第4話
という感じで、あっという間に豪雪期が終わり、年末。
ガキどもへのプレゼントも用意した。
年少組には絵本。
年中組には人形か合体ロボ。
年長組にはぬいぐるみか探検七つ道具セット。
という具合に、年齢や性別に合わせたものにしてある。
探検七つ道具セットは、虫眼鏡、ピンセット、ホイッスル、ノート、ペン、小さい光るレンガのペンダントとそれらを一緒に収納できる麻袋の七つだ。
探検とか言ってるが、昆虫採集や植物観察に使えるような内容になっている。
ホイッスルは、危険が迫った時のための防犯用だ。
ちなみにぬいぐるみは、女子たちの好みをジネットとベルティーナから聞いて作成してあるので確実に喜ぶはずだ。
各人も、それぞれこの日に合わせて準備を進めてきていた。
細工は流々、という感じか。
そして、クリスマス当日になり、俺たちは海漁ギルド所有の豪華客船へと乗り込んだ。
「ヤシロさん、プールの設置完了したッス!」
豪華客船の甲板に、どどーんとデッカいたらいが鎮座している。
たらいというか、樽というか、とにかくデカ過ぎて何がなんだか分からないものになっている。
「これが、浅瀬プールか」
「どうせなら広々使ってほしいって、マーシャさんが言ってたらしいッス」
又聞きなのは、お前の病気のせいだよな、ウーマロ。
現場の責任者とはコミュニケーションをしっかり取れよ。
「ヤシロさん、こちらが年齢別暗号シートですわ」
イメルダがデザインしてベッコが作った暗号カードは、冒険心をくすぐるいいクオリティになっていた。
俺が見ても、ちょっとわくわくしちゃう出来だ。
暗号は年齢別に難易度が異なり、たとえば、手に濁点が振られたイラストの横に、頭が小さくて体のでかい人間の体に月と書かれたイラストが並んでいるような感じで、手に濁点で『で』、頭が小さい月で『っき』、続けて読むと『デッキ』、つまり「甲板に行け」ということになる。
そんな感じのなぞなぞ暗号を年齢別に作り、豪華客船の中をあっちこっちと移動させて、チェックポイントにいる人魚から出されるクイズに正解するとスタンプがもらえる、スタンプラリーになっている。
スタンプには一つの文字と一つの数字が刻まれていて、数字順に文字を読むとお宝がもらえる秘密の呪文が完成するというわけだ。
まっ、そんなもんはどーでもよくて!
「あぁ~、今日あったかくてよかったねえ、ネフェリー」
「あ、待ってパウラ。肩紐、ねじれてるから直してあげる」
「おっ、ミリィはあたいとお揃いの水着なんだな」
「……ぅぅ、お揃いだけど、全然仕上がりが違ぅょぅ……」
「ビキニ率が高いのは、誰かの思惑なんかぃねぇ?」
ひゃっほぅ~い!
水着パラダイス☆
そして、ビキニパラダイス☆
「まぁ、みんな。思うところはあるかもしれんが、全部子供たちのためだ」
「そういうセリフは、鼻の下を伸ばさずに言うべきだよ、ヤシロ」
「その緩みきった顔をどうにかしろ、カタクチイワシ!」
俺に注意をしてくる領主二人も、もちろんビキニ☆
ルシアはヘタレてパレオとか巻いてるけども。
ヘタレてんじゃねぇーよ。
けど、それでも!
「二人とも、よく似合ってるぞ☆」
「ぅぐっ、し、締まりのない顔で言わないように!」
「見るな、カタクチイワシ! ギルベルタ、パレオをもう一枚用意せよ! あれ? ギルベルタはどこだ? ギルベルター!?」
いや、何枚巻くんだよ、パレオ。
あと、ギルベルタはナタリアと一緒に会場の準備してんだよ。邪魔せずそこで大人しくしてろ。
「ヤシロさん」
とことことやって来るジネット。
「どうでしょうか? 変じゃないですか?」
「よく似合ってるぞ。場が華やかになっていいな」
「……ぇへへ」
今回は、クリスマスパーティーということで、ジネットにはサンタコスをしてもらっている。
ビキニの上に、白いファーの付いた赤いへそ出しキャミソールと超ミニスカート。
「特別な衣装をありがとうございます。水着が隠れて、少しだけですが恥ずかしさが紛れました」
ビキニを若干隠すミニキャミ、ミニスカ。
ジネット的には少しでも隠れてほっとしているらしいが……
それ、実に素晴らしい衣装ですから!
