第二話「消えたサンプルアバターの謎」
レディム帝国の集会室は、午後のゆったりとした空気に包まれていた。
大きな窓からは柔らかな陽光が差し込み、
お気に入りのハンモックでゆらゆらと揺られていたねこどすの耳に、
困惑した声が飛び込んできた。
「おかしいな...確かにここにあったはずなんだけど...どうしてかな...」
声の主は、レディムになることを夢見るどねさん。
パソコンの画面を食い入るように見つめながら、眉間にしわを寄せている。
「どうかしたニャ?」
ねこどすは、ハンモックから身を乗り出しながら尋ねた。
その仕草は、まるで麻雀の重要な場面で手札を確認するような慎重さがあった。
「実は、レディムのサンプルアバターを探してるんです。確かboothで見かけたはずなんですけど...どこにも見当たらなくて」
どねさんは画面を何度もスクロールしながら説明した。
「昨日見つけた時は、すごく可愛くていいなって思ってたんです!」
部屋にはいつものメンバーが揃っていた。
ミリッツさんは新作アバターのデザインをスケッチブックに描き込み、
しくらいさんはVRChatの新機能について熱心に調べている。
だみんちゃんは窓際のソファでスマートフォンを操作していた。
そして部屋の隅では、いつものようにBirdが静かに佇んでいる。
「ふむ」
ねこどすは、探偵モードに切り替わった。
「そのサンプルアバター、最後に見たのはいつニャ?具体的に教えてほしいニャ」
「えっと、昨日の夜の9時頃です!確かboothで見かけて、可愛いなって思って、今日じっくり見ようと思ってブックマークしたはずなんですけど...それも見当たらないんです」
ねこどすは、ハンモックからゆっくりと降り、
探偵のように部屋を歩き回り始めた。
「みなさん、レディムのサンプルアバターについて何か情報をお持ちじゃないニャ?些細なことでも構わないニャ」
ミリッツさんが手元のスケッチから顔を上げた。
「私は新作の制作に集中していて...あまり他のアバターは見てなかったかも」
しくらいさんはスマートフォンの画面から目を離さず
「VRChatの更新情報しか見てないです。新機能が気になって」と答えた。
だみんちゃんは申し訳なさそうな表情で
「私、実はさっきまでTwitter見てただけで...あんまり役に立てなくてごめんなさい」と言った。
「なるほどニャ...」
ねこどすは、どねさんのパソコンの前に立ち、画面を覗き込んだ。
「検索履歴を見せてもらってもいいニャ?」
画面には様々な検索ワードが並んでいた。
「レディム サンプル」「レディムーン アバター」
「獣人 女の子」「VRChat用アバター」...
ねこどすは、突然思いついたように目を輝かせた。
「どねさん、URLは覚えているニャ?少しでも覚えていることはないニャ?」
「えっと...確か booth.pm で始まるURLだったような...」
「待ったニャ!」
ねこどすは、勝負師のような鋭い眼差しで言った。
「その URL、本当に booth.pm だったと確信があるニャ?」
どねさんは一瞬考え込み、「あっ!」と声を上げた。
「そういえば、違うマーケットプレイスだったかもしれません...昨日、いろんなサイトを見ていたから...」
「そうニャ。探しているものが見つからないのは、探す場所を間違えているからかもしれないニャ」
ねこどすは、まるで麻雀で決め手の牌を引いたかのように自信に満ちた表情を見せた。
しかし、新たな検索を試みても、目的のサンプルアバターは見つからない。
どねさんの表情に徐々に諦めの色が浮かび始めた。
そんな中、窓際でスマートフォンを操作していただみんちゃんが、
静かに、しかし意味深な言葉を呟いた。
「そこになければ...」
しくらいさんがその言葉を受け止めるように続けた。
「ないです」
部屋に深い沈黙が流れる中、ねこどすはゆっくりとハンモックに戻りながら、
哲学者のように語り始めた。
「時には、探しているものが見つからないのは、それが運命というものなのかもしれないニャ。でも、それは同時に新しい発見のチャンスでもあるニャ。見つからないことで、新しい道が開けることもあるニャ」
どねさんは少し考え込んだ後、次第に明るい表情を見せ始めた。
「そうですね。むしろ、これは自分なりのレディムの解釈で、完全オリジナルのアバターを作るチャンスかもしれません。誰のものとも違う、私だけの特別なレディムを...」
部屋の空気が、新たな創造への期待で満ちていく。
窓から差し込む夕陽が、どねさんの新しい決意を後押しするかのように温かく照らしていた。
ミリッツさんが
「デザインのアイデアなら、私にも協力できるかも」と申し出る。
しくらいさんも「VRChatでのテスト協力ならお任せください」と続いた。
だみんちゃんも「宣伝はお手伝いできます!」と笑顔で加わった。
部屋の隅では、Birdまでもが嬉しそうに小さく羽ばたいている。
ねこどすは再びハンモックでゆらゆら揺られながら、今日の出来事を振り返る。
時には、探していたものが見つからないことで、もっと素晴らしい何かが始まることがある。
それは、まるで麻雀で望んでいた役が崩れた時に、
思いがけない大きな役が完成するようなものだ。
...そう、名探偵ねこどすの日常には、
いつも新しい発見と可能性が隠れているのだ。
そして、その発見は必ずや、誰かの心を温かく照らすのである。
窓の外では夕陽が沈みかけ、新たな創造の物語が始まろうとしていた。
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