不可解な転移
絵里香さんはその後、回復して、一般病棟に移れるようになった。
奇跡的に会話が出来たのはあの時だけで、それから、僕が大声で話しかけても、絵里香さんには気付いてもらえなかった。
しかし、もうその頃には、僕がずっとたたいていた効果で、透明な壁には一筋のヒビが入り、そこから金色の光が漏れ出るようになっていた。
早く彼女の世界に行き、姿を見せたい。その一心で、僕は拳が傷だらけになって、血がにじんでいても、たたくのをやめなかった。
その日、いつものように壁をたたいていると、視界が真っ暗になり、僕は意識を失った。
気が付いた時には、僕はリノリウムの冷たい床に倒れていた。側には点滴スタンドが転がっている。病院なのだろうか。こちらに来る足音が聞こえた。
「大丈夫ですか? 鈴川さん!」
女性の声がしたので、僕は起き上がる。
看護師の服を着た、三次元の人だ。どういうことだろう? 壁が壊れたのか? しかし、僕の姿が見られるというのはどうしてだろう。それに鈴川って?
「大丈夫です」
それに、僕の体も三次元仕様になっている。
「あの、僕のフルネームは何と言うんですか?」
「鈴川透ですよ」
「あの、もしかして、SICUに入ってましたか?」
「はい」
僕は点滴スタンドを持って、スタンドの下から床に着いているキャスターをコロコロと動かしながら、トイレに行った。
鏡を見ると、知らない若い男性が絵里香さんが来ていたような若緑色の病衣を着て映っていた。イケメンだなと思った。
だが、鈴川透の魂や心はどこかへ行ってしまっていて、影も形もないのが、気になった。まさか、魂だけSICUで天国へ召されたのか?
それとも、一時的に僕が体を借りているだけなのだろうか。
だったら、今すぐにも絵里香さんの元に行きたかった。
僕は二週間ほど、入院して退院した。
病院で、古川絵里香が入っているか聞いてみたら、彼女は退院していた。
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