超ミニへそ出しサンタコス!
陸地では絶対にやってもらえない、攻めた衣装!
それでも、あら不思議! 周りに水着が溢れていると「そーゆーものか」と思って着てくれちゃう!
木を隠すなら森。
超ミニを着せるならビキニ!
まさにこれ!
「お兄ちゃ~ん! 着替えてきたですよ~!」
「……今宵のマグダは、ワインレッドの心」
「みんなでお揃い、嬉しいです」
「みんな、いっしょ、ね!」
とたとたと、陽だまり亭一同が集まってくる。
全員、ジネットと同じくサンタコスだ。
カンパニュラとテレサはお子様なのでワンピース水着だけどな。
赤いスクール水着にマントとスカートを付けたような感じで、……あれ、なんだろう、ちょっと美少女戦士スク水ムーンみたいに見えるな。
ティアラでも作ってやればよかったか。
「みんな似合ってるぞ。その可愛い衣装で盛大にパーティーを盛り上げてくれ」
「まっかせてです!」
「……船上に咲くマグダは、さながら赤いスイートピー」
うん、マグダ。そろそろやめとこうか。
偶然だとは思うけども。
「……紅に染まった、このマグダ」
「よし、マグダ。ガキたちを乗船させるよう、マーシャに伝達を頼む」
「……任された」
……ふぅ、危ない危ない。
マグダのやつ、八十年代の日本に来たことあるんじゃないかな? マジで。
え、全部偶然?
じゃあお前の仕業か、『強制翻訳魔法』。
大概にしとけよ。
「ヤシロ様、諸々の確認、完了しました」
「報告する私は、問題はないと」
「よし。ありがとな」
会場は、ミリィの花によって綺麗に彩られ、実に華やかになっている。
中でも目を引くのは甲板にそびえる巨大クリスマスツリー!
実に見事なツリーだ。
このデカい木を、ミリィが軽々抱えて甲板まで上がってきた時は度肝を抜かれたけれども。
だって、陸地から8メートルも階段を上がらないといけないんだぞ、この船?
とってもチャーミングな笑顔でツリーを飾り付けてたなぁ、ミリィ。
そして、飾り付けも完成し、今回の目玉となる浅瀬プールのスタンバイも終わり、料理の下拵えも万全で、いよいよ開場を待つばかり。
海上の会場が開場する!
「ぷぷぷー! おもしろ!」
「ヤシロ様は、非常に自分に甘い時がありますよね」
「好き、私は、友だちのヤシロのオヤジギャグが」
オヤジギャグとか言わないで、ギルベルタ!?
体はまだティーンだから!
そうこうしているうちに、「わー!」っと元気な声と階段を駆け上がってくる音が聞こえてくる。
ガキども、あのクッソ長い階段を駆け上がってくるのか。
体力、無尽蔵か。ちょっと分けろ、その無駄な体力。有効活用してやるから。
さて、そんな8メートルもある階段の上り下りなどという過酷な苦行には耐えられない俺のようなか弱い者のために、今回もハビエルを動員して人力エレベーターを稼働させている。
「ほいさっ! ほいせっ!」
何事もないように、人が乗った巨大コンテナを引き上げるハビエル。
滑車を使っているとはいえ、人間業じゃない。
「よっ! ナイスバケモノ!」
「がはは! 褒め過ぎだぞ、ヤシロ」
ちっ、皮肉も通じねぇ。嬉しそうな顔しやがって。
「ほい、到着だ。足元に気を付けて降りるんだぞ」
「「「はびえるおぃたん、ありがとー!」」」
「「「ありがとー!」」」
「どういたしまして~!」
顔の筋肉融解してるぞ、ハビエル。
階段を上り切れないお子様が大量にいるからな。
そりゃハビエルも頑張るわ。
「ありがとうございます、ハビエルさん」
「気にしないでください、シスター。さぁ、足元に気を付けて」
「ご親切にありがとうございます」
わずか数センチの段差があるからか、ハビエルがベルティーナの手を取りエスコートしている。
すげぇ紳士っぽい!?
あと、敬語なんだな!?
