第6話 ハンターになれます?
「このよく光っている三つは魔力と技巧と敏捷で、三等判定ですねぇ」
ヘイジは記憶にあるステータスの内容を思い出してみる。魔力は魔法や一部のスキルを使うときに消費する。技巧はスキル全般の発動スピードや攻撃の命中精度などに影響、敏捷は動きの素早さやの瞬間的な反応速度などに影響するものである。
無論それはゲームの話であり、この世界でどう影響するかは未知であるが、指標にはなるだろう。
「三つも三等能力があるなんて、かなりすごいことなんですよぉ」
「そうなんですか!」
意外な嬉しい評価にヘイジは目を見開く。極めて珍しいと言う程ではないが、誰でも持っているわけでもないそうで。三等能力が三つもあれば、ハンターとして十二分に活動できるとのこと。
「次にまあまあ光っているこの二つは体力と持久力で、どちらも四等判定ですねぇ。これはまあ普通といったところですかねぇ」
ヘイジは眉根を寄せる。体力はゲームではそのままヒットポイントであったが、この世界では生命力とも言えるものだ。身体能力に対する詳細な影響はヘイジには分からなかったが、命に直結することは想像できる。持久力はスタミナ量に影響するため、移動や継続的に体を動かす上で重要なステータスである。
「普通ならまあ……」
ヘイジとしては正直なところ、命に関わりそうなこの二つにはもう少し頑張ってほしかった。
しかし、ひとまずハンターとしてやっていけるだけの適性があるのであれば、それに越したことはないのだと、ヘイジは自分に言い聞かせた。
「最後に残りの二つなんですがぁ……。そのぉ、評価できませんでした……」
「えっと、評価ができないというと?」
予想外の言葉で理解できず、ヘイジはそのまま聞き返してしまう。
タリンは言いにくそうにしながらも、口を開く。
「普通のハンターなら、どんなに適性が低い能力値でもごく僅かに光るんですよぉ。その場合は最低クラスの六等になるんですけどぉ、ヘイジさんの場合本当に光りすらしてないのでぇ」
「そんな……。あれ、待ってください。残りの二つって」
ヘイジの額に汗が流れる。
「筋力と魔法力ですね」
気まずさを隠せない表情で、タリンはヘイジを見る。
「……」
目を見開いて黙り込むヘイジ。醸し出す重い空気に耐えかねたのか、タリンがやけに明るく喋りだす。
「それではヘイジさんに適性のある戦闘スタイルのご提案をしますね! 技巧と敏捷が優れているので、素早さで敵を翻弄しながら的確に攻撃を打ち込む、百発百中のハンターになれるでしょう! 鍛錬次第で魔力量も平均以上に多くなりますし、体力と持久力も平均的なので必要十分です! 若干苦手なポイントとしては、筋力と魔法力の適性がちょっと皆無というか、そのぉ……。武器での攻撃は一般人と変わらないし、魔法も日常生活がちょっと便利になるかもという感じですぅ……」
「ぅおぉ」
ヘイジは衝撃のあまり、顔を青くして椅子にへたり込んでしまう。筋力が成長しなければ力をまともに振るえない。魔法力が成長しなければ魔法をまともに使えない。つまりそれは、特獣への攻撃がほとんど不可能ということではないか。
新たな人生の早すぎる躓きに、ヘイジは頭を抱えたくなった。
「あの、これってハンターとして、なんとかやっていけませんかね」
「方向性としては斥候系のハンターに近いんですが、彼らも弓や魔法を使いますからねぇ。飛脚ぐらいしか思いつきません!」
開き直ったように笑顔を見せるタリン。
「ええ、ハンターですら無いじゃないですか。せめて荷物持ちとか出来ないんですか」
「彼らも結構筋力要りますし、自衛が求められる事もありますからねぇ。というかヘイジさん、仮に特獣を狩れても、持ち帰るのが大変ですよぉ」
特獣の素材を持ち帰るのはそれだけでも重労働だ。そこでも筋力や魔法が役立つのだが、あいにくヘイジにはどちらも無い。
「そういう問題も……。うわあ、そりゃそっかあ」
