第4話 アレスVSオーキッド③-命削りの前のめり-
「よし、俺のターンだ。ダイスロール!」
アレスの目の前にダイスが転がる。ダイスの目は2を示していた。
恐らくはエンゲージにおいて最弱の目。ここに来て、この目はついていない。
「俺はデッキからカードを2枚めくり、そしてその内の1枚を手札に加える。残りはスモークゾーンへ」
だが、アレスにはまだまだ逆転の“目”は残されていた。
「俺はスモークゾーンのカードを6枚消費して、もう1度ダイスを振る」
このゲームの特徴の1つ。コストを支払うことができればドローを行うことができる。
スモークゾーンのカードを6枚消費するリスクはあるものの、ここにカードが潤沢にあれば手札を補充できるのである。
ただ、負けている側がこれをするのもリスクはある。どちらかのデッキが切れればゲームは終了する。
ゲームが終了した時点でより多くのダメージを受けていた方が敗北する。自分のデッキを削るという行為は寿命を縮めるのと同義である。
しかし、そのリスクを背負ってでも得られるリターンは大きい。
「今度は良い目が出ろよ」
アレスの前に再び転がるダイス。それは5を指していた。
「よし! デッキから5枚のカードをめくり、その内の1枚を手札に加える。そして、残りはスモークゾーンへ」
これにより、アレスのデッキ枚数は28枚になった。半分を切ったアレスのデッキ。勝負は後半戦に移行した。
「俺は手札から爆風の魔術師の効果を発動。コストを2支払い、このカードを墓地へと捨てることで相手モンスター全体のパワーを3000下げる」
爆風の魔術師/カテゴリー:魔法使い/種族:人間種/性別:男性
レベル:1(コスト:0)/パワー:1000
効果1(分類:起動/発動場所:手札/適用コスト:2):このカードを手札から捨てて発動する。相手フィールド上の全てのモンスターのパワーを3000下げる。この効果の適用後パワーが0以下になったモンスターを破壊する。
「な、なに? そのカードは!?」
「へへ。オーキッド。お前の霧深き森を突破したいと念じて出したカードだ。まあ、それがなくてもこのカードば強い」
またしてもオーキッドはアレスのカードに度肝を抜かれた。
赤マント姿の男性が爆風を巻き起こす。オーキッドのフィールドにいたモンスターはその爆風のせいでダメージを受ける。
深緑の狩人(パワー8000→5000)
肉食ワーム(パワー9000→6000)
エルフの狩人(パワー13000→10000)
「そして、レヴナントを召喚する」
「またそのモンスター!?」
エンゲージのルールとして同名カードは4枚まで入れることができる。アレスはレヴナントを複数枚投入しているのである。
「更に翼竜の卵も召喚する。そして、バトルだ! 翼竜の卵(パワー8000)で肉食ワーム(パワー6000)にアタック」
翼竜の卵が転がって肉食ワームを
「赤サソリ(パワー10000)でエルフの狩人にアタックする。ここにレヴナント(パワー8000)が援護。合計パワー14000だ!」
赤サソリとレヴナントがエルフの狩人に連携攻撃をする。レヴナントがエルフの狩人を拘束して、その間に赤サソリが尻尾でエルフの狩人の喉を突き刺した。
オーキッドに4のダメージと4枚分デッキからスモークゾーンへチャージが行われる。
「うぐっ……だけど、まだ僕の方が優位だ。ダメージレースでは勝っている!」
「ああ。だけどすぐに追いついてみせる。これで俺はターンエンドだ」
オーキッド:手札:3 スモーク:13 墓地:4 トラッシュ:9 デッキ:31 ダメージ:8
フィールド:深緑の狩人
アレス:手札:1 スモーク:5 墓地:4 トラッシュ:17 デッキ:28 ダメージ:19
フィールド:赤サソリ、レヴナント、翼竜の卵
「僕のターン。ダイスロール」
オーキッドのダイスは4を示していた。オーキッドのデッキが4枚削られる。
「うーん。やってみる価値はあるかな。僕はもう1度ダイスロールの権利を使う」
オーキッドも前のターンのアレス同様に追加のダイスロールを行う。ダイスの目は3。おおよそ期待値通りの目が出ている。
「残りの僕のデッキ枚数は24。スモークゾーンのカードは12枚。ならば、もう1度追加でダイスロールだ!」
オーキッドは更にダイスロールの権利を要求する。スモークゾーンのカードが尽きるまではダイスロールは何回でも行える。
だが、それはコストとなるスモークゾーンのカードを削る行為でもある。
そのリスクを犯してでもオーキッドが狙っているものとは……?
