やきもち

 僕らは、救急外来の入り口から出て、透の自転車が止めてある駐輪場に向かった。

「透さ、SICUにいたんだろ? もしかして、自殺未遂じゃないか? それで、二次元の世界でも死にたくなって、僕を死なせるように動いたんじゃないか?」

「そうだけど、死んでから、もう一度生きたいって思った。勝手だよな。あのメールは、俺のスマホに何度も干渉しようと試みたら出来たんだ」

「本当、勝手よね」

 絵里香さんは怒りを込めた言い方をした。

「ごめん」

「でも、僕の方こそ、透の体使って、勝手なことをしてごめん」

「いいよ、もう」

 許してくれた透を見て、思わずこう言っていた。

「友達になってくれないか、透」

「俺ら、もう友達だろ、雅也」

 ふっと笑って、透は言ってくれた。


 駐輪場に着き、透は薄暗い中から、自分の自転車を探し出し、鍵を外して動かす。すぐにオートライトが付いた。籠に置いていた、二つのヘルメットのうち、一つを絵里香さんに渡し、自分も付けて、僕を絵里香さんから取って、籠に乗せた。

「雅也は籠に乗ってもらうから」

 透は自分と絵里香さんが見られるように置いてくれた。だけれど、僕は透が絵里香さんと自転車の相乗りをすることが許せなかった。自転車に透と絵里香さんが乗るのを見て、黙っていられず、聞こえないようにこうつぶやいた。

「透、お前、絵里香さんと相乗りしやがって」

「やきもちか?」

 聞こえていたらしい。

「悪いか」

「安心しろよ。俺らは、何でもないよ」

 本当だろうかと思っていると、透が自転車を漕ぎ出した。僕の周囲で秋の冷たい風が回り出すように、当たってきた。寒い。

「雅也、寒い?」

 絵里香さんが優しい声を掛けてくる。

「うん」

「透さん、止めて」

 と、絵里香さんは言って、自転車から降りて、付けていたマフラーを外して、僕に巻き付けてくれた。

「どう?」

「ありがとう。もう寒くないよ。……あのさ、透のことどう思っている?」

 絵里香さんはきょとんとして、こちらを不思議そうに見ている。

「どう思っているって、別に何とも思ってないけど」

「安心しろって言ったろ? なあ、ちゃんと気持ち伝えた方がいいぞ」

 透は絵里香さんの方に向かって言った。絵里香さんは少しうつむいたが、意を決したように、僕を見た。

「雅也のことが好きです」

 絵里香さんの告白に、僕はスクリーンの前でいつも絵里香さんのことを愛しく思っていた気持ちを思い出していた。

「僕も絵里香さんが好きだ」

「よかったな、お二人さん」

 透がにやっとして、そう言った。

『ディメンション・サーガ』の最新のストーリー上に僕はもういないけれど、二人のおかげでここに僕は存在している。それが嬉しかった。

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