第2話 姫魔王は使い魔を従える。


 俺は西園瑛流(にしぞの えいる)。

 姫島高校に通う新一年生だ。


 今日は入学式だ。


 姫魔王の生まれ変わりである、姫島瑠夏(ひめじま るか)を監視するために、日本に送り込まれ、同じ高校に入学した。


 赤子から始まり、今日のこの日に辿り着くまでに、俺は16年を費やしている。


 16年間のサービス残業とか、ほんと最低だ。


 元老院のくそじじいどもめ、戻ったら皆殺しにしてやりたい。


 ちなみに、俺は勇者としての力を引き継いでいる。これは、いざという時に、姫魔王を倒すための力だ。だが、現状の姫島瑠夏は、至って普通の女の子。魔力も感じない。


 だから最近は、監視もストーキング気分だ。通報される前に、やめようかな。


 今日も物陰からターゲットを監視する。

 対象は、姫島瑠夏。


 身長155センチの日本人女子。

 黒髪ロングのまつ毛長め。


 華奢ながらバストはEカップ(出典:元老院)で、でるとこは出ている。黒と紫を基調としたセーラー服がよく似合っている。


 ……よくもまぁ。こんな美少女に転生したものだ。まぁ、前世でもかなりの美