飛び降りようとしていた20歳女性を救うために一緒に転落したヒーロー【なんでも評点コラム】
ミッキー大槻
一緒に転落⇒自らが下敷きに⇒女性は軽傷⇒男性は?
日本では、都市部の路上を歩いていた人の上に誰かが飛び降りて来て2人とも死ぬ巻き添え事故が、2020年に大阪で、2024年に横浜で起きた。これとは別に(ドラマではありがちだが)、飛び降りた誰かを救うために一緒に飛び落りた場合、相手を救えるのか? 自分は死なないのか?
米国で15年前、建物から飛び降りようとしている若い女性がいるので思いとどまらせようとしていたら、その女性に服を引っ張られ、2人一緒に落下することになってしまった。こういう状況下で(一瞬のことだが)、あえて相手の下側に身を置き、クッション役になることを選択した男性がいる。
実際、彼のとっさの判断は功を奏し、女性は軽い怪我を負っただけで済んだ。彼は自らの命を犠牲にして、若い命を救ったのか? いや、彼も命に別状はない。ただし、両腕の骨を粉々に粉砕骨折してしまった。
その日(4月5日)、米国ペンシルバニア州リーハイ・バレーの介護施設をロバート・E・スミスさんという48歳の男性が訪れていた。彼は地元の教育委員会のメンバーであり、その日も仕事でその施設にやって来たのだった。
施設内の3階建ての建物の中にいると、誰かが大声で叫んだ。入所者が非常階段の一番上から身を乗り出して屋上によじ登ろうとしている、と。それを聞いてロバートさんは躊躇することなく、非常階段を駆け上がった。
ロバートさんはその入所者のことを前から知っていた。20歳の女性である。「危ないから降りてきなさい」と声をかける。だが、彼女は「飛び降りてやる」と言って聞かない。
このままでは本当に飛び降りてしまう。そう確信したロバートさんは彼女のいるところまで一気によじ登る。そして、彼女を引き留めようとしたのだが、逆に衣服をつかまれてしまう。すぐに2人ともバランスを崩し、落下を開始した。
その一瞬、ロバートさんは自分の体を彼女の下に置く姿勢を取ることにした。そうすれば自分の体がクッションになって、彼女が助かる可能性が高まるからだ。しかし、そう判断した次の瞬間には、もう地面に激突していた。
だがその判断は正しく、女性は地面に直接激突せずに済んだ。ロバートさんの背中に覆い被さるようにして落下したからだ。
ロバートさんは、うつぶせの状態でコンクリートの上に落下した。ただし、先に両手を突き出したので、顔面や頭部はあまり強打していない。先に両腕の骨が粉々になってから、額が地面に当たった。
女性は落下した後すぐに自力で立ち上がり、歩き始めた。ロバートさんは救急車で病院に運ばれた。両腕の骨が粉砕骨折していたが、脳には異常が認められなかった。
経験豊富な外科医が手術を執刀したが、ここまでひどい怪我を負っていていながら命に別状がない例など過去に経験がないと家族たちに語ったほどである。
とにかく両腕の骨が粉々になっているため、これから何度も手術を受ける必要がある。ギブスなど装着することもできない。ロバートさんの腕が元通り機能するようになるかどうかは、現時点では定かではない。長いリハビリ期間が待っている。
ロバートさんの叔父、トーマス・カッチシンさん は言う。「甥は、そういうタイプの人間なんだ」と。トーマスさんによれば、ロバートさんはプロボクサーと見まがうばかりの精悍な体躯をしているそうだ。体が丈夫だったから助かったのかもしれない。
48歳のロバートさんには妻と3人の子、さらに3人の孫がいる。地元の教育委員会では、過去に何度か委員長を務めたこともある。
ロバートさんを巻き込んだ方の女性は、手足の指を数本骨折した程度の怪我しか負わなかった。彼女から何らかの感謝の言葉があったかどうかは不明だが、本当に死にたかったのならやはり感謝はしていないのかもしれない。
だがそうだとしてもロバートさんは、身を挺してでも、この娘を救わないといけないと思ったのだ。自分の体をクッションにするというそのとっさの発想、たくましくもあり、優しさに満ちてもいる。
その一瞬後には死が待ち受けているかもしれない極限状況に置かれたときにこそ、人はその本質を明らかにするのかもしれない。こういうときに自分だけは生き残ろうとする人もいれば、利他的に行動できる人もいる。ロバートさんはまさに後者だった。
■ Source: Man falls 30 feet saving suicidal woman | Philadelphia Inquirer | 04/08/2010, etc.
飛び降りようとしていた20歳女性を救うために一緒に転落したヒーロー【なんでも評点コラム】 ミッキー大槻 @miccckey
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