ぬいぐるみ
日が完全に沈んで、三日月が見えていた。足下のライトは照らされているが、それ以外は暗い。
あてが外れたのかもしれないと思っていると、駆けてくる音がまた聞こえた。今度は二人で、透と、絵里香さんだった。絵里香さんはチェックのコートに、マフラーにニット、黒のテーパードパンツ姿で、長い髪を揺らしてやってきた。
よく見れば、絵里香さんは僕のぬいぐるみを大事そうに抱えている。
「雅也、持ってきたぞ」
透は息を切らしている。急いで来てくれたのだ。
「そこに雅也がいるの?」
絵里香さんは切羽詰まったように、透に尋ねた。
「ああ。姿は見えないだろうけど、しゃべれるんだ」
「雅也、前に話しかけてくれたよね? ありがとう。話は全部透さんから聞いたよ。ずっと飾っていたぬいぐるみを持ってきたんだ。これなら、乗り移れると思って」
ぬいぐるみは、五年前に発売されたグッズで、少し灰色に変色していた。大事にしてくれていたのだと思い、嬉しい気持ちで心が満たされていくのを感じた。
「ありがとう」
その瞬間、幽霊になった僕の前は金色の光の粒が充満して、それが霧のように視界を閉ざしていった。ああ、あの世に行くのだなと考えているうちに、光が一瞬のうちに消えた。
視界がはっきりして、渡り廊下にいるのが分かった。しかし、こんなに大きな場所だったっけと思った。しかも、浮いているような感じで、何かに支えられているようだなと思って、下を見ると巨大な腕がある。絵里香さんの腕? もしかして、ぬいぐるみに乗り移れたのか……。
「雅也!」
「どうしたの? 今の光は?」
「雅也の姿が見えない。いなくなった」
「えっ!」
透と、絵里香さんが慌てている。
「透、絵里香さん、僕はここにいるよ」
「お前、ぬいぐるみに乗り移れたのか?」
「ああ」
「よかった」
絵里香さんはそう言って、僕のぬいぐるみを抱きしめる力を強くしてくる。
透は、僕のぬいぐるみの頭に触れて、泣きながら笑っていた。
僕は絵里香さんへの愛しさで頭がぐるぐる回るようだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます