第二章:実家

 ぴのこが育った家は、息苦しい場所だった。


「本家の長男として恥ずかしくない振る舞いをしろ」

「ちゃんとした仕事に就け」

「何だこの食生活は?こんなバランスじゃ病気になるぞ。味噌汁を飲め」

「こんな無駄遣いをしてお前は家を潰すつもりか」

「あんな馬鹿が食べたがる物を欲しがるな!」


 家の中に居る限り、浴びせられ続ける言葉の暴力に、ぴのこはすっかりと臆病な人間になっていた。自分が家族の中で駒のように扱われていることが苦痛だった。けれども、それにどう抗えばいいのかわからない。親の言葉を反発するたび、ぴのこの胸に罪悪感が湧く。「自分が親不孝者だから、こんな風に責められるんだ」と思わされていた。何かあれば「弟の方がマシなんだから勘当してやろうか」と脅されていた。


 そんな自分を無価値な人間と思い込む日々を過ごしながら、手慰みに綴ってみたトドノベルがネットの隅っこで小さな盛り上がりを見せて、それを読んでくれる人がいることがとても嬉しかった。それだけのことで、ぴのこの人生は少しだけ変わったのだ。

 毒親と表現するのも足りないくらい、両親の言葉は彼の人生を傷つけて縛り付ける茨のような鎖だった。その束縛から逃れるように始めたこの執筆活動も、「無駄なことしてる暇があったら働け」という一言で踏みにじられたことがある。


 そんなぴのこの鬱屈した感情を、がらどんどんは受け止めてくれた。


「ぴのこさん、そんなんは親のエゴや。もっと自分の好きなこと、大事にしてええんやで」


 その言葉は暖かく、ぴのこが長い間味わったことのない、心からの肯定だった。

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