弁当箱を反面教師

しゅんさ

序章:出会い

 まだ残暑の色濃い9月11日の真昼間のことだった。ぴのこは自作の小説を読んで感想を述べているアカウントを見つけた。そのアカウントは奇想天外なことばかり書く「トドノベル」というジャンルにまだ戸惑っているようで、「こういうことですか?」というツイートを独り言のように呟いていたので、自ら「その認識で合っています」と声を掛けたのがきっかけだった。


 それからは、度々自作の小説に喜色の声を浮かべるこのアカウントのことが気になることが増えて、ツイートを交わすことが増えた。

 二週間も掛からないうちに「自分はぴのこさんに脳を焼かれた」と口に出していた。見慣れた猪のアイコンから繰り出される強火で独特な表現にぴのこは戸惑いつつも、何か引き寄せられるものを感じた。自分の文章を、ここまで強く肯定されたのは初めてのことだったからだ。


 二人のやりとりはTwitter上のタイムラインを介して続き、がらどんどんは繰り返し、ぴのこの小説の感想を丁寧に送り続けた。その指摘は具体的で鋭く、それでいて優しさ、憧れを含んでいた。


「やっぱ働きながらラーメンも食べてるのにほぼ毎日1000文字超えの完成度高い短編書けてるぴのこさんおかしいよ!!」

「うおお私も早くぴのこさん達みたいな立派な社会人になりてぇ!」

「私もトドオカさんの生活を脅かすトドノベルが書きたい」

「食べたら厄いものを安易に食べてはいけない

 ですよ。ぴのこさん


 それはそうとして私もぴのこさん食べてみたい」

「ぴのこさん、ずっとここにいたいよ

 ぴのこさんのトドノベルだけをずっと読んでいられる世界は無いのかな」

「ただ貴方を崇拝させて下さいよ。ぴのこさん」


 そんな言葉を聞くたびに、ぴのこの中で埋もれていた「自分には価値がある」という感覚が少しずつ芽生えていった。

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