第5話
そうして始まった、船上の宝探し。
ガキどもは暗号の書かれた紙を受け取り、暗号を解いて示された場所へと向かう。
そこで待ち構える人魚から出題されるクイズに正解すると、キーワードのスタンプを台紙に押してもらえる。
と、そんなルールになった。
……人魚たちが、めっちゃ参加したがったからそういうルールになったんだよ。
監視員だけじゃ我慢できなかったらしい。
「人魚のおねえさん、そうだしつって、ここ~?」
「そうだよ~☆ あ、今のダジャレじゃないからね~☆」
出題の担当になれなかった人魚も、楽しそうに監視員をやってくれている。
年少組のガキどもが操舵室に入ると、そこに待ち構えていた人魚が腕組みをして出迎える。
「よくぞここまで辿り着いた、小さき挑戦者たちよ☆」
あぁ、こーゆーの好きそうだよなぁ、人魚は。
「では、問題! そこの棚に並んでいる貝の中から『いっちば~んギザギザで、巻っき巻きの貝』を持ってきてね~☆」
と、操舵室に設置された棚を指差す。
そこには多種多様な貝が並んでいる。
この中で一番ギザギザで巻っき巻きなのは、サザエだな。
「は~い、せいか~い☆」
「「「わーい!」」」
「この貝は、サザエっていうんだよ~☆ 覚えて帰ってね~☆」
「「「さざえー!」」」
見事サザエを人魚に渡したガキどもが、スタンプをもらって大はしゃぎしている。
そこへ、年長チームがやって来る。
「うっそ!? お前ら、あんな難しい暗号、もう解いてたのか!?」
自分たちよりも先に操舵室に来ていた年少組に驚きを隠せない年長組。
だって、暗号の難易度、年齢によって変えてあるもん。
年少組の暗号は――
『なんでも
1、そうだ
2、そうじゃない室
3、さぁ~どっちだろうねぇ~?室
ヒント:『肯定』っていうのは「そうだよ~」っていうことだよ☆』
――みたいな難易度だ。
ちなみに、年長組の暗号は、文字がズラーッと並んでいる16×16マスの表の横に、掛け算や割り算の式が並んでいて、計算をして答えの数字の縦列横列に書かれている文字を並べると「そうだしつ」という文字が浮かんでくるという暗号になっている。
『一文字目は、縦「問1の答え」、横「問2の答え」』みたいな感じで。
勉強を真面目にしていれば出来る暗号だ。
ちなみに、この暗号、ベルティーナが物凄く喜んでいた。
こういう遊びの中に勉強を取り入れる手法を真似すると意気込んでたなぁ。
「ではでは、年長組への出題は~☆ 『アコヤ貝』を持ってきてね☆」
「えぇー、難しいよー!」
「名前言われても分かんないー!」
「食べたことあるかなぁ?」
人魚の出題も難易度が上がっている。
「俺、ホタテしか分かんない!」
「わたしもー!」
「ヤシロお兄ちゃんがいっつもホタテホタテ言ってるから覚えちゃったよね~」
……俺のせいにすんな。
「いやいや、ヤシロ君のせいだよ~☆」
俺と一緒に、イベントの進行を見守っていたマーシャに濡れ衣を着せられる。
人類がホタテを認識するのは動物としての本能的に当然のことなのに。
自然の摂理とも言えるだろう。
「じゃ~、大ヒント~☆ アコヤ貝は~、真珠を作る貝で~す☆」
「あっ! ヤシロお兄ちゃんに聞いたことある! 真珠が出来る貝は、貝殻の内側が真珠みたいにキラキラしてキレイなんだって!」
「よし、中見よう!」
一つの情報をもとに、全員で分担して作業に当たれる。
この辺は、さすが年長組だな。
「難易度を調整したおかげで、みんなが楽しめてるみたいだね~☆」
こういのって、年長が年少の面倒を見るために楽しみきれないことが多いからな。
