第20話 リョウキ
物心ついた頃には、父親はいなかった。
死んだわけではないらしいけど、ある日突然いなくなったとか。
そんな事あんの?
……よく分かんねぇけど、説明テキトーすぎじゃね? って思ったのを覚えてる。
母親は常にオシャレして、化粧してないと気が済まない系の女だった。
母親を客観的に見出したのは、暴力的なカレシを家に連れ込んでからだ。
それまでは、家を空けることが多いしテキトーだったけど優しかったし、絵本を買ってもらったこともあるし、頭を撫でられたこともあった。だから、嫌いじゃなかった。
でも、アイツが来てからはサイアクだった。
アイツは、イラつくとすぐに俺を殴った。体格が違いすぎて対抗出来なかったから、タコ殴りだった。
周りにバレないように、服で隠れるところだけ、執拗に殴られた。
でも一番信じられなかったのは、母親がそれを平気で見てたこと。
助けようとするどころか、まるで無関心だった。
その時に悟った。
あー、俺っていらない子だったんだー
って。
たぶん哀しくて寂しくて、行き場がなくてバスケゴールにボールを打ち込んで気を紛らわせてた。
そこに、いつもルカがいた。
幼稚園の頃からの幼馴染。
この世の汚れなんて、なぁんも知らないお嬢様のルカ。
俺は、ルカのその無邪気なところに救われてた。
ルカは、何にも気付いてない。
この世には救いようのないクズがいることも、逃れられない地獄があることも、何も。
俺は、ルカには絶対にそれを見せないようにしようと決めた。
それが、俺の唯一の安息の地を守る方法だったから――――。
「リョウちゃんはバスケ上手いね! 将来はバスケ選手だね!」
お釈迦様かっていうほど眩しい笑顔で、ルカは言う。
ルカはどんどん可愛くなる。
いや、元々可愛かったけど。
中学の頃には、ちょっと声かけるのも緊張するくらい、いい女になってた。
バスケもどんどん上手くなって、いつの間にかキャプテンになってたし。
成績も学年トップで、運動神経も抜群。
容姿は突き抜けすぎて、ダントツの人気ナンバーワン、文句ナシの学園マドンナ。
……いやいや、完璧すぎだろ。
正直、あの手引いて歩いてたちっちゃいルカと同一人物か? って思うほど、ルカの成長は凄かった。
だから。
あの時、団地の敷地で倒れてる俺を、ルカが家まで運んでくれた出来事は、夢かと思ったくらい、衝撃的だった――――。
どんどんルカと距離が近付いていって、俺は迷ったし、焦った。
ルカは、本当の俺を知らない。
今まで見せてなかったから。
だから、離れないとと思ったけど、離れきれなかった。
何かと理由をつけてルカと接点を持とうとしてる自分がいる。
駄目だと思いながら、ルカに連絡出来る機会を見逃せない。
どうせルカと俺は別の世界の人間だから、最終的にはルカの方から離れて行くと言い訳して。
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ルカと再会するちょっと前、親戚中を名目だけたらい回しにされてた俺を、引き取ってくれるって人が現れた。一応未成年だし。その人は子どものいない老人で、就職の支援もしてくれるってことだった。
いずれはちゃんと働かないといけないと思ってたから、いい話だったけど、その人は東京にいて、ブライツのリーダーとしてすぐにはグループを離れられなかった俺は、一旦その話を断った。うまい話すぎて、ちょっと怪しいと思ったし。
そしたら、こっちの知り合いに俺を紹介してくれて、就職支援の一環でここにいながら出来るサポートをしてくれた。お金も送ってくれて、なんでそこまでしてくれるのかと聞いたら、俺の容姿を気に入ったんだと言われた。
変に同情話されるよりは、その方が納得がいったけど、今度はあっち系の人かと疑った。
でも、その人は七十近いじいさんで、言ってることも尤もらしいように聞こえた。俺を引き取りたい理由も、介護目的だと潔く認めた。だから一旦信用することにして、支援を受けることにした。
