れさせていただきます」
「茶はけっこうだ」
ゲオルグ様が冷たく言い放つと、レスリー様が上ずった声で私に手紙を差し出した。
「で、ではミュリエル様。アルドウィン国からお手紙です」
「ありがとうございます」
「では、全員下がれ。ミュリエルとの食事時は近づかないでくれ」
「し、失礼いたしました」
ゲオルグ様が冷たく言うと、レスリー様が緊張したままで下がっていった。
トレイに乗せられた手紙を受け取ると、手紙には送り主はヴェルシアと書いてあった。
__ルイス様だ。
彼は、後宮に、グリューネワルト国に手紙を私に送ってくるときは、母方の実家であるヴェルシア公爵家の名前を使っている。
手紙も送らないようにと伝えたこともある。でも、ルイス様はずっと送ってきている。頻度は減ったにも関わらず……複雑だった。少しだけそんな表情が出てしまいながらも、ゲオルグ様の前でそんな表情を出せずに、そっと笑顔で手紙をテーブルに置いた。
「……すぐに読まないのか?」
「食事中ですから……部屋でゆっくり読みますね」
笑みを零して言うと、ゲオルグ様の眉間にシワがよっていた。
「ミュリエル。今夜は来れそうだ」
「今夜ですか?」
「そうだ。何か欲しいものがあれば持っていこう」
「……では、準備してお待ちしております。でも、贈り物は……」
「妃に贈るのは当然だ。断るのはやめてくれるか?」
「わかりました……」
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