第19話 サヤカ
アジトの倉庫に戻って、身を潜めるしかないあたしは、もう明らかにオカシイ状態だ。
クスリなんてやってないのに、まるでキマってしまってるみたいに、手の震えが止まらない。
数分前の感触が、まだはっきりと手に残っている。
――――石島を刺した。
その事実は、あたしの中の何かを壊した。
「あんたは……グループを、離れた方がいい」
あたしのナイフが石島の腹を刺した後、倒れる寸前にアイツが言った台詞。
グループを離れて、どこへ行けって言うんだよ。
あたしの居場所は、ここにしかない。
キャバクラでナンバーワンになっても、そこにあたしの居場所なんてない。
ただ、商品として見られてるだけだ。
稼ぐための商品。
何のメッセージ性もない。意味もない。
孤独を紛らわせることも出来ない。
あたしの求めるものは、ここにある。
同じ境遇の仲間と、共通の目的を果たす。
あたしらを軽んじて、無残に捨て去った
――――でも、アイツらが邪魔するから。
石島も、リョウキと同じ。
他人から奪う度胸のない腰抜け。
それなのにあたしの邪魔をする。
――――だから、刺した。
あたしのこのイライラは、他人から奪うことでしか満たされない。
自分は不幸なんかじゃなくて、奪う側の人間だと示したかった。
同じように思ってる仲間がここにはいる。
なのに、この虚しさは何だ――――?
「サヤカさん。大丈夫っスか?」
藤田が声をかけてくる。
他にも仲間が六人。
あたしは、ブライツのリーダーだ。
「石島さん……生きてますかね」
「……さあな」
「手、震えてますケド」
「うるせぇ」
「顔も青いッスよ?」
「うるせぇな!! テメェらが石島にビビってるからあたしがオトシマエつけてやったんだろが! 大体テメェらはアイツに遠慮しすぎなんだよ! だからいつまでも状況が変わらねぇんだっ!!」
あーイライラする。
イライラが止まらない。
誰か、これを止めてくれ――――。
「ねー、サヤカさん」
藤田がいつもどおり、飄々と言う。
コイツはいつもそうだ。あたしがどれだけイラついてても、関係なく自分がしたい話をしてくる。
「石島さんが守ってたものが何か、分かります?」
藤田の声の温度が下がった気がした。
「あ……?」
「秩序」
その瞬間、周りにいた奴らがあたしの両腕を押さえつけた。
「テメェら!! 何のつもりだっ!?」
あたしは目と歯を剥いて叫ぶ。
「まだ分からないの? 石島さんがいたから、あんたがリーダーでいれたこと」
「なっ! 何する!! 放せっ!!」
あたしは叫びながら必死に藻掻く。
「“ブライツの最後の良心”石島さん。リョウキたちが抜けた後のホントの最後だったのに、それを自分で排除しちゃうんだもんねー、サヤカさんは。残ったのはクズだけ。この意味、分かります?」
何を。何を言っているんだ、コイツは。
取り押さえられた両腕に力を込めるが、全く振りほどけない。
“ブライツ”はあたしが作った。
行き場を失った奴らの居場所として。あたしが――――。
「ブライツのリーダーは今日から俺でーす。サヤカさん、あんたは用済みー。でも勿体ないから最後に楽しんじゃおうかなって」
「な、何を……っ」
「俺は最初っからイイ女だって思ってましたよ? 本郷さんは良くて、自分は駄目なんて言わないよね? サヤカさん?」
その瞬間、床に背中を強く打ち付けられた。
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「名前は?」
「……葛木凌輝」
「リョウキか。歳は?」
「14」
「中坊か。親に捨てられたんだって?」
「……」
愛想の悪い綺麗な顔のガキ。
それがリョウキの第一印象。
「サヤカー。飯まだ?」
「……自分でやれよ」
「だって俺作れねぇもん」
「……ったく、しょうがねぇな」
リョウキがグループに入って数年経った頃、あたしは突然アイツの部屋に押しかけて、そのまま居着いた。
住んでたアパートを追い出されたから。
リョウキとの生活は、それなりに楽しめた。
リョウキは見た目に似つかず几帳面で、綺麗好きだから、古い建物だけど部屋は常に清潔だった。
リョウキはあたしと似ている。
親に虐待されて、捨てられた境遇も、何となく見た目も。
弟みたいな感覚だった。
――それが、いつからか“男”に変わった。
「サヤカは俺のこと好きなの?」
「はぁ? そうだからこうしてんだろが」
夜を共にして、そんな間の抜けたことを言うやつ。
「ふーん」
と言って、ゴロリと布団から起き上がって、さっさと着替えてマイペースにカップラーメンを作るやつ。
ツッコミどころ満載な癖に、大事な場面で絶対にハズさないやつ。
リョウキにリーダーの座を譲ったのは、そういうやつだったから――――。
「テメェ!! 勝手なことすんじゃねぇよ!!」
「お前はもう抜けたんだから、口出しすんな」
「あ……!?」
ある時、グループの方針のことで喧嘩になった。ボコボコにリョウキを殴って、家を飛び出した。
そんなことが何度も続いた。
あたしは、もう一度“ブライツ”に戻ることにした。あたしの居場所に。
「付き合ってたのかどうか分かんねぇけど、別れよ。もう限界だわ」
頭を掻きながら軽く言うリョウキを荷物の入った旅行バッグで思いっきり殴り倒して、家を荒らしまくってあたしは荷物を持って出て行った。
分かってた。
そういうとこが嫌がられるのは。
あたしだって嫌だ。
父親にそっくりな乱暴な性格が――――。
でも、こういう状況になって、思い出されるのはアイツのことばかり。
あたしは、本当に、アイツのことを――――。
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