第3話 闇の商人
テレビドラマに登場する刑事の携わる仕事は通常一つしか映しませんが、実際の刑事さんは、いつも5,6件の事件を並行して処理しているようです。刑事さんに限らず、仕事のできる人はどこの会社でも似たような状況で、いくつもの仕事を同時に処理する方法を心得ています。不思議なことに、仕事ができる忙しい人は、どんなに忙しい最中に他の仕事が入っても、優先順位を使いこなしながら聖徳太子のように同時並行処理する方法を心得ています。ところが、仕事の判断力がなく、上目遣いで上司の指示待ちを優先しているとそうはうまくいきません。上司がいなくなると、これ幸いとばかりに羽を伸ばし、上司の悪口三昧を振り撒いているのは優先順位が分からないためのようです。
仕事のできる異世界の薬品営業マンは抜け目なく、羽を伸ばしている取引会社の排水処理担当者の判断力を見定めます。その会社の排水処理に使う薬品購入額を増やす手立てとして、山吹色の菓子折りを持参して、「夕飯でもご一緒にどうですか」と誘い出して、飲食代の支払いから始まって、たくさん買っていただくと、「盆暮れの菓子折りをお持ちしますョ」、と時代劇の常習屋よろしく袖の下を餌にして手堅く射止めにかかります。たまには麻雀やゴルフに誘って勝たせ、甘い汁にドップリ浸からせて、他社からの誘いを排除したくなるように仕向けます。
上目遣いの担当者はこの営業マンから授かった手順で、「近頃排水は処理しにくい成分が多くて頻繁に薬品を購入しないと仕事に重大な支障が起こる」ことを上司や社長に報告します。社長は現場の工場長に任せきりで、専ら営業活動のゴルフと飲食接待に明け暮れ、業務の改善など考える暇がないほど忙しいことが多いようです。工場長も上行下効、これまで取引していた納品、仕入れ会社との接待、付け届けを享受して過ごしていて、排水処理は、担当者にお任せです。上役に問いかけても、「適当にやっとけ」といった生半可な答えしか返ってこないので、仕事の中身が分からないのを良いことに、自己管理できることを都合よく解釈します。排水処理技術に疎い上司や社長はまんまと騙され、無駄な経費を注ぎ込みます。
まわりの人は、排水処理担当者がいい思いをしていることを妬んで、「今日も出張ですか、いつもお忙しそうですね」と嫌みの一言を投ずるものの、自もいつかはそういった身分にあやかりたいと願うようです。
仕事のできる人は、上の人のご機嫌伺いしている人を見て、その会社の体質を察知するだけでなく、儲け口を探し出し、高い利益が得られそうだと、その頻度も計算し、袖の下を差し引いて利益額が減っても、頻繁に起こる可能性が高ければ優先して取り組みますし、高い利益率で高頻度のものの優先順位を高くして狙いを定めることで袖の下の投入チャンスが訪れるようです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます