八月、悪魔の血判

いすみ 静江

八月の毒

光、

風、

熱。


全てが強く、時を止めた。


人類が史上最悪の馬鹿をした。


周りが無となり、

自分が誰か知らぬモノになる。


刻み込まれた一瞬が、

一生の地獄絵図となった。


八月の太陽より熱い、

毒雲が笑うて、

えげつない雨を降らしやがる。


誰が、と思うた。

この惨事は仕掛けられたモノだ。

若すぎた自分には分からず、

歯がゆい思いをした。


すぐさま、家族が気になった。

父の戦死した報せを受けたばかりだ。

遺した三人の子を懸命に育てる母の力になりたい。

家まで少しの所、早く戻ろう。


十歳の兄と三歳の妹に、

八歳の自分。


家に着くなり誰も迎えず。

名前をこだまさせる。


妹が、

空を仰いで硝子に刺される。

名を呼び、

泥と化した大地から引き抜こうとも、

反応がない。

にい、いたい。

甘えた声で風が叫んだ気がした。

発狂したいでしょうが!


後でとお祈りをし、

近くに兄を求めるが、

隣家の壁に、

炭のように焼き付いていた。


信じられないを越して、

悪魔の爪痕に背筋を凍らせた。


後ろから情感溢れる熱風が覆う。

母だ。


子ども達三人の名を優しく呼ぶ。

元気でいるようにと。


八月の母は、

いまにも消え入りそうだった。

人間の尊厳たる姿を奪われようとも、

心に灯った母のぬくもりは、

愛することに終着駅はない。


自分は家族と、

永遠の中で生きていたかった。



幾日あとのことか。


もう息のないモノは、

山と積まれて焼かれてゆく。


燃える山が崩れようとも見ていた。


お骨を拾わせてください。

形がなくとも。


          【了】

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八月、悪魔の血判 いすみ 静江 @uhi_cna

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