第6話 10連ガチャ
アレスが自室にて目を覚ます。アレスの枕元には紫色の六角形の柱状の石が転がっていた。
それを見てアレスはにやけた。この石こそがカードを生成するのに必要な素材である。
通称“
しかし、この紫煙石を使うことによって、人はカードを生成して強くなることができるのである。
この紫煙石は自分で消費することもできるが他人の石も使うことができる。
つまり、紫煙石が必要ないと感じれば売ることもできる。
事実、紫煙石を売るだけで生計を立てている人も中にはいる。それだけこの石は需要が高いのである。
自分の作り出すカードが弱いと感じるのであれば、紫煙石を売った方が多くの利益を得られることもある。
ただ、この紫煙石も発生する個数については個人差がある。紫煙石を出しやすい体質の人もいればそうでない人もいる。
また睡眠中に必ず発生するものではない。紫煙石が出るかどうかも運次第ということである。
エンゲージの腕を上げたいアレスにとってこの紫煙石の使い道はただ1つ。
当然引くに決まっている。
アレスは紫煙石を右手で握る。そして右手に力を込めて石を砕く。するとアレスの手が紫色に光る。
その後、アレスはパッと右手を開いた。
すると開いた手にはカードが10枚生成されていた。アレスはそのカードを確認する。
このカードを生成して確認する瞬間こそ、アレスが最もワクワクする瞬間であろう。
アレスに限らずともエンゲージをする人間であれば新たなカードを手に入れるチャンスは胸が躍るものである。
それがランダム性ならなおさらのこと射幸心が煽られるのだ。
「レヴナント! 持ってる! ガイコツ君! こいつは弱い! ……他のカードもデッキに入らないカードばっか!」
アレスはまたしても強いカードを引くことができなかった。
調子がいい時は強いカードが出ることもある。しかし、強いカードというものは総じて出にくいものである。
レアカードだから強いのか。強いからレアカードなのか。その命題はこの世界にも適応されているのである。
「今日はダメだった。また次回に期待だ!」
アレスには落ち込んでいる暇はない。いくらデッキを強化できなくても、できることはまだまだある。
エンゲージはカードパワーだけでなく、プレイング、プレイヤー同士の駆け引きも重要な要素である。
それらの技術も磨いていけば、カードパワーに頼らずとも強くなることは可能である。
だが、カードパワーが低いままではいつかは頭打ちになってしまうのも事実である。
カードをいくら使いこなしたところで、カードパワー以上の力は出ないのだから。
アレスはデッキを更新することなく、家から出た。
街のはずれにある工房。そこに向かった。工房の中には白いひげを生やした
「親方! おはようございます!」
「ああ。アレスおはよう。今日も元気だな」
アレスは母親を亡くしてからこの工房で働いている。
親を亡くしたアレスを不憫に思った親方がアレスの生活の面倒を見るために雇ったのだ。
「親方。聞いてくださいよ。今日は紫煙石が出たんですよ」
「ほう。売ったのか?」
「売るわけないじゃないですか! それでカードを生成したら、まあ見事に持っているカードしか出なかったです」
「そうか」
アレスがそんな世間話をしていると親方は神妙な面持ちになる。
「アレス。お前いつまでエンゲージをしているつもりなんだ?」
「え?」
「いや、別にエンゲージをすることが悪いことだとは言わない。しかし、紫煙石も売れば金になる。そうすればお前の生活も少しは楽になるだろう」
アレスはまだ10歳の子供である。そして、10歳の子供が1人で生きていくのは過酷なものがある。
アレスと同い年で親を亡くした子供はこの世に数多くいる。そして、その子たちは大抵は紫煙石を売って生計を立てている。
「お前にエンゲージの才能があるならそれでいい。しかし、お前はいまだに強力なカードを出せていないのだろう?」
カードというものは基本的にレベルが高くなれば強くなる傾向になる。アレスが出したことがあるカードのレベルは最大で4である。
エンゲージは基本的に自分が生成したカードしか使うことができない。
必然的にレベル5以上の強力なカードをアレスは扱うことができないのである。
仮にレベル5のカードが出せたらアレスにとってはエース級の活躍をするだろう。しかし、世の中にはレベル9のカードをも出せる人間もいる。
そうした格差がこの世界の残酷な部分である。
「何言ってんですか? 親方。俺はまだレベル5以上のカードに巡り合えていないだけですよ! 俺にはエンゲージの才能が……」
「いいや。ないね。お前は諦めて工房で職人として一生働く方が幸せになれる。早くエンゲージなんて卒業して、紫煙石を売った金も生活の足しにすればマシな生活を……」
「親方。俺のことを心配してくれているのはわかります。でも、俺にはやらなきゃいけないことがあるんです」
アレスは親方の意思をくみ取っていた。親方はアレスに少しでも良い生活をして欲しいと願っているのである。
身よりのない子供の面倒を見るくらい優しい親方だから、ついつい親の目線でお節介なことを言ってしまうのだ。
「また煙の向こうの話か」
「父さんはあの煙の向こうに行ったんだ……だから、俺があの先に行かないと」
「その話はもうやめておけ。煙の向こうに世界なんてない」
オーキッドも親方も、それ以外のみんなも口をそろえて同じことを言う。だが、アレスだけはちがっていた。
「親方。俺はもちろんこの工房で真面目に働きます。親方には恩を感じているしそれに報いたい。でも、それと俺の夢の話は別です。俺もいつかはあの煙の向こうに旅立つんだ」
「はあ……まあいいか。どうせ煙の向こう側に行けやしない。いつかは現実を見るだろう」
親方はアレスの夢を子供特有の無謀な妄言だと思い気にも留めなかった。
空のその先に行きたい。雲の上に乗りたいとかそういう子供じみた夢。いつかは覚めるものだと認識していた。
「さあ、そんな話はもういい。今日も働くぞ」
「はい!」
◇
時刻は夕方になっていた。アレスは工房を後にして帰路を進んでいる。
その道中だった。みすぼらしい恰好の老人が倒れていた。
老人はやせ細っていてぴくりとも動かない。
「え? あ、大丈夫ですか!?」
アレスは老人にかけよった。明らかに様子が普通ではない。老人の目は虚ろで口をもごもごさせてなにかを訴えようとしている。
「み、水……」
「水!?」
アレスはこの近くの地理に詳しい。近くにある井戸を目指してそこに行く。そして水を汲んで老人の元へと持っていった。
「水です」
アレスは老人に水入りの水筒を渡した。老人はアレスから水筒を受けとると水をガバガバと飲み始めた。
「あ、そんなに一気に飲んだら……」
アレスは心配するも老人は豪快に水を飲むのをやめない。
そして、水筒を空にして「ぷはあ」と一息をついた。
「ありがとう。君は命の恩人だ」
「は、はあ……まあ、水を汲んだだけなので」
「君の名前を知りたい。ワシの命を救ってくれた殊勝な若者の名を」
老人は黄土色の瞳でアレスを見つめていた。その真剣な目を見てアレスもこの老人を無下にできないと感じた。
「アレス。俺の名前はアレスです」
「アレスか。ふむ。ではワシも名乗ろう。ワシの名はゴルギダス……と言ってもこの国の人間ではないがな」
「え? この国の人間じゃない?」
アレスはゴルギダスの突拍子もない言葉に度肝を抜かれた。そして、ゴルギダスは更に続ける。
「ワシは煙の向こう側から来た……と言ったら信じるかな?」
「!?」
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