結構我慢してるヤツもいるから、こういう時くらいは精一杯楽しませてやりたい――と、ジネットが強く訴えてきたのでそうなるように調整したのだ。うん、ジネットが言ってたから。
「あぁ~、最後だったぁ~」
年長組が無事にアコヤ貝を見つけ出し、スタンプを押してもらっているところへ、年中組がやって来る。
このチームは、とにかくメンズがクソガキで、女子たちは苦労しているのだろう。
ヤギ耳少女が悔しそうにほっぺたをぷっくり膨らませている。
「もうプレゼントないかなぁ?」
「んなことねぇから、クイズ出してもらってこい」
「ホント? 最後でもいいヤツ残ってる?」
「安心していいから、ゲームを楽しめ」
「うん! ヤシロお兄ちゃんがそう言うなら、信じる!」
にこーっと笑って、出題人魚の方へと駆けていくヤギ耳少女。
「信頼されてるねぇ~☆」
「男に騙されるタイプだな、あいつは。ベルティーナに注意喚起をしておこう」
マーシャがくすくす笑う隣で、年中組の奮闘を見守る。
こういうチームワークが必要なゲームは、年中組が一番苦戦するかもなぁ。
年長組はそこそこ要領いいし、年少組はそもそも問題がめっちゃ簡単だから。
「ヤシロお兄ちゃん! アサリ、シジミ、ハマグリ、アワビの中で仲間外れってどれー!?」
「自分たちで考えろ」
いきなり答えを聞こうとしてんじゃねぇよ。
そこに実物があるだろうが。
「ほれ、これがアサリ、こっちがシジミ。んで、これがハマグリで、こいつがアワビだ」
「分かった! シジミだけ水着に出来ない!」
「バカモノ! シジミでも水着は作れる! いや、むしろシジミこそが!」
「ヤシロく~ん? お子様の前では自重しよ~ねぇ~?」
マーシャがおいでおいでしてる……人魚の手招き、怖っ!?
「貝の形をよ~く見ると分かるかもよ~☆」
「あっ、アワビだけ貝殻が一枚だよ!」
「うわっ、マジだ!?」
「誰か食べようとして剥いたんじゃないの?」
で、じーっとこっちを見るな、ガキども。
アワビはもとからそーゆー貝なんだよ。
「じゃあ、アワビが正解だと思う人ー?」
「「「「はーい!」」」」
ほい、正解。
満場一致でアワビが選ばれ、ガキどもは人魚に正解のスタンプをもらっていた。
アワビ以外はみんな二枚貝。アワビだけが違う。
アワビは、二枚貝のように平べったいのでたまに間違われるのだが、実は巻貝なのだ。
「じゃあ、私たちもそろそろ行こうか?」
「そうだな」
第一チェックポイントを全員が無事通過したので、俺たちも移動する。
ちなみに、特別参加枠のハムっ子選抜チームは、どこよりも早く謎を解き、独走状態で次のチェックポイントに向かっている。
ハムっ子だけは、キーワードもプレゼントも違うんだけどな。
ハムっ子たちのプレゼントは年長組が金を出し合って全員にお揃いの帽子と靴を買っていた。
あと、ロレッタが物凄く頑張って方々に許可を取り、『ハムっ子全員参加クルージング券』を手に入れている。
こちらは、プレゼントする側の長男次男次女三女にも内緒のサプライズプレゼントだ。
ロレッタも、ちゃんと長女してるな。
今回一緒に乗れなかった弟妹へのフォローというわけだ。
……うっかり船を沈めないようにだけ、強めに言い聞かせておこう。
人魚対ハムっ子なんて、目も当てられない惨状になりそうだからな。
これ以降のチェックポイントにはデリアやイメルダたちが分担して立っている。
なので、俺たちは甲板へ向かい、最終試練『海のお魚、手掴みゲーム』の準備に向かう。
あ、実物の魚じゃなくて、魚のイラストが書かれたカードを手掴みするんだけどな。
ほら、温水で淡水だから、浅瀬のプール。
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