第23話


 それから、私と神白くんは友達になった。


 東京こちらに来てから、同じ講義を受けるうちに女友達は出来たけど、皆それぞれ忙しくて、講義で隣に座ったり、時間が合えばランチを一緒に食べたりするくらいで、いつもベッタリ一緒に行動するということはなかった。


 高校の時、綾音とはずっと一緒にいたから、そういうのが少し寂しくもあったけど、次第に自分自身も忙しくなったのもあって徐々に慣れていった。


 だから、神白くんはすぐに一番一緒にいる時間の長い友達になった。


「あの二人、付き合ってるんだって」

「ええ〜、お似合いすぎ」


 瞬く間にキャンパス中の噂になったことは、予想外だったんだけど。


 まあ神白くんは人気者だから、仕方ないのかも。


「何だか、変な噂が流れてるみたいだけど……ごめんね。彼氏とか、気を悪くする、かな?」


 隣同士で講義を受けた後、神白くんが少しぎこちなく言う。


「ううん、彼氏はいないから。神白くんこそ、大丈夫?」

「えっ!? ほんと!? 彼氏、いないのっ!?」

 

 後半の質問は聞こえなかったのか、神白くんが身を乗り出して言うので、少し驚いてしまった。


「う、うん」

「そ、そうなんだー。へぇ〜。本郷さん、モテそうだからいるのかなーって思ってた。ハハハッ」

「モテないよ。神白くんこそ、変な噂が立つと困るんじゃない?」

「そっ!! そんなことないよ!!」


 思ったより大きな声が出てしまったのか、神白くんは周囲を見てから、ゴホンと咳払いした。


 ふふふっと笑いがこみ上げる。


 神白くんは、面白い。


 


「瑠夏ちゃん、神白くんとほんとに付き合ってないの?」


 ひさびさに一緒にランチする学内の友達に、学食でいきなりその話を振られたので、付き合ってないとハッキリ言ったら、不思議そうにもう一度聞かれた。


「ほんとだよ。神白くんが、私なんかと付き合うわけないよ」

「え〜? 瑠夏ちゃん、何言ってるの? 神白くん、他の女子にはソツなく接するのに、瑠夏ちゃんの前ではウブな男子学生って感じで、好きなのバレバレじゃない。多くの女子が泣いてたわよ。もう付き合ってるのかと思ってた」


 友達のカヤちゃんは、茶色いワンレンボブヘアに赤い縁の眼鏡をかけたオシャレな女の子だ。今日は短め丈のセーターとタイトなロングスカートを履いていて、赤いバッグを肩からかけている。


 私は「それはないよ」と言いながら考える。


 確かに、神白くんは女子と喋るのにも慣れているはずなのに、少しぎこちない感じがするし、すごくウブな印象だ。


(私のことが好き、なのかな……) 


 それはちょっと嬉しいような、複雑なような。


 というのも、私はリョウちゃんに振られてからも、もちろんそれまでも、一度も誰かと付き合ったことがない。


 だから、『友達』なら良いけれど、『彼氏』となると何だか違和感があって、むず痒い感じがする。


 それに、リョウちゃんのことがあって、恋愛には少し恐怖心を抱いている。


 『友達』と違って、いつかは別れが来ると思ってしまうからなのか……。


「瑠夏ちゃん?」


 少し考え込んでしまって、カヤちゃんに顔を覗かれる。


「あ、ごめん」

「神白くん、そろそろ告白して来るんじゃない? 返事、考えといた方がいいよ」


 ふふっと笑って、カヤちゃんはトレイを持ってランチの列に並ぶ。


 告白、かぁ。


 私はふと、高校生の時のことを思い出す。


 リョウちゃんと行ったファミレスでの、あの緊張感。


 公園でのバスケ。


 そして、初めてのキス――――。


 その全てが、今は悲しい思い出だ。


 


 ランチ後、カヤちゃんと別れて構内を歩いていると、耳馴染みのある声が後ろから聞こえた。


「本郷さん!」


 振り返ると、やっぱり神白くん。


 陸上選手らしく綺麗な走りで、神白くんは中庭の方から颯爽と現れる。


 まさに、爽やかイケメンってやつだ。


 私は思わずふふっと笑ってしまう。


「え? 俺、なんかおかしかったかな?」


 目の前に来た神白くんが慌てている。


 そんな姿も何だか可愛くて、私は堪らず吹き出してしまった。


「だ、だって! 神白くん、王子様みたいな外見で、真面目な顔して走って来るんだもん。かっこ良すぎるよ」


 神白くんはそう? と言いながら、顔を真っ赤にしている。


 神白くんといると、楽しい。


 私がそう思っていた時、神白くんはまた真面目な顔をして、私の正面に向き直る。


「あ、あの! 本郷さん! いきなりだけど、俺と、デートしてくれませんか!?」



 ・

 ・

 ・



 そして、三日後の日曜日。


 私は神白くんとデートすることになった。


 朝からコーデを少し悩んで、白いゆるめのニットに黒デニムのタイトなロングスカート、黒のショートブーツ姿で出かけることにした。


 デートということなので、髪はアップにしようと思い、肩甲骨くらいまで伸びた黒髪をラフにお団子にしてみた。


 いつもは大体下ろしっぱなしなので、気合いを入れてるみたいでちょっと恥ずかしい。


 そう思いつつも、別にいいかと黒のショルダーバッグを持って、ブーツを履き、家を出る。


 待ち合わせ場所は、大学の隣駅前の広場。神白くんの自宅は少し離れているみたいだけど、私の家からはすぐ近く。


 私が広場に着くと、待ち合わせの時間までにはまだ10分以上あるのに、神白くんはもう来ていた。


「おはよう。神白くん。早いね」

「お、おはよう! 本郷さん!」


 緊張したような顔で、神白くんはシャツに綺麗めのパンツ、その上にロングコートを羽織った姿でこちらに歩いてきた。


(やっぱりイケメン)


 周りにいる女の人たちが、神白くんを見ている。


(そりゃそうだよね。モデルさんみたいだもん)


「どこか行きたいところある?」


 そう聞かれて、住んでから随分経つけど、あまり遊びに行くことがなくてこの辺りを全く知らないことに改めて気付く。

 私がそう言うと、じゃあ映画でも観ない? と誘ってくれた。


 時間もちゃんと調べてあって、候補の中から私の観たい映画を選んだ。


 恋愛モノやホラーはちょっと、と思って、犬と子供の成長ストーリーを観ることになった。


 何気なく選んだつもりだったのに。


 



 映画の後。


「本郷さん、大丈夫?」

「う、うん、ごめん」


 涙が止まらずハンカチで目を押さえる私に、神白くんが優しく付き添ってくれる。

 

 だから、早く涙を止めないと。


「ちょっとお手洗い行ってくるね」


 私は逃げるように、神白くんを置いて女子トイレに入った。


 こんなに泣いたのは、いつぶりだろう。


 きっと、、リョウちゃんと別れて以来。


 映画は、シロとリョウちゃんを連想させる登場人物が出てくるストーリーだった。


 神白くんに申し訳ない。


 もういなくなってしまったリョウちゃんの存在が、私の中でまだこんなにも色濃く残っているのを実感して、涙が止まらなかったなんて――――。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る