第7話 色落ち危機一髪!

 大学生活も1ヶ月半ほど経ち、初めは遠慮して黒髪だった学生もだんだん髪を染め出している。

 大輔のような茶髪にする人もいれば、俺のように思い切ってブリーチカラーをしてくる人もいる。

 どうせ就活が始まったら黒髪に戻さなきゃいけない人がほとんどだから、今のうちに遊べるだけ遊んでいるのだろう。自由で良いことだ。



「柊吾おつかれー」



「ああ、おつかれ美乃里」



 大学生の挨拶は大体「おつかれ」だ。高校までそんなことなかったのに、大学生になると突然そうなるのは何故だろう。


 俺に声をかけてきたのは、詰石美乃里つめいしみのり。世界史の授業を一緒に取っていて仲良くなった。



「はあー、ほんっとこの授業って将来何の役に立つのか分かんないよね。よく真面目に聞けるわー」



「どんな知識が役に立つかなんてその時にならないと分からないからな。俺は一応ちゃんと授業受けるぞ」



 眠そうな美乃里にガリ勉のような返答をする。

 高校生の時はみんな同じ授業だったから適当に受けてても誰かに教えて貰えたが、大学生はそうはいかない。各授業に友達がいればいいけど、このモンスター大学じゃ受けられる授業の数が多すぎてあんまり友達と被らないんだよな。

 さらに俺が通う文学部は、二年生から各専攻に分かれる。今まで話す仲だった人も、専攻が違えば受ける授業が大きく変わってくる。

 その時授業をサボる癖が付いていたら単位が危うい。ということで、俺は真面目に授業を受けているのだ。



「偉い偉い。私には真似できないわー」



「美乃里もちゃんと聞いといた方が良いぞ?専攻も決めなきゃいけないしな」



「あたしは柊吾と同じ専攻にしよっかなー。ノート写させてくれそうだし」



 打算的な奴だな。俺だって毎回隣の席で爆睡かましてる美乃里にノート貸したくないぞ。



「あ!いた!柊吾!緊急事態だ!」



 美乃里と駄弁っていると、焦った様子の大輔が走り寄ってきた。



「柊吾!出たぞ!」



「まじか!すぐ行く!」



 大輔と共に走り出そうとする俺を、美乃里が後ろから呼び止める。



「ちょっと柊吾どこ行くの!?この後も同じ授業でしょ!」



「悪い、急用ができた!後でレジュメ貸してくれ!」



 そう言い残して俺は走り出す。

 あたしまた寝る予定だったんだけどー!と美乃里の大声が聞こえるが、気にしない。



「で、大輔、どこだ?」



「テニスコートの方だ!学生が襲われてる!」



「分かった!急ごう!」



 俺たちがテニスコートに辿り着くと、大きなチューブ型の怪人が複数人の学生を捕まえ、縛り付けていた。



「おーっほっほ!アナタたちは今からこのワタシに施術される運命よ!さあ、覚悟しなさい!」



 まずい、何か始める気だ。俺はポケットから櫛を取り出し、髪を梳く。すると腰にベルトが出現し、俺は櫛を高く掲げて叫んだ。



「変身!染髪マン!」



 櫛をベルトに差し込むと俺の体は光り出し、青い装甲が出現する。大きなハケのエフェクトが出現し、俺は染髪マンに変身した。



「おおすげえ……!変身ってそんな感じなんだな!」



「ああ、大輔は見るの初めてだっけ。ってそんなこと言ってる場合じゃない!行ってくるよ!」



 頼んだ!と叫ぶ大輔の声を背に受け、俺は怪人に向かって走り出した。



「そこまでだ!クロゾーメ軍団!」



「何よアナタ!変な格好しちゃって!」



 オネエ口調が気持ち悪い怪人が俺の方に向き直る。しかしこいつは何の怪人だ……?今までの奴らから想像するに、ヘアケア用品がモチーフになってるみたいだけど……。そういうの大体ボトルとかチューブだから見分け付かないんだよな。困ったもんだ。



「俺は染髪マン!お前を倒しに来た!」



「アナタが噂の邪魔者ね!大口叩いてくれるじゃない!アナタから施術してやるわ!」



 すると怪人はチューブの口を開け、俺の方に向かってもの凄いスピードで何かを発射して来た。

 咄嗟に転がって躱す俺。するとさっきまで俺が立っていたところに生えていた草が、茶色く枯れ果てていた。


 はあ!?なんだこいつ、めっちゃ危険じゃねえか!



「危ねぇな!お前何なんだよ!」



「ワタシの名はトリートメントゾーメ!アナタなんか簡単にやっつけちゃうんだから!」



 トリートメントだって……?トリートメントってこんな危険な物質なの!?草が枯れたよ!?