ゲームでは戦闘能力に影響するのみだったステータスも、現実世界ではゲームで描写されていなかった多くの使いどころがあるだろう。
ただでさえ先行き不安な将来が更に暗くなったように思えた。
「そもそもヘイジさんみたいな例は初めてなんですよ! 総合力のあの強い光は何だったんですか!」
バンバンと机を叩くタリンに、そんなことはこちらも聞きたい、とげんなりしてしまうヘイジ。
タリンは先ほどの書類に測定結果を書き込むと、ヘイジを気遣うように語り掛ける。
「一応ライセンス発行の条件は満たしてますけど、どうしましょうかぁ? 能力値を測ったからといって、必ずハンターにならないといけないわけではありませんよぉ。ただライセンスは簡単な身分証にもなるので、ひとまず作っているだけの人もいますねぇ」
「一応、お願いします……」
ヘイジはハンターライセンスを発行してもらうことにした。ここまで来て、なんの成果も無いのでは困るのだ。
その後、ヘイジはタリンに礼を言って個室を出た。ロビーで待つこと数分、最初に話しかけた受付嬢に名前を呼ばれた。
「この度は、ハンター登録おめでとうございます」
「あ、ありがとうございます……」
引きつった笑みを浮かべながら受付嬢を見るヘイジ。クスミと書かれた名札を付ける彼女はいかにも真面目そうで、嫌味を言っているような感じでは無かった。
ヘイジはクスミからライセンスカードを受け取る。掌に納まる程の長方形の金属製カードで、ずいぶんと丈夫そうであった。隅に小さな穴が開いており、紐を通して首に掛ける人もいるそうだ。
ハンターとして活動する上での注意事項等の説明を受けてから、ヘイジはギルドを後にした。
日が暮れてきた街を宿へと歩くヘイジ。重い足取りでライセンスカードを弄びながら、自分のステータスを思い返す。
測定で露わになったステータスは、ゲームシステム的に見ても全くバランスのとれていない異様なものであった。しかしヘイジはそれに見覚え、というより身に覚えがあった。
「あの神、スパイスを加えたとか言ってたしなあ」
宿に戻ってきたヘイジは、憎たらしい笑みを浮かべる神を思い浮かべながら部屋の扉を開けた。
「やあ! 呼んだかい?」
「うへぁ!」
無人のはずの自室から何者かに声を掛けられ、情けない声を上げるヘイジ。
声のした方にヘイジが目をやると、そこにはベッドに寝そべりながらノートパソコンを触る娯楽の神がいた。相変わらず虹色に光るヘッドセットが鬱陶しい。
また会うとは言っていたがまさか日も跨がぬうちに再開するとは思っておらず、ヘイジは腰を抜かしそうになった。
「無事ハンターになれたみたいだね!」
そう言う娯楽の神はニヤニヤと笑みを浮かべて、ヘイジの手元にあるライセンスカードを見る。
ヘイジは呼吸を整えつつ部屋に入り、扉を閉めてから娯楽の神に不満をぶつけた。
「無事なものか。絶対こうなるって分かってただろ……」
「そりゃもちろん。目を白黒させる君の姿は最高に面白かったよ。はぁー娯楽娯楽」
娯楽の神は満足そうに頷くと、体を起こしベッドの縁に座って足を組んだ。
「そんな極楽みたいに」
ヘイジは備え付けの椅子にドカリと座ると、頬杖をついて非難げな目を娯楽の神に向ける。
「まあそんな目をするなって。こんなにすぐ出てきたのには理由があるんだよ。面白いものも見られたところで、ちょっと種明かしをしようと思ってさ」
「ステータスのことか」
最初に伝えてくれれば良いものを、とヘイジは内心でぼやいた。娯楽の神がわざわざ再び現れたのを見るに、彼女は本当に面白がる目的で泳がせていたのだろう。
「そうだね。もう気付いてるみたいだけど、この世界には本来ハンターズライフには無い要素が追加されているんだよ。君が死の間際まで開発に没頭していたModがね」
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