第二次世界大戦
開戦
1938年 10月8日
日本時間のこの日未明、それも実咲の予想通り英仏海峡での砲撃の応酬からそれは始まった。そして連鎖するようにフランス軍がベルギー侵攻、オーストリア軍イタリア侵攻・・・そしてこの極東でもこの日の夜明けを迎える頃に比島基地の米海軍アジア艦隊が台湾海峡を通過し日本の領海内へ侵入、日本海軍西南方面警備隊の停船勧告に応じず突如発砲してきた事で戦闘が勃発、直後、日英独が米仏墺への宣戦布告を発表、これがこの世界の第二次世界大戦の発端となった。
「我が国と同盟諸国は非戦平和への努力を続けてまいりましたが、米仏両国はそれを踏みにじり、世界を再び血で染めようとしています。ただし敵国となってしまった国々にも我々と同じ平和を尊ぶ国民達が大勢います。その事だけは忘れないでいただきたい」
開戦を伝える記者会見の場で、実咲はそう言って、マスコミや軍、なにより一般国民の、戦時下という空気においては形成されやすい熱狂的論調への牽制を行った。そして、彼女は戦時下の指導者としては異例ながらこの会見で「勝利」などの言葉は口にせず、敵国を侮蔑するような表現も、英独以外の同盟国に無理に参戦を促すような発言もしなかった。ただその裏で、彼女の兼ねてよりの計画によって、日本海軍が動き出す。
「ホンマルメザセ、ムシャガエシハサケヨ・・・はは、これ考えたの実咲だな」
その暗号の意味をすぐさま解釈し、部下達にその通り極力ムシャガエシこと敵艦隊と遭遇しないようホンマル、ハワイを目指せと指示を与えるハワイ攻略支援艦隊司令長官砂田天麗中将。彼女もまた実咲と同じ前世からこちらの世界に来た転生者で、この旗艦比叡司令部にも様々な世界から来た転生組が多くいた。
「長官は林総理とは昵懇の間柄なんですよね」
嫌な緊張感を紛らわすためか、天麗にさりげなく語りかけるこの早川航海参謀もどこか別の世界から生まれ変わった転生者である。
「ええ、前世では家族ぐるみだったしね。今上陛下も前世では私の夫で、実咲とは幼なじみで姉弟みたいな間柄だったから・・・ってこれは何回も話したね」
「いやあでも皇族に転生なんて凄いですよね、その長官の旦那さんはよっぽど前世で徳を積まれたんでしょうね」
「まあ確かに徳の高い子だったよチヒロは・・・あーあ、私この世界で男に産まれてたらなあ」
「男に生まれたとしても、一般庶民なら皇后にはなれませんでしょ」
「ふふ、それもそうね」
天麗と早川参謀がそんな他愛もない会話をしていると、電探反応を知らせるブザーが鳴り、艦内マイクより報告が飛び込んでくる。
「CIC(戦闘情報センター、転生組の尽力によって世界に先がけ日本軍がシステム開発)より艦橋、対水上電探に感あり、本艦隊前方およそ120マイル付近、反射波特性からおそらく米重巡アトランタクラスと思われる。本隊輸送船団保護のため進路変更具申」
「艦橋よりCIC、了解。全艦第2戦速、取舵10」
取舵を取って同盟国ロシア領カムチャツカ半島方面へ一旦北上、電探に映る敵艦隊は幸いこちらには気付かず、そのまま南側の太平洋のど真ん中を通り過ぎて行ったが、という事は・・・・・・天麗は非常通信用模擬流木の放流を支持、暗号文で敵艦隊が目指していると思われる小笠原方面に展開する第二艦隊第一遊撃戦隊に注意を促す。
「あっちもこっちもって大変だな、この戦争は・・・・・・」
しかしまだ始まったばかり、これから天麗も日本軍全体としても大変どころでは済まされない戦いに身を投じてしまった事は、未だ誰も分からずにいた。
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