木も悶々としていますか(2)
また少し離れた地に引っ越すこととなった。
今度は小さいながらも庭なる存在があり、これを機に地植えはどうかと業者に聞けば、やめた方がいいと即断された。そのとき初めて
とても残念。新居で杏ちゃんは他の子たちと鉢植えのまま暮らすこととなった。
あるとき頻繁に月単位で留守にしなければならない状況に陥った。自動水やり機なる装置があることを知りさっそく導入した。
水タンクから伸びる管の先端を各植木鉢の土にブスッと刺しておくと、決められた間隔で定量の水が土中に注入される仕組みで重宝した。
しかし、夏を迎えて猛暑日が続くと日陰でもタンクの水はお湯になり、夜になってもなかなか水温が下がらない。訳あって全員を室内に収納することもできなかった。
なんせ昔のことである。八本の単一形乾電池をばくばく消費する機械は、本当に長期留守の間も大丈夫なのだろうか。
地植えにすれば水やりの心配はなくなるが、そこまで踏み切れないでいた。
何日も続く連続猛暑が常態化するとさすがに心配が募る。機械は何の前触れもなく突然故障するものである。
業者の言葉が頭をよぎらなかったのではないが、それより杏ちゃんがどうにかなってしまうのではないかとの懸念の方が勝った。
大切な記念樹を枯らすわけにはいかない。
思い切って庭に移し、心中は穏やかになった。
それから数年は何ごともなく、成長する杏がいつ実をつけるかと楽しみに過ごした。
ところが、いつとは覚えがないが杏さんは急に大きくなり始めた。切っ掛けが何かは知らぬが、突然成長カーブが変わった。
あれよあれよという間に高くなって、しっかりと実をつけるようになり、毎夏おいしくいただいた。
しかし、私はまだ知らなかった。これが序の口であることに。
ちなみに、どうでもいいことであるが、Xのサブアカウントのアイコンは我が家の杏の花である。
それから年々樹高が増し、さすがに小さな庭で5m越えは維持できないと、毎年行なっていた
その道のプロには怒られるけれど、やむをえずの苦渋の処置である。夏にぐーんと伸びて冬にがーんと切り戻される。
常に頭を押さえられ自由を奪われた窮屈な生涯。この杏さんはさぞかし
専門家の言うことには
いつだったか、植物はお互いに話ができるという記事を目にした。
そうだとしたら、きっと我が家の所業は向こう三軒両隣の木々に知れ渡っているに相違ない。
もう少し広い庭に引っ越せないかしら。無理だと分かっていても希望は捨てきれない。 (よる)
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