第3話 姫魔王はカーストに泣かされる。
入学から1ヶ月。
瑠夏は、俺にだけは話しかけてくれるようになった。
……しかし、小憎たらしい。さすが元魔王。悪行の英才教育を受けているだけのことはある。
「瑠夏 昼飯どうするの?」
「わたし、お友達とランチの予定が入ってる」
「まじか。お前、俺以外に友達いたのな」
「フッ。当然……。あっ。そうそう。聞きたいことがあるんです」
「なに?」
「友達って、なんですか?」
これまた抽象的なの来たな。
友達いない人の質問だよね。
「愛用の攻略本には書いてないの?」
「本によると『友達の何たるかは友達にきけ』とのことでして……」
禅問答みたいな本だな。
さて、世間知らずの瑠夏さんには、ふつーの回答が最適だろう。
「俺が思うに、本当に困ってる時に助けてくれる人かな」
「ふむふむ……」
瑠夏はメモしている。
生真面目な性格だ。
魔王時代、瑠夏……魔王サイフォニアは、時間の大半を民や政治の勉強ために費やした。そのため、己の武力に関しては後回しだった。
俺は時間のほとんどを自分の強さのためだけに使った。俺がコイツに勝てたのは、単に俺の方が自分本位だったからに他ならない。
そんなコイツは、魔王なのに名君と言われていた。それを元老院のジジイどもが正義の名の下に討伐したのだ。
魔界の名君を、暴君の正義が討つ。
世の中で一番救いようがないものは、他を許容しない正義なのではないかと思ってしまう。
正直、好き嫌いでいったら、俺はジジイ共より、コイツの方が好きだ。
すると、物騒な噂が絶えないクラスの問題女子3人組が、こっちに来た。
「姫島。ちょっとツラ貸せや」
「はい。ぜひ!!」
これが例のランチの約束?
どうみてもイジメられっ子を呼び出す時のテンプレートにしか思えないんですが、俺だけですか?
瑠夏は軽い足取りで教室を出て行った。
「はぁ……」
俺は一応、勇者なのだ。
これからイジメられる人を目の当たりにして放置はできない。
瑠夏の後を追った。
すると、瑠夏達は屋上にいた。
ってか、瑠夏、胸ぐら掴まれてるけど。
大丈夫か?
あいつポンコツだからな。
心配が尽きないぜ。
3人組の真ん中にいる女子が瑠夏に何か言っている。
「あたしら、足いたくてさ〜。代わりにパン買ってきてくれない? ツケでさ〜」
取り巻きの2人もキャハハと笑う。
瑠夏はニコニコして自分の財布を出すと、階段を降りて行った。すれ違いざまに聞こえてしまった。
「困った時はお互い様。頼みごとは断らない。これも本に書いてあった通りだっ」
どうも俺には、幸せマニュアルのせいで不幸一直線に見えるんだが、大丈夫なのだろうか。
……胸糞悪い。
ただの使い走りじゃねーかよ。
それを嬉々としてこなす瑠夏もどうかと思う。
いや、瑠夏にとっては、それすら嬉しいことなのか。
隠れていると、瑠夏が戻ってきた。
「桐さんはミルクパン、えと、エミさんはカステラ……、涼子さんは梅干しパン」
涼子のパンを間違えたらしい。
涼子は激昂した。
「ワタシのパンだけ梅干しって……わたしはバーさんかっ。。てめぇ。ふざけてるのか!!」
1人だけ梅干しって(笑)。
正直、涼子の言い分がもっともだと思う。
涼子は瑠夏を踏みつけた。
「あぅ……」
おいおい。
瑠夏さんよ。普通にイジメられてるじゃないか。
本当なら本人が自力で克服するのを期待したいが、友達経験値ゼロの瑠夏には無理だろう。
瑠夏は攻略本を開いている。
目の前にブチギレ涼子がいるのに大した度胸だよ。
「あっ」
瑠夏は何かを見つけたらしい。
何かブツブツと言っている。
どれどれ勇者の耳で……。
「えと、たまに殴られたりも友情を深めるための大事なステップって書いてある……」
あの本、ダメだ。
すぐに捨てさせよう。
すると、誰かが入ってきた。
九条だ。
九条はクラスの女の子で正義感が強い。
九条は、涼子の前に立ちはだかった。
「あなたたち、こんなことしてタダで済むとおもってるのっ?!」
すると、涼子が一歩、前に出て凄んだ。
「いつもカッコつけて良い子ちゃんぶりやがって。わたし、あんたのこと前から嫌いなんだよ」
九条は怯まない。
「やめなさい!!」
すると、涼子はニヤニヤした。
「これからタダじゃ済まなくなるのは、お前の方なんだよ。キリ、エミ。九条を押さえつけて脚を開かせろ」
2人はニタニタしながら従った。
涼子は気分良さそうに言った。
「これからアンタのパンツ脱がせて、あんたのアソコを撮影するからさ。今後ワタシらに逆らったら、クラスの男子全員に送るから。皆の夜のアイドルだねっ。九条さん」
「やめてよ。。。」
九条は脚を押さえつけられると、俯いてポロポロと涙を流した。
瑠夏は……。
一生懸命、友だちマニュアルをめくっている。
このパターンの対処法を探しているようだ。
「……出てない」
そりゃあそうだよ。
出てたらむしろ怖いわ。
チッ。
俺が出ていくしかないか。
できれば、目立つことはしたくないんだがな。
すると、瑠夏は立ち上がり、スルスルとセーラー服を脱ぎ始めた。
「王族の子女たるもの。陵辱を受けた時の心構えは学んでいます。わたしを撮りなさい。ただし、地獄の果てまで追いかけ、あなたを必ず殺します。覚悟なさい。さあっ撮れっ!!」
涼子は後ずさりした。
「コイツやべーよ。頭おかしい。ちっ。いこー」
3人は逃げるように立ち去った。
正直、俺もドン引きだった。
残念ながら、今回も涼子の意見が正しい。
こいつやべーよ。
瑠夏は九条を抱きしめた。
九条は涙を拭って言った。
「助けてくれてありがとう」
瑠夏は自信満々で答えた。
「友達とは、困った時に助けてくれる存在なのです。わたしの親友が言ってました」
え。
親友っておれ?
電話番号も知らないし。
学校以外で殆ど話したことないんですが……。
でも、不思議と嫌な気持ちはしなかった。
九条と瑠夏は意気投合し、手を繋いで階段を降りていった。
俺は目を瞑る。
「あの3バカは今、体育館か。腹いせに他のヤツに絡んでる。……ゴミは始末しとくか」
俺は屋上の柵を飛び越えた。
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