第3話 マンションからの脱出方法
***
常識では考えられない状況が起こっていた。
5階から移動できる全てのスペースに『透明な壁』ができているのだ。6階への階 段も使えないし4階へも移動できない。動きまわれるのはこの5階のフロアのみだ。
「電気が通っているのでエレベーターは動きますね」
「乗りますか?」
「もしかしたら一階のエントランスの扉が開くかもしれない」
ママは怖がってエレベーターに乗らなかったが、パパと高田のおじいちゃんと私とで1階までエレベーターを使って下りることにした。
普段と同じようにエレベーターは1階に到着して、扉は開いた。
「エントランスの扉は開かないのか?」
「無理ですね」
マンションの内側からは自動で開くのでパパは何度も足踏みしたりしたが、扉は固く閉じたままだった。
「わしらは閉じ込められたんですかね?」
「それにしてはおかしい、このマンションの10階建てだ。たくさん住人がいる。いくら夜でも人が居なさすぎる」
「パパ、もう外に出れないのかな?」
「だいじょうぶだ、せりな、心配するな。朝までには解決するさ」
その時、エレベーターが再び開いた。
ママと高田のおばあちゃんが中から姿を現した。戻ってこない私たちを心配して様子を見に来たという。
「おい、マンションから出られなくなったぞ! 一体、何が起こっているんだ? スマホも使えないし人もいない」
「1階から2階に上がる階段にも同じように『透明な壁』があったよ」
階段だけではなくて外に出られる場所は全て『透明な壁』でふさがれている。
――つまり、マンション全体が『透明な壁』で覆われているのだ。
***
どれくらい時間が経ったのかはわからない。
階段が使えないので、エレベーターを使うしかマンションの各フロアは移動できない。
パパは最初は「会社に連絡できない」とか心配していたが、その次は泣き言を言い出し、最後は訳の分からないことをぶつぶつ呟いていた。
ママはその横でしくしく泣く。
私はエレベーターに乗って、10階のタツキ君の部屋に何度も行った。玄関のチャイムを何回か押したこともある。
もちろんタツキ君の家族は誰も出てこなかった。
***
「ここから飛び降りたら外に出られるかしら?」
そう言ったのは田代のおばあちゃんだった。
うちのマンションは10階の非常階段から屋上に上がれるようになっている。何日もマンション内を皆で調べるうちに屋上に出られることに気が付いた。
「わかりません」
「でも風がビュービューいってる。ここだけはあの『透明な壁』がないような気がするの」
確かに屋上の柵の向こうには『透明な壁』がないような気がする。だから風が私たちの頬に痛いくらい当たるのかもしれない。
柵を乗り越えて飛び降りないと結果は分からない。
しかし柵を乗り越えても『透明な壁』がなければ落下して死んでしまう。
――田代のおばあちゃんが飛び降りた。
――田代のおじいちゃんが飛び降りた。
――パパがママと一緒に飛び降りた。
――そして私だけがこの世界に残った。
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