第9話 軍団の目的

 俺と大輔が走っていった先では、黒い液体を撒き散らしている怪人が暴れていた。

 なんだあの液体?見ていると、生えている草が溶け始めている。人々はそれを見て逃げ惑い、大混乱になっている。


 また酸性の液体!?もしそうなら、前と同じように金属の力で倒すことができそうだ!



「柊吾、いけるか?」



「ああ、もちろん!変身!染髪マン!」



 俺の体は銀色の装甲を纏い、顔には同じく銀色のマスクが装着される。



「おいそこまでだ!クロゾーメ軍団!」



「なんだよ!僕の邪魔をするのは誰だ!」



 振り向いた怪人は真っ黒な太いチューブ型で、少し子供っぽい話し方をしている。

 今までの怪人はヘアケア用品がモチーフだったが、こいつは何だ……?



「僕の名はクロゾーメ軍団の除毛クリームゾーメ!お前まさか、噂の邪魔者か!?」



 除毛クリーム!?ヘアケア用品じゃないのか!?

 確かに美容用品ではあるけど、いきなりそんなのが出てくるなんて聞いてないよ。


 いやでも確かに、毛を無くすって考えたら今までで一番俺の敵としてしっくりくるな。間違えて髪の毛に除毛クリームでも塗った日には帽子が手放せなくなるもんな。



「まあなんでもいいか。行くぜ怪人!」



「やれるもんならやってみろ!食らって溶けちゃえ、除毛クリーム!」



 怪人が叫ぶと、チューブの口から弾丸のようにクリームが発射される。さっきの様子を見ていると、クリームが付いたものはだんだん溶けていくようだ。

 絶対避けなきゃじゃん!!大変じゃん!!


 しかしそこは元野球部。動体視力と身のこなしには自信がある。

 俺は華麗にクリームを避け、怪人に向かってダッシュしていった。


 溶かす性質があるなら、酸性の液体のはずだ。てことは、前の酸熱トリートメント怪人のように金属と反応させ、水素に変えてしまえば無力化できる!


 俺は円柱状のアルミを出現させ、除毛クリームゾーメのチューブの口に突っ込んだ。

 さあ、これで水素になってくれるはず……。



「は!?なんでだよ!」



 俺が突っ込んだアルミの塊は、どんどん溶けて無くなっていく。どうなってんだ!



「染髪マン!除毛クリームは酸性じゃなくアルカリ性だ!アルミだと溶けちゃうぞ!」



 大輔が叫ぶ。まじかよ!でもアルミだとってことは他の金属なら溶けないのか!?



「アルミは溶けるけど、鉄は溶けないみたいだ!試してみる価値はある!」



 大輔がまたしてもスマホをスクロールしながら教えてくれる。


 鉄だな!よし来た!

 今度は鉄で鎧を作り出し、体全体に纏わせる。これでこいつのクリーム攻撃は効かなくなった!



「なんでだ!なんで僕のクリームで溶けないんだ!」



「お前、さては自分の成分をよく知らないな?もっと勉強した方がいいぜ!」



 いや、もっと勉強した方がいいのは俺の方なんだけど、挑発する為にこう言っておく。

 なんか敵が美容用品のせいで、最近は美容どころか化学の世界に足を突っ込んでしまってるからな。

 なんだよ前回の酸が金属と反応して水素になるとか。もう美容の範疇じゃないだろ。


 今回のもアルカリは鉄に反応しないとか完全に化学なんだよな。俺文系なのに、どんどんこんなことだけ詳しくなっていくよ。大学の勉強より役に立ちそうだ。


 怪人のヤケクソパンチを受けながらこんなことを考えている俺は、そろそろ目の前の怪人が鬱陶しくなってきたのでトドメを刺すことにした。


 俺は右足をより分厚い鉄で覆い、回りながら怪人を蹴り上げた。



「トドメだ!アイアンブート!」



「ぎゃああああああ!!せめてその毛を溶かしたかったあああああ!!!」



 恐ろしいことを言いながら吹っ飛んで行く除毛クリームゾーメ。もしこれで俺の髪の毛が溶けて無くなってたらどうなってたんだろうか。染髪マンに変身できなくなったりするのだろうか。

 念の為金森さんにこの辺は確認しておかないとな。



「見事だよ、染髪マン」



 勝利の余韻に浸る間もなく、怪人がいた場所に壮年の男性が現れる。権藤教授だ。



「教授……!のこのこ出てきて、何のつもりだ!?」



「私の忠告を聞かなかった罰だ。下っ端では相手にならないようだから、私直々に手を下してやろう」



「なんだと……!お前ら、目的は何だ!何がしたい!」



「それも君に教える必要は無いが……冥土の土産に教えておいてやろう。我々は漆黒の王を蘇らせようとしているのだよ。その為に、人が命の危険に晒された時に叫ぶことで出るエネルギーを奪っている。それを我々は叫ティクルキョーティクルと呼んでいる」



 ふざけた名前だなおい!キューティクルから取ったんだろうけど、漢字が混じってることで間抜けさが際立っている。



「世間話はここまでだ。覚悟するがいい!」



 そういうと権藤教授はカッと目を見開き、その体は黒い塊に包まれる。

 すぐに黒い塊は弾け、そこには真っ黒な怪人態になった権藤教授……いや、ヘアマニキュアゾーメが立っていた。



「さあ、調子に乗ったその髪を、漆黒に染めてやろう」



「できるもんならな!やってみろ!」



 ヘアマニキュアゾーメは大きな櫛のような武器を取り出す。

 そしてゆっくりと歩き出した……ように見えた。

 だが、気づいた時にはもう俺は吹っ飛んでいたんだ。



「かハッ……な、何をした……?」



「ただ君に近づいて、この櫛で殴っただけだが?ああ、もしかして見えなかったかね?」



 ふざけやがって……!だが、奴の攻撃は実際俺には見えなかった。何をされたか言われても理解できない。



「なんだ?反撃して来ないのかね?なら、またこちらからいかせてもらうよ」



 またしてもゆっくりと近づいてくるヘアマニキュアゾーメ。さっきは気づいた時にはもう殴られていた。今のうちに避けておくんだ……!

 だが、体が動かない。いつの間にか俺の近くに来ていたヘアマニキュアゾーメは、櫛を振り上げて俺の方へ向け、振った。何かが俺の髪に付いたのが分かる。何をされた?


 次の瞬間、俺の体を覆っていた装甲が消え去った。瞬時に察する。白髪染めだ……!

 俺の髪に白髪染めを塗られ、黒髪にされたことで力を使えなくなったんだ!


 そう理解したのも束の間、俺は腹部に強烈な衝撃を感じ、再び吹っ飛んでいた。



「ぐあああっ!!!」



 あまりの痛みに悶え、転がり回る。



「終わりだ、染髪マン」



 ヘアマニキュアゾーメの声が聞こえ、痛みに耐えながらなんとか目を開く。すると黒いオーラを櫛に纏わせたヘアマニキュアゾーメが、俺に向かってその櫛を振った瞬間だった。

 その瞬間だけは何故か奴の動きがスローモーションに見えた。ゆっくりと向かってくる櫛に対して俺は動くこともできず、ただ打たれた。


 物凄いスピードで飛んで行っているのが分かる。あまりの衝撃にまだ痛みを感じていないが、やられた、ということだけは感じる。



「柊吾ー!!!」



 遠のいていく意識の中で、微かに大輔の叫び声だけが俺の耳に響いていた。

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