「オーキッド! お前まさか!」
ここでアレスもオーキッドの狙いに気づいた。オーキッドは今はダメージレースで優位を取っている。
つまり、オーキッドからしてみたらこのタイミングでゲームを終わらせたいのである。
だから何度もダイスロールを行い、自分のデッキの枚数を削る作戦に出たのである。
「オーキッド。君にできるのは僕の目が小さいことを祈ることだけだ」
「くっ……1出ろ! 1出ろ!」
デッキに干渉しない1が出ればオーキッドの狙いは外れる。だが、オーキッドの前に現れたダイスが指した目は。
「6だ」
ここで出たのはアレスにとって最も不都合な目だった。オーキッドのデッキが更に6枚削られる。
「さて……ここで6が出たことで僕は更にもう1度ダイスロールをする余裕がうまれた。もう1度ダイスロール!」
オーキッドが6枚コストを支払って、6が出たことで5枚回復したので、スモークゾーンのカードはほとんど減っていない。
ならば、もう1度権利を行使するのは自然な流れだ。
続いてオーキッドが出した目は……
「2か……まあ、そこまで幸運は続かないかな」
オーキッドのターン開始時の処理のフェイズ(ドローフェイズ)。それだけで、デッキの枚数が31枚から16枚に減ってしまった。
「これで僕はドローフェイズを終了する。これ以降このターンで僕がダイスを振ってドロー処理を行うことはできない」
ダイスロールの権利を有しているのはあくまでもターンプレイヤーのドローフェイズ中のみ。そのフェイズを過ぎればドローを行えなくなる。
これでアレスは首の皮1つ繋がったかに見えた。しかし、アレスにはまだこのゲームを終了に近づける算段はあった。
「深緑の狩人を退却させる。退却したモンスターのレベル分だけデッキからカードをスモークゾーンにチャージできる」
「その手があったか……!」
モンスターの退却。自分フィールド上のモンスターを墓地に送ることができる権利である。退却したモンスターのレベル分のチャージが行えるが、該当ターンに召喚されたモンスターは退却を行えない。
深緑の狩人はこのターンよりも以前に召喚されていたために退却の対象内であった。
深緑の狩人のレベルは3。オーキッドのデッキは13枚に減る。
「アレス。状況はわかっている? このターン。僕が召喚したモンスターのレベルの合計が13以上になれば、そのモンスター全て破壊か退却に成功すれば僕のデッキは完全に削られる」
「ああ。俺ができるのは、オーキッドのリソースで13以上の合計を出せないことを祈れってことだろ? その手札の枚数とスモークゾーンの量的に可能かもしれないな」
自軍のモンスターは最大で5体まで出すことができる。つまり、オーキッドの手札が2以下の低レベルモンスターに集中していれば合計レベルを13にすることはできない。
だが、アレスは知っている。オーキッドがこの状況でそれを言ってくることは……できてしまうのだ。
アレスはオーキッドとエンゲージばかりしてきた。だから、彼の心理は子供の頃に読み飽きた絵本の展開のように手に取るようにわかる。
「村娘エルフ(レベル1/パワー1000/コスト0)、密猟者(レベル3/パワー7000/コスト1)を2体、異次元の猟犬(レベル4/パワー8000/コスト2)、キノコ星人(レベル2/パワー5000/レベル1)を召喚して僕は場を埋める」
オーキッドのフィールドのモンスターのレベルが13以上になってしまった。このモンスターを全滅させた先に待っているのは、アレスの破滅である。
オーキッド:手札:2 スモーク:4 墓地:5 トラッシュ:32 デッキ:13 ダメージ:8
フィールド:村娘エルフ、密猟者、密猟者、異次元の猟犬、キノコ星人
アレス:手札:1 スモーク:5 墓地:4 トラッシュ:17 デッキ:28 ダメージ:19
フィールド:赤サソリ、レヴナント、翼竜の卵
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