ハビエルのヤツ、守備範囲外には一切の下心を抱かずに接することが出来るのか。
「あいつ、犯罪者だな」
「まともにエスコートしただけで、エライ言われようだな、おい!?」
あ、聞こえちゃった。
で、なぜハビエルが幼女たちに鼻の下を伸ばし放題していられるのかというと……アイツがまだ出てきていないのだ。
おーおー、噂をすれば。
「着替えるのに手間取ってしまいましたわ」
全員が甲板に集まったところで、イメルダが颯爽と水着姿で更衣室から現れた。
深紅のビキニに、夜空の星を思わせるような煌めくラメが広がる、なんともゴージャスなビキニ。
プロポーションは言わずもがな、完璧だ。
「わぁー、イメルダお姉ちゃん、きれー!」
「かわいー!」
「えぇ、存じておりますわ!」
謙遜という言葉を知らないらしいイメルダが、ガキどもの声援に余裕の笑みで応える。
……あいつ、一番注目されるタイミングを狙ってやがったな?
威風堂々と、パーフェクトボディをこれでもかと見せつけ、甲板を練り歩くイメルダ。
ウーマロは後ろ向いてるのに、漂ってくる色香で倒れ、ベッコはなんか幸せそうな顔で息絶えていた。
凄まじい威力だこと。
「いかがでして、ヤシロさん?」
「うん、すっげー似合ってる」
「……きゅっ」
いや、照れんのんかい!?
どういう情緒をしてるんだ?
イメルダの周りに集まりわーわー騒ぐガキどもを見て、ベルティーナがくすくす笑う。
凄まじいもんな、ガキどものはしゃぎっぷり。
もう笑うしかないか。
「イメルダさんは、女の子たちにオシャレを教えてくださるので、とても人気者なんですよ、特に女の子に」
「まぁ、プロに物を教わるのはためになるからな。小さいうちからいろいろ吸収させてもらうといい」
やがて、教会のガキが成長してオシャレ女子が増えるかもなぁ、四十二区。
それから、ベルティーナはぐるりと甲板全体を見渡す。
「素敵な会場ですね」
「今日だけの特別仕様だ」
「素敵な思い出になりそうです」
そんなことを言うベルティーナの目の前を、ビキニ姿のデリアとノーマが通り過ぎていく。
その姿を視線で追って、微かに頬を染めるベルティーナ。
そうか、ビキニが気になるか。
「じゃ、ベルティーナも着替えようか」
「い、いえ、私は……」
「ぅひゃあ!」
ベルティーナが水着を拒絶しようとした時、浅瀬プールを覗き込んでいた小さいガキが頭からプールにハマった。
「大丈夫ですか!?」
普段のおっとりとした動作からは想像も出来ないくらいの俊敏な動きでプールへ飛び込むベルティーナ。
だが、この場所にはもっと機敏な者たちが大勢いる。
デリアとマグダがプールに飛び込み、ガキが溺れる前にさらっと救出していた。
あっという間に助け出されたガキと、それを抱えるデリアと、ガキの顔をタオルで拭いてやっているマグダと、シスター服のままプールに入って立ち尽くすベルティーナ。
「シスター、プールに入るなら水着に着替えてからにした方がいいぞ」
「……濡れた服を着ていては、風邪を引く」
「そう……ですね。お二人とも、ありがとうございます。その子を助けてくださって」
無駄足に終わってしまったが、ベルティーナの優しさは十分に伝わった。
何が起きたか分からず呆けていたガキが、今になって泣き始める。
デリアの腕から逃げ出して、水をバッシャバッシャ跳ねさせて、泣きながらベルティーナの方へと駆けていく。
それをしゃがんで受け止めてやるベルティーナ。
「じずだぁー!」
「はい。怖かったですね。無事でよかったです。ですが、ちゃんと言いつけを守らなければいけませんよ」
「ごめんなさい……」
「はい。もう大丈夫ですからね」
よしよしと、頭を撫で、濡れたガキを抱きしめてやるベルティーナ。
あ~ぁ、もうびっちゃびっちゃじゃねぇか、服。
「シスター」
ジネットが困り笑顔でベルティーナのもとへと向かう。
「その服、パーティーの間に乾かしておきましょうね」
「すみません、ジネット。お願いしますね」
こうして、無事、ベルティーナも水着に着替えることになった。
ひゃっほ~ぅい!
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