第8話 大輔の発明
「で、用事っていうのはなんだ?」
「ああ、聞いて驚くなよ」
トリートメントゾーメを倒してから2週間ほど経ち、俺は大輔に呼び出されていた。
呼び出された場所はいつもの空き教室。もう俺たちしか使ってない秘密基地みたいになってしまっている。
そんな誰もいない教室で、テンションの高い大輔はポケットからスマホを取り出した。
「スマホが何か関係あるのか?」
「柊吾お前、まじ察し悪いな。前も言ったけど、俺は高校の時からアプリの開発してんだ。それと、トリートメント怪人との戦い。この2つのキーワードがあれば流石に分かるだろ?」
アプリの開発と怪人との戦い……?何の関係があるんだ?全く結びつかない。
「お前な、もっと気づける男にならないとモテねーぞ?もう言うけど、クロゾーメ軍団の怪人が出てきた時に通知をくれるアプリを作ったんだよ!」
そう言ってドヤ顔でスマホの画面を見せてくる大輔。そこにはマップアプリのような画面が映し出されていた。
え、まじか!?もう怪人をキャッチできるアプリを作ったっていうのか!?
「大輔、これほんとに使えるのか?どうやって作ったんだよ?」
「おいおい失礼な奴だな。ちゃんと使えるよ!実はこの間トリートメント怪人が出た時、怪人からなんか特殊な電波?みたいなのが出てるのを見つけたんだよ。それを解析して、スマホでキャッチできるようにアプリを作ったってわけだ!」
なんだこいつ、めっちゃ凄い奴じゃん!
怪人から電波が出てるなんて、3回も戦ったのに気づかなかった。いや、逆に戦ってる当事者だから気づかなかったのか。大輔のように遠くから見てサポートしてくれる人間がいると、そういうことにも気づけるのかもしれないな。
「凄いな……これがあれば怪人の居場所がまるわかりってことか」
「そう!機種にもよるけど、端末を探す機能あるじゃん?あれをベースにして作ったから位置情報は割と正確だと思うぜ!」
なんて頼もしい仲間だろうか。大輔は金森さんにも紹介しておくべきかもな。怪人のモチーフはヘアケア用品みたいだし、金森さんの知識と大輔の技術力があればかなり強力なサポート体制が出来上がる。そうなると俺も戦いやすくなるし、近いうちに大輔を美容室に連れていくか。
「てことで、お前もこのアプリ入れてくれ!実際に戦うのは柊吾だからな!」
「おっけ、今入れるよ。なんてアプリ?」
「これだよ、この『怪人キャッチ』ってアプリ」
大輔に言われるがままにアプリをインストールする。なんかアプリの名前だけ見たらめちゃくちゃな客引きする居酒屋のバイトみたいだな。
「柊吾お前、今失礼なこと考えてただろ!俺そういうの分かんだからな!」
「ええ!?いや、そんなことは無いぞ!?多分!十中八九!」
「じゃあやっぱ可能性あるじゃんか!正直な奴だなお前!」
大輔とくだらない会話を繰り広げていると、教室のドアが開いた。
え?ここは空き教室のはずだ。誰かが俺たちみたいに話でもしに来たのか?
開いたドアの方へ目を向けると、目を丸くした美乃里が立っていた。
「あれー?柊吾じゃん!何してんのこんなとこで?」
「え、美乃里?ああいや、ちょっと暇つぶしを」
俺の返答を待たずして、美乃里はずかずかと教室の中まで入ってくる。
「何何、何の話してたのー?あたしも混ぜてよ!」
「いや、そんな簡単に混ざれる話じゃないっていうか……」
口ごもる俺を見て、大輔が大きなため息をつく。そして「お前なあ、」と話し始めた。
「正直すぎんだよ!もっと誤魔化す努力ってもんを……」
「え、誤魔化さなきゃいけない話してたの?」
あちゃーと下を向く俺。大輔も人のこと言えないじゃねえか!
美乃里はそんな俺たちを見て不思議そうにしている。
「私が入っちゃまずい話ってことは……まさか下ネタ!?」
「ああうん、まあそんなとこだ」
勘違いしてくれた美乃里に適当に合わせつつ、俺たちは胸を撫で下ろす。
そうホイホイヒーロー活動のことがバレちゃ、俺も活動しにくくなるからな。まあ普通に考えたら大学の友達がヒーロー活動してるなんて思わないか。
「最低だねーあんたら。こんな昼間っから下ネタなんて」
言葉とは裏腹に、美乃里はちょっと楽しそうだ。なんだこいつ、そんなこと言って興味あるんじゃないか。
「ところでさ、前もいたけど君は誰?柊吾と仲良いの?」
「あ、ああ。俺は明石大輔。柊吾とは入学式の日に知り合って友達になったんだ」
「ふーん、あたしより早く知り合ったんだ!柊吾って髪色の割に絡みやすいから友達になっちゃうよね。あ!あたしは詰石美乃里!柊吾とは世界史の授業で仲良くなったんだ」
「へえー!てことは美乃里ちゃんも文学部?」
「そうそう、てかいきなり下の名前ー!じゃああたしも大輔って呼ぶよ?」
「ぜひに!美乃里ちゃんは専攻どうするんだ?」
速いテンポで会話が繰り広げられていく。俺は会話に入ることができず、ただ凄いスピードで仲良くなっていく二人を眺めていた。
凄いコミュ力だな。大学生ってこんなもんなの?俺は初めて美乃里と話した時割と緊張してたんだけど、大輔は当たり前みたいにペラペラと話している。
「ちょっと柊吾!柊吾ってば!聞いてるー?」
ぼーっとしていると美乃里が俺に向かって話しかけてくる。
「え?あ、悪い。なんも聞いてなかった」
「もー、ちゃんと話聞いてないとモテないぞー?」
またそれか。今日二回もモテないと言われてしまった。良いんだよ別に!俺は俺を良いって言ってくれる人を探すんだからさ!
「すまんすまん。で、何の話?」
「だからー、柊吾は2年生になったら専攻はどうするのって話!」
専攻ねえ……。正直あまり何も考えてない。K大学に入ることが目標だったから、入った後のことまで気が回らなかったんだよなあ。
「え、お前まだ考えてねーの?でも秋学期になったら専攻決めてかないとやばくね?」
「そうだよね!ていうか柊吾が決めてくんないとあたしも決めらんないし」
「美乃里はもうちょっと自分で決めるということをだな……」
美乃里に説教を始めようとしたその瞬間、俺と大輔のスマホから通知音が鳴った。
「柊吾!」
「ああ!行くぞ!」
俺と大輔は教室から走り出る。
「ちょ、ちょっと!二人ともどこ行くの!?」
「悪い!急用だ!また今度な!」
背中から美乃里が何か叫んでいるのが聞こえる。とりあえず今は美乃里に構っている場合ではないので、一旦無視だ。
俺たちは大輔が開発したアプリを見ながら、怪人が出現した現場に向かった。
「あの二人、なーんか怪しいんだよねー。追いかけてみよっと!」
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