第17話 不機嫌な竜槍陛下
夜になればゲオルグ様のお迎えの準備をして待っていた。お茶もワインも準備した。
「今夜は来るといったけど、本当に来るのかしら?」
支度を整えて今夜も来ないかなぁと思いながら髪を梳いていると、テーブルに置いた手紙が目に留まった。
ルイス様からの手紙だ。『元気でやっているか? 早く会いたい……』などと綴られている手紙は、この二年ずっと一緒だった。
胸が痛い。早く忘れてほしいのに、ルイス様は忘れてくれない。
すると、今夜も廊下からレスリー様の取り巻きのような令嬢たちの話し声が聞こえてきた。
「今夜も陛下のお渡りは、ないようね。お渡りをすると言う連絡もないですし……」
「やっぱり、側妃はウソなんじゃない?」
「妾と言っても、陛下はずっと王城におられなかったし……お金でも積んだのかしら? それで側妃にあげさせたとか?」
「ミュリエル様は、お金持ちなの?」
「バロウ伯爵家は有名らしいわ。遺物持ちだと言われているらしいけど……よくわからないのよね。アルドウィン国に旅行に行った時も、ミュリエル様なんて見たことないし……」
「変な伯爵家ね……令嬢が社交界で見ないなんて不思議だわ」
「後宮でも、ずっと一人だしね」
「このままだとレスリー様についていたほうがよさそうね。レスリー様なら、陛下の目に留まるかもしれないし、公爵令嬢なら側妃のミュリエル様よりも上にさせるはずよ」
「ということは、レスリー様は正妃に?」
「可能性はあるわよ。陛下の目に留まれば、きっと無視できないわ」
女官の仕事をほとんどしない理由がわかった。毎日毎日アニータの仕事が増えていた。洗濯物も増えて、食事も増えた。部屋の掃除も……。彼女たちは、陛下となったゲオルグ様の目に留まるために後宮に来たのだ。
ゲオルグ様が言っていた。縁談を勧められて困っていると……。
そのために私を側妃にあげたのに、何だかゲオルグ様の縁談を応援していることになっている。
「あの……」
突然音もなく部屋の扉を開けると、令嬢二人が肩を震わせて驚いた。
「ミュ、ミュリエル様!? ど、どうされました?」
「突然ごめんなさい。先ほどの話し声が聞こえてしまって……」
「聞こえましたか?」
「はっきりと聞こえました」
バツが悪そうに二人が顔を見合わせる。でも、引く気はない様子だった。
「あの……女官として働く気がないのでしたら、後宮をお暇ください」
「……っ! じ、自分だけの後宮だと思っているんですか! 後宮に一人なんてありえませんのよ!?」
「でも、女官として来たのに仕事をしてもらわないのは困ります」
「その仕事はミュリエル様のお付きですわ! ですが、ミュリエル様は近づかないようにと、私たちに言いつけているではありませんか! 陛下のお渡りも一度もありませんわ!」
「それは、事情がありまして……でも、先ほどのお話だとレスリー様に付くと言われてました。ですので、ここではすることがないと思われます」
実際に私のところに来ても、令嬢たちはゲオルグ様がいつ来るのかを気にしてばかりだった。私の発言にカッとした令嬢が声を荒げた。
「妃に相応しいのは、グリューネワルト国の令嬢ですわ! ミュリエル様ではありません!!」
怒らせてしまった。兄上も私を見るだけで不愉快そうだったし、彼女たちも同じなのかもしれない。そう思えば、私は話し方もダメなのだろう。落ちこんでしまう。
「何をしている?」
令嬢たちがカッとした時に静かな声が響いた。ハッとすれば、ゲオルグ様が廊下の壁に腕を組んで立っていた。
「なぜ、ミュリエル以外の女がここにいる? ここはミュリエルの部屋だろう?」
「へ、陛下! 私たちは後宮の女官に……っ!」
「口を慎め。お前には聞いてない」
ゲオルグ様が私に近づきながら令嬢たちを制した。
「ゲオルグ様……お会いできて光栄です」
そう言いながら、ゲオルグ様がそっと私を抱き寄せた。
「ああ、会いたかった。だが、これは何事だ?」
「あの……こちらの方々は女官として来られた方々で……」
「ふーん……で、仕事をしない者を辞めさせたいのだな」
本人を前にして、そうだとは言いにくい。でも、言いにくい私を察したのか、ゲオルグ様がはっきりと言った。ゲオルグ様に隠せなくて頷いた。多分、私たちのやり取りを聞いていたのだろう。威圧感たっぷりでゲオルグ様は私を見下ろしている。
「……ということだ。お前たちはすぐに去れ」
「そ、そんな……」
「礼も取れない、挨拶も出来ないような女はいらん。それとも、俺の邪魔をする気か? 俺は大事な妃に会いに来たのだ。来た理由も見たいのか?」
「「し、失礼いたしました!!」」
ゲオルグ様に睨まれて、バタバタと焦って走り去っていった令嬢たち。
「ゲオルグ様……凄いですね。眼力一つで逃げて行きました」
「世間知らずの令嬢には、くどくど話よりもこのほうが早い」
「世間知らずですか? 社交界のこととか、私の知らないことをたくさん知ってそうでしたよ」
「しょせんは貴族のなかだけのことだ。それよりも部屋に入れてくれ」
「は、はい。すみません。気が利きませんで……っ」
慌ててゲオルグ様を部屋に入れようと、扉を開けた。すると、彼が扉に手をついて扉を止めた。
「ゲオルグ様?」
すると上から影が差した。そっと、ゲオルグ様が腰を屈めると、彼が私に口付けをした。
静かな口付けは不意打ちで、思考が止まった。
「では、部屋に入ろうか」
「は、はい」
ぱたんと扉を閉める。部屋に入れば、ゲオルグ様は少しだけ不機嫌だった。
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