第13話 竜槍
「ミュリエル……そんなわけないだろう」
「間違いないのですけど……」
まったく信じてないのか、ワインを飲みながらじっと見ていた。
「ルイスと付き合っていたのではないか……恋人同士だと聞いた。ルイスは君のことを頼むときに、ずいぶんと心配していたが……」
「お会いして頼まれたのですか?」
「なんだ。知らなかったのか? 君を受け入れる前にアルドウィン国を訪問していたのだ。その時にルイスに頼まれた。どうしても家から出してやりたいのだと言って……」
「ルイス様が……」
「……ルイスは、君がずいぶんと好きらしい。いずれ返して欲しいとは言っていたが……」
「でも、妃になれば私はルイス様のところには……」
「だから、側妃だ。正式な結婚ではないからな。だが、そんなルイスと君が同衾してないなど……」
「で、でも本当なのです」
「では、何の閨の薬だ? 血でも買いに行ったのではないのか?」
「そ、それは……あの……避妊薬です」
「避妊薬? なぜ、必要なんだ? 側妃にしたのだから、必要ないだろう? 懐妊すれば、すぐにでも正妃にするが……」
「で、でも、ゲオルグ様は遺物持ちだと聞いてます! グリューネワルト王国の王族も遺物を持っているとっ……だから、どちらかの遺物しか受け継がれない可能性があるのならっ……」
私とルイス様はそれが原因で別れるしかなかったのだ。
「そうだが……ああ、知らなかったのだな。グリューネワルト一族の遺物は少し違うのだ」
「違う? 私たちの遺物とは違うのですか?」
「俺たちは、竜の一族だからな。産まれた時から遺物を身体に宿しているわけではないのだ。だから、ミュリエルたちとは違う」
そんなことがあるのだろうかと、思わず首を傾げてしまう。
「グリューネワルトの一族の誰かが遺物に選ばれるのだ」
「私たちと違いますか?」
「そうだな。選ばれるまでは、グリューネワルトの遺物はグリューネワルトの塔に安置されている」
思い出せば、後宮からもお城を見ると一際大きな塔が見えた。
「じゃあ、身体には宿してないのですか?」
「我が一族は、選ばれて初めて遺物を身体に宿すのだよ。俺たちの一族はそうやって代々遺物を受け継いできた。だから、グリューネワルトの血さえ絶えなければいいのだ」
そう言って、ゲオルグ様が「こちらへおいで」と言って立ち上がった。彼のそばにいくと、目の前で召喚するように手のひらが魔法で光り、槍が出てきた。
「……黒い槍……青く光ってます」
「これが竜槍ブリューナグだ」
「だから、竜槍陛下?」
「そう呼ばれているな」
ゲオルグ様ほどもある等身大の槍は黒みを帯びており青く光っている。美しいと思い、思わずも見とれてしまっていた。
すると竜槍を身体の中に戻したゲオルグ様が私の頭を撫でた。
「話はわかったか?」
「わかりましたけど……ということは……」
避妊薬は要らないということだ。竜の血さえ引いていればいいのだから。
思わず、顔がぼっと赤くなる。
ちらりとゲオルグ様を見上げた。
「遠慮なく孕んでくれ」
なんだろうか。勝ち誇ったような笑みに見える。
それに、ゲオルグ様との伽に問題はないということだ。
「いつでも懐妊していいから、心配することはない。ということだ。それにしても、避妊薬を買いに行くとは……予想外の行動だったな」
「す、すみません……っ」
「つまらん女よりいい」
こんな予想外の女性なんていないと思う。しかも、グリューネワルト一族の詳しいことすら知らなかった。国が違うから仕方ないと言えば仕方ない。
「ミュリエル」
「はい」
「近いうちに手を出すが……そのつもりでいてくれたらいい」
「は、はい」
「では帰るか。後宮まで送ろう。また迷子になりそうだ」
「す、すみません」
私が迷子になりそうなのか、ゲオルグ様が手を繋いだ。ルキアに「おいで」というと、いつものように私の肩に飛び乗った。そして、フードを羽織りまた目深に被った。
「それと、ミュリエル」
「はい」
「君の『魔眼』は綺麗だった。隠す必要はない。少なくとも俺の前ではそのままでいればいい」
綺麗だなど言われたことはなかった。瞳孔が薄くなり色味も薄くなる。人間の感情がないような眼になるのだ。でも、それをゲオルグ様は綺麗だと言ってくれた。
「ゲオルグ様……ありがとうございます」
嬉しくて微笑んで言うと、ゲオルグ様がそっと頬に口付けをした。
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