第2話

 俺がそう宣言すると――


「なになに、それ!? 詳しく教えて、ヤシロ君☆」

「小耳に挟んだぞ。私にも詳細を教えよ、カタクチイワシ」

「オイラ、何を作ればいいッスか?」

「大工はすっこんでな。船の上なら、金物の出番さね。ポンポン蒸気船や噴水装置の実験でそれは証明されているんさよ」

「またワタクシの華麗な釣り竿さばきをご披露する時が来たようですわね!」

「ヤシロ、また釣りするのか!? あたい、頑張るぞ!」

「ねぇ、それって年末だよね? 日程は早めに教えてね、カンタルチカお休みしなきゃいけないから」

「私も、ニワトリのお世話をお父さんたちにお願いしとかなきゃ」


 ――グイグイ来るタイプの連中が一気に釣れた。


「……料理は、陽だまり亭にお任せ」

「美味しいご馳走をたくさんご用意しちゃうですよ! ――店長さんが!」

「はい。腕によりをかけて作りますね」


 陽だまり亭チームもやる気十分だ。


「カンパニュラとテレサも頼むぞ。本番は大忙しになるだろうからな」

「はい。お任せください。姉様たちに負けないよう、精一杯務めさせていただきます」

「つょめにさしましゅ!」


 惜しい、テレサ。

 強めには刺すな。弱めにも刺すな。な?


「ミリィ、また会場を飾る花をお願いしていいか?」

「ゎぁ、ぃいの?」

「あぁ。船の上を華やかに飾るなんて、ミリィでなきゃ出来ないだろ?」

「そんなこと、ないょ……でも、がんばる、ね!」


 こうやって、グイグイこないタイプのメンバーも誘っておく。


 そして。


「ベルティーナ」

「はい?」


 こいつにも参加してもらおう。


「ジネットがご馳走を作ってくれるってよ」

「それは魅力的なお誘いですね。ですが、その日は子供たちもパーティーをしたいでしょうから、私だけ船に乗るわけには――」


 断りの返事を寄越すベルティーナを、「ちょいちょい」っと手招きで呼び寄せる。


「ガキどもに、船の上でサプライズパーティーを仕掛けてやりたいんだが……仕掛人になってくれないか?」

「子供たちにですか?」


 ベルティーナの瞳がきらりっと輝いて、興味深そうにこちらを見つめてくる。


「ジネット、ちょっと来てくれ」

「はい」


 ジネットも呼んで、二人に詳細を話して聞かせる。


「海漁ギルドの船はとても巨大なんだ。その船を使って、宝探しゲームをやってみたいと思う」

「「宝探しゲーム……っ、ですか?」」


 思わず声が大きくなりかけた二人に「しー!」っと合図すると、二人揃って口を押さえ、声を潜めて小首を傾げる。

 ほんっとそっくりだな、この母娘。


「謎めいた暗号を解読し、豪華客船の中に散りばめられたキーワードを集め、合言葉を完成させた者には素晴らしいお宝が贈られる――と、そんな感じだ」

「それは楽しそうですね!」

「でもシスター、子供たちに暗号の解読なんて、少し難しくないでしょうか? わたしもちょっと自信が……」

「大丈夫だ、ジネット。ガキにも解ける難易度だから」


 謎めいた暗号なんて言葉は、雰囲気を盛り上げるための方便だ。

 所詮はタヌキの暗号くらいのもんだ。


「試しに、この暗号を解いてみろ」


 と、その場でさらさらと書いた暗号をジネットに渡す。



『たたひだたまたりてたい タヌキより』



「たたひだ……タヌキさんは『ただいま』と言いたかったのでしょうか? ですが、口に何か怪我をされていて、それでうまくしゃべれずに……」

「それは大変ですね! レジーナさんを呼んできます!」

「まて、そこのオモシロ母娘」


 走り出そうとしたジネットの肩をがしっと掴んで止める。


「ただの暗号だから。負傷者はいない」

「そうなんですか。それはよかったです」


 心底ほっとするジネットとベルティーナ。

 こっちは心底心配になってきてるよ、お前らの純粋さに。

 俺がちょっと目を離した隙に、胡散臭い壺とか羽毛布団買わされんじゃないぞ。


「もしかしたら『強制翻訳魔法』のせいでうまく伝わってないかもしれないが、差出人がタヌキだから――」

「あ、分かりました、この文章から『た』を抜くんですね!」

「あぁ、なるほど、それで『た抜き』なんですね!」


 わぁ、さすが『強制翻訳魔法』。きちんと意図したことまで伝わってる。

 ……もしかして、精霊神って全知全能系?


「つまり、この文章から『た』を抜いて読むと――」

「『・・ひだ・ま・りて・い』……あっ! 『陽だまり亭』です!」

「はい、正解」


 俺が正解と告げると、母娘が手を合わせて喜ぶ。ぴょんぴょん跳ねとるなぁ、似た顔して。


「つまり、陽だまり亭に宝物が!」

「これ、例題だから。まだなんにも用意してないから。いいから涎を拭け、ベルティーナ」


 陽だまり亭にある宝物っていったら、物凄く美味しいものに違いないって、その思考、刷り込まれたものだからちょっと修正しといて。


「みんなで力を合わせて謎を解き、その結果素敵な宝物をいただけるのであれば、きっと子供たちは喜びますね」

「はい。ただいただくだけのプレゼントよりも、子供たちの記憶に残ると思います」


 というわけで、保護者の了承を得た。


「ただし、ガキどもには頭だけじゃなく体も鍛えてほしいよな」

「そうですね。よく物を考える知能は必要ですが、そればかりに傾倒して運動を疎かにしてほしくはありません」


 いや、お前たちだよ、運動を疎かにして大人になった運動音痴母娘は。


「そこで、マーシャの船をちょっと改造させてもらって、浅い温水プールを作り、そこに宝を得るための必須アイテムを沈めておく。ちゃんと水の中で目を開けられないと見つけられないというわけだ」

「……わたしには見つけられません」

「少々難易度が高過ぎる気がします」


 諦め、早っ!?


 お前らみたいな大人を増やさないために、ガキのうちから水に慣れさせておくんだっつーの。

 あと、水の中で目くらい開けられるから、簡単に。


「というわけで、マーシャ」

「は~い☆ 面白そうだから協力してあげる~☆」


 ばっちり、こちらの会話を聞いていたマーシャが快諾してくれる。

 デッカい豪華客船の甲板に、ドドーンと頑丈なたらい的プールを作ってもらおう。

 ウーマロに言えば、強度もサイズも希望通りのものが出来るだろう。


「人魚たちには、キーワードの番人をやってもらいたいんだが」

「番人!? なにそれ? 誰を倒せばいいの!?」


 違う違う、違うから落ち着けマーシャ。


「謎が解けずに困ってるガキを、さり気なくサポートしてやってほしいんだ。見当違いな答えを出して見当違いな場所に行っちまうガキも出てくるだろうから、『その先は危険だよ~』とか『その暗号はこうやって解くんじゃないかな~』とか、ヒントをさり気なく与えつつ見守ってやってほしいんだよ」

「「「そーゆーことなら任せてください☆」」」


 ざばっと、海から人魚が数名顔を出す。

 わぁ、楽しそうな顔。


「今回は、私たちが仕掛人だ~☆」

「「「おぉー☆」」」


 マーシャの掛け声に、人魚たちが腕をあげて応える。


 こうして、人魚全面協力の、船上のクリスマスパーティーの開催が決定した。





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