「とうg……じゃない染髪マン!そいつは恐らく、酸熱トリートメントだ!」



 大輔がスマホ片手に叫ぶ。なるほど、そうか!酸熱トリートメントは、強酸性のトリートメントとアイロンを使って髪質を改善するもの。その強酸性が怪人化によってより強くなり、草を枯らすようなものになったってわけだな!


 ……いやそれが分かってもどう倒せばいいんだよ!



「おーっほっほ!やはりワタシには敵わないようね!何もできないなら、こちらから行くわよ!」



 トリートメントゾーメは俺のところまで走り寄ってくる。逃げようとするも、強酸性のトリートメントを連続で発射されて動けない。

 俺はトリートメントゾーメに捕まり、縛られてしまった。



「はい捕まえた!じゃ、施術を開始するわね」



「何をするつもりだ!」



「あらあなた、ブリーチカラーしてるのね。髪質が良くないわ〜!アタシが改善してアゲル!」



 そう言うと怪人は俺の髪にトリートメントを塗りたくり、アイロンで髪を伸ばしていく。施術が進むにつれて、俺の装甲は色を変えていく。

 するとくせがあった俺の髪がストレートになった!おお!感動だ!



「じゃねえわ!何してんだお前!」



「何って、髪質改善トリートメントよ。アナタ、元は髪質良さそうなのにいきなりブリーチカラーなんてしたからパサパサになってるわよ。アタシがさらさらにしといてあげたから!」



 確かに、触ると俺の髪はさらさらだ。なんだこいつ?あの強酸性トリートメントは危険だけど、まさか本当に髪質改善トリートメントをしようとしてただけなのか?



「さて、これでアナタは無力になったわね」



 は?何を言ってる?

 俺が困惑していると、トリートメントゾーメは俺の前に鏡を持ってきた。



「お客様、いかがでしょうか〜?」



 鏡に映った俺の髪は、青色が抜けてしまっていた!何が起こったんだ!?

 ニヤニヤと笑うトリートメントゾーメ。クソ、どうなってんだよ。



「染髪マン!酸熱トリートメントは、アルカリ性のヘアカラーと相性が悪いんだ!カラーしてある髪に酸熱トリートメントをすると、色が落ちちゃうらしい!」



 大輔がスマホをスクロールしながら教えてくれる。まじかよ、じゃあこいつ天敵じゃねえか!



「あとは、アナタをゆっくり倒すだ・け」



「染髪マン!!頑張れ!!」



 大輔ももう応援することしかできなくなったようで、手をメガホン代わりにして叫んでいる。

 考えろ、まだ何か手はあるはず……。

 ちょっと待てよ、確か高校の時化学の授業で、酸に金属を反応させる実験をしたな。今の俺は青色が落ちて、シルバーに近い髪色になっている。装甲の色が変わったのもそういうことか。

 よし、いける!



「さあ!食らいなさい!」



 チューブの口を開けた怪人に向かって俺は両手を突き出し、黄金の盾を作り出す。

 こいつの強酸性は草を枯らした。ということは、酸性雨と同じくらいの酸性だ。

 金は酸に溶けにくい。このぐらいの酸性なら、耐えられるはずだ!



「何!?なんで効かないのよ!!」



「お前がわざわざ俺を銀髪にしてくれたんでな。金属を操れるようにしてくれてありがとよ」



 そう、俺の髪がシルバーになったことで、染髪マンは金属を操る能力に変化した!

 能力を把握していなかったら一か八かだったけど、予想通りだったみたいだな。



「さあ、お仕置の時間だぜ!」



 俺は怪人のチューブの口にぴったりハマるアルミ棒を作り出し、差し込む。

 するとアルミが溶けだし、酸と反応して水素に変わっていく。



「アナタ、何してんのよ!これ抜きなさいよ!」



「ああ、そろそろ良いか。よいしょっと」



 俺はかなり小さくなったアルミ棒を抜いた。こいつのトリートメントに入っていた酸は反応しきったはずだ。

 これで、思いっきり戦える!


 俺は拳を鋼でコーティングし、叫びながら思いっきり怪人を殴った。



「メタルストライク!!」



「ぎゃあああああああああ!!アナタ、覚えておきなさいよおおお!!」



 ぶっ飛んで行った怪人は、空の向こうで大爆発。

 危なかった……。なんでこう、バカみたいな見た目なのに厄介な奴ばっかりなんだよ。



「染髪マン!勝ったんだな!早くあいつらを解放しに行こうぜ!」



 大輔が走って来る。俺は変身を解除し、テニスコートの真ん中で縛られていた学生たちを解放しに向かった。

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