第3話
その後、参加者を陽だまり亭に集めてクリスマスパーティーの概要を説明する。
「海漁ギルド全面協力により、船上のクリスマスパーティーを開催することになった。目玉企画は、宝探しだ」
宝探しは、ガキどもがメインで楽しむものなので、大人チームはガキどもが暴走しないように注意を払いつつ、うまいこと誘導してやってもらいたい。
「それだけではつまらないので、大人チームにもお楽しみを用意した」
「ヤシロ~、ミリィがこっちにいるけど、いいのか?」
「でりあさんっ、みりぃは大人!」
「まぁ、カンパニュラとテレサもこっちだし、そこまで厳密に線引きするつもりはない」
カンパニュラとテレサをお子様チームに入れても、難易度が低過ぎて楽しめないだろうからな。
「ガキども用の子供騙しなプレゼントは適当に用意するからいいとして、大人チームはプレゼント交換をしたいと思う」
各自が一つプレゼントを用意して、誰のプレゼントが誰に当たるか分からないようにシャッフルして配る、的なヤツだ。
単純だが、結構盛り上がる。
「お前らには当日、子供が危険なことをしないように見張ってもらうことになると思うから、ゲームには参加できないと思うんだ。だからせめて、そういう楽しみをと思ってな」
「お気遣いいただき、ありがとうございます」
「あたい、子供たちの面倒見るの、全然嫌じゃないぞ」
「私も、微力ながらお手伝いさせていただきますね、ヤーくん」
「あーしもー!」
その場にいた面々が、それぞれ頼もしい言葉をくれる。
みんな、ガキどもの面倒を見ることに不満はないようだ。
「私は、適度な距離を取っておくね~☆」
まぁ、中には、ガキが苦手な大人もいるけども。
宝探しは、あくまでガキがメインの企画。
大人チームは裏方だ。
なので、ゲームの後はプレゼント交換をして、その後、ご馳走を囲んで盛大にパーティーを開催する。
そうすれば、ここにいる連中も満足してくれるだろう。
「ただし、プレゼントは誰に当たるか分からないから、一部の人間しか使えないようなものは控えてほしい」
「お兄ちゃん、たとえばどんなのを避ければいいですか?」
「スケスケパンツとか」
「そんなもんを選ぶのは君くらいだよ」
「言われなくても、そんなものは選びませんわ」
「もう、懺悔してください」
エステラとイメルダに冷ややかな視線を向けられ、ジネットに叱られる。
「分かった。お前らがそこまで言うのであれば、スケスケパンツは『有り』とする」
「そんな譲歩が欲しかったわけじゃないさよ、エステラたちは」
ノーマまで冷ややかな目を。
この辺、気温低くない?
「例によって、あんまり高価な物にはしないように」
「そうだね。300Rb以内に収まるようにしておこうか。その方が、もらう方も気が楽だろうしね」
エステラがさっと金額を決める。
三千円程度の物ならやり取りも容易か。いい値段設定だ。
「あと、エステラはナイフ禁止な」
「なんでボクだけ名指しで禁止事項設けるのさ!?」
「言わなければ、エステラさんはまず間違いなくナイフになさいますものね」
「あたい、ナイフは別にいらないなぁ」
「えぇ~、ちょっと待ってよデリア。ナイフって、集めると楽しいんだよ?」
いいんだよ、お前の趣味を布教しなくて。
一人で好きなだけ集めてろ。
「それで、今回の裏目標なんだが……、教会のガキどもはカナヅチが多過ぎるので、小さいうちから水に慣れさせて、ゆくゆくは泳げるようにしてやろうと思う」
これまでまったくと言っていいほど水遊びをしていなかった教会のガキどもは、そのほとんどが泳げない。
川遊びが大好きなハムっ子がカッパ並みに泳げることを鑑みれば、幼少期から親しんでおくことがいかに重要か分かると思う。
なので、最終試練のキーワードは甲板に設置する浅いプールの中にばらまく予定だ。
「小さなガキでも溺れないように深さは大人のヒザくらいにする予定だが、それでも油断すれば溺れるのがガキという生き物だ。なので、お前たちには交代でプールのそばを、それとなく見張っていてほしい。何かトラブルがあれば、プールに飛び込んでガキどもを助けてやってくれ」
「ノーマには無理だろうから、あたいに任せとけ」
「ヒザくらいの深さならアタシだって対応できるさね!」
おぉ、いいぞデリア。
うまいことノーマがノッてきてくれた。
よし、あとは……
「一応、水着は用意しておくから、必要なら使ってくれ」
「いや、別に水着に着替えるほどのこともないんじゃないのかい? 浅いんだから」
甘いな、エステラ。
「パニックを起こしたガキは、飛びついてくるぞ?」
「あぁ、そうですね。それに、甘えたい盛りの子もいますから、濡れた体で抱きついてくるかもしれませんので、念のため水着は着ておいた方がいいですね」
教会でガキの体を洗ってやった経験のあるジネットが、しみじみと言う。
そういう経験があるのだろうな。服をびっちゃびちゃにされた経験が。
「水の中のことは、マーたんたち人魚に頼めばよかろう」
ふふん、ルシア。
そーゆーことを言うヤツがいるだろうということは予測がついていた。
なので、それを封じる手段をすでに用意している。
「浅瀬のプールは甲板に設置して、水路とは繋げない。水路と繋がっていると、思いもよらない事故でガキが水路にハマってしまうかもしれないからな」
「それは危険ですね」
「仮にジャンプしてプールに飛び込んでくれたとしても、人魚たちは水を怖がるガキを外に連れ出してやれないだろ?」
「確かに、プールの中で泣かれてしまうと大変そうですね」
もし自分が助けに入ったと想定して、その場面を想像してみろ。
服を着たままプールに飛び込んで、溺れかけてギャン泣きするガキを抱っこしつつあやしている様を。
服はべちゃべちゃ、水を吸って毎秒重くなり、張り付いて気持ち悪い服は容赦なく体温を奪っていく。
どうにかしたくても、しがみつくガキが手を離さないから為す術なし。
な?
さっさと外に出た方がいいだろう、客観的に見ても、主観的に見ても。
「というわけで、宝探しの間は全員水着でガキどもを監視するように」
「……なんか、うまいこと丸め込まれた気がする」
気がするだけなら大丈夫。
いちいち気にすんなよ、そんな些末なこと。
……ふふふ。
今日お前らが着ていたワケ分かんない水着もどきなどではなく、ちゃんと可愛い水着を今年も見せていただこうではないか! ふはははは!
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