パールハーバーの待ち人
1938年 10月14日
機関も最新のガスタービンに換装され帝国海軍の中でもひときわ高速を誇る比叡、榛名、霧島、伊勢の巡戦からなるハワイ攻略支援艦隊砂田天麗司令長官直率の先遣隊、通称斬り込み隊は幸運にもカウアイ島が目視できる距離になってもなぜか敵に発見はされず、ついに、オアフ島真珠湾軍港の出口(日本艦隊側から見れば入り口)を捉え、さしたる抵抗がない事を確認した天麗は命令を下す。
「全艦湾内突入!但し別命あるまで発砲は厳禁!」
「は?お言葉ですが長官、ここまで来て撃つなとは・・・」
「問答無用!さっさと復唱せんか!1発でも撃ったら軍法会議だ」
「はっ・・・突入!全艦別命あるまで発砲禁ず!」
その命令は即座に全艦に発光信号モールスで伝えられ、各艦艦長も戸惑いつつ比叡に続いて真珠湾内に侵入していく。最初に湾内に突入した比叡の甲板にいた航海科員は地上からの発砲炎も何も無く、何故かこちらに手を振る子供達がいる事などを不思議に思いながらも、まあ何もないならそれに越した事は無いかと呑気に考えていた。そして実際、このハワイで彼女達が戦闘を経験する事はなかった。というのも・・・・・・
昨日
砂田天麗司令長官直率の高速戦艦隊のレーダーは既にハワイ、ミッドウェー、ジョンストン等の島の並びを捉えていたが、それにしてはおかしい事があった。
「ここまで来てレーダーにもソナーにも敵艦船の反応が全くなしだと?」
そう、敵陣真っ只中に入ろうかというところなのにレーダーもソナー(こういった索敵装置は英国から輸入した技術をもとに、転生組の尽力で日本独自開発。何故かこの世界は飛行機がなかったりするのに実咲達のいた前世の1930年代よりこういった技術は進んでいる)も島と漁船や魚以外の反応を捉える事が無いというのはおかしな話だった。漁船の反応については、偽装哨戒艇の可能性も考え、甲板員に目視で確認させたがどの船も武器などを積んでいる様子は全く無いとの事だった。どういう事だと思いながら、天麗は出撃前に実咲が視察で基地を訪れた際にその総理から渡されたものがあった事を思い出し、懐からそれを取り出して開けてみる。
「アメリー(天麗の前世での名前)、これを開けたって事は多分もうハワイ沖に着いて、敵がいないって事かな。もしそうだったら、詳しいことは省くけど簡潔にまとめてあるからこれだけ読んで。
アラスカ州、ハワイ州は寝返った。ワシントン、オレゴン、カリフォルニアも然り。
PS パールハーバーニマチビトアリ」
天麗は今一度確認するようにこっそり目を通して、万一その寝返りというのが誤情報だった場合も見越して部下達には説明せず、ここオアフ島パールハーバーまでやってきたのだ。そして、導かれるまま湾内に投錨して、将旗の掲げられた比叡に天麗もよく見知った顔が乗り込んでくる。
「ヤング提督・・・実咲の手紙にあったマチビトって貴方の事ね」
ヤング、ことポーター・ヤングはつい先日まで米海軍中将、太平洋艦隊司令長官だった軍人である。かつて自身も米海軍省の中にいて、当時の駐米武官だった天麗と親交のあった彼女はこの戦争の意味に疑問を持ち、日本側に寝返ってこのハワイの連邦離脱に協力したとの事であった。となると、天麗達には少し希望が見えてくる事がある。
「ポーター、ここに来る途中私達のレーダーがアトランタ級とかの艦影捉えたけど、あれはあなたの支持で?私の部下達が交戦する事はないのよね?」
「うん、安心してアメリ。大丈夫、無駄な血は流さないように根回ししてあるから」
「さすがポーター・・・そんでハワイはやっぱ独立するの?」
「そこよね・・・こんなのは軍人同士話す事じゃないと思うけど、住民の中には60年近く前にあった日本との連邦構想を復活させようって動きもあってね、この世界じゃハワイの王家は断絶してるから英国王がインド皇帝でもあるみたいに天皇陛下が必然的にハワイ国王になるけど、日系住民だけじゃなくて殆どのアメリカ人住民も最近の日本は自由主義だしそれでいいんじゃねえかって」
「・・・てか今のホワイトハウスはそこまでやばいの?」
「私もあまり詳しい話は聞いてないけど、噂じゃ大統領は何かに取り憑かれてるみたいだって・・・バイエルンで処刑されたヒムラーみたいな事だとしたら、また厄介ね」
「厄介どころじゃないわ・・・アメリカもフランスも大統領の上に人はいないわけだし」
「まじでホワイトハウスまで行かなきゃこの戦争終わらんかもな・・・それでパリも・・・どちらにせよ若い部下達が何とか終戦まで1人でも多く生き残れるように我々もせんとな」
「そらもちろん・・・このハワイ攻略のつもりで来た輸送船団は帰したけど、長いこと船に乗って日本に帰る事になったて知った兵士達が戦いたいって文句言ってるって、まあ気持ちは分からんでもないけど、私ら上としたら、戦わずに未来ある命を無駄にせずに済んだって思って欲しいんだけどね」
「そうよねえ・・・でも私達も軍人、上から命令が来ればまた下に命令を出さなきゃいけない・・・」
「・・・」
軍人として、戦争が始まった以上すべき事をしなきゃならない、でも人間としては・・・・・・その葛藤を2人の指揮官はこの戦争が終わるまで、否、これから先の人生において抱えていく事になるのであった。
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