「お前はブライツを台無しにする!! 返せ!! あたしのブライツを!!」
サヤカは、グループを抜けてキャバクラで働くようになっても、度々俺たちのことに口出ししてきた。
一緒に住んでたし、完全に離れることはないと思ってたけど、結構ウザかった。
サヤカが抜けても支持層は残ってて、俺のやり方に異を唱えるやつもいた。
俺はサヤカと違って、一般人には手は出さないし、出させない。
俺のターゲットは、派手にここらを荒らしまくってるワルいヤツらだ。そういうヤツらからカネを巻き上げることもワルいことだけど、カネがないと生きていけない。
グループのやつらは親がいないか、毒親持ちかのどっちかだから。
ルールを作って、そういうやり方で俺は何とか生きてた。
そのうちに謝礼付きの護衛やらなんやらを頼まれるようにもなって、結構上手くいき始めてた。
でも、それに不満を持つメンバーも少なからずいた。ワルいやつを相手にするのは体力がいる上に、見返りが少ないこともあるから。グループの名は格段に上がったけど。
サヤカが戻ることで、グループ内の衝突は避けられなくなった。
もう元には戻れないと思った。
だから、あの日、サヤカに別れを切り出して、アイツは出て行った。
別に嫌いだったわけじゃない。
それなりに相性が良いとこもあった。
意外と家事が出来て、料理は全部作ってくれてたし。文句言いながらでも。
アイツはキャバクラで稼いでたし、別にグループに戻る必要なんかなかったのに、わざわざ戻って来るのが不思議だった。
俺はここにいたくているわけじゃなかったから余計に。
でも本当は分かってた。
アイツは居場所を求めてるんだって。
アイツにはいなかったんだ。俺にとってのルカみたいな存在が。
だから、仲間以外の全てを憎んでた。
恨みに囚われて、自分を見失ってる感じの時もあった。危うくて、でも気持ちは痛いほど分かって、辛かった。
俺もルカがいなかったら、そうなってたかもしれないから。
サヤカを恨みの地獄から救ってやりたい気持ちもあった。
「リョウキ、リョウキ。あたしを助けてよ」
布団の上で、サヤカは泣きながら言う。そういう時だけは、サヤカは弱気になった。
でもどうしたらいいのか、分からなかった。
救われるには、サヤカ自身が変わるしかない。
結局、俺はサヤカを見捨てた――――。
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ルカから突然メッセージが来て、スマホを落としそうになった。
もう連絡は来ないと思ってたのに。
ルカには、俺たちの世界は醜悪すぎるから。
『話したいことがあるから、今日会えないかな?』
話したいこと?
あの事件のことか、それとも――――。
もちろんソッコーで返事した。
その日会ったルカは、いつもと雰囲気が違ってた。
なんか、色っぽいっていうか。
『女』って感じだった。
俺は浮かれてた。でも、そんな態度は絶対に出さずに、飄々と装った。
なのに、サヤカのことが今も好きかと聞かれた時、思わず固まった。
それって、どういう意味?
期待感と自制心がせめぎ合って、限界まで我慢したけど、無理だった。
ルカとの関係が変わってもいいと本気で思った。
――――それが、サヤカが石島を刺したっていう連絡を仲間から受けて、ちょっと冷静になった。
サヤカが危ないと思った。
石島は、サヤカのことを好いてる。
だから、サヤカをいつも守ってる。
俺なんかよりも、あの人の方がよっぽどサヤカの助けになる。
ブライツの初期メンバーで、長くサヤカと一緒にいたのに、絶対に手を出さなかった石島。
妹を亡くしてから、若い女には手を出せなくなったらしい。
その石島を刺したって聞いて、いよいよサヤカは正気を失ってると思った。
他の奴らは、石島がいなくなったら、何をするか分からない。
俺はルカと別れて、サヤカを探しに行った。
でも、もう手遅れだった。
俺が行った時には、もう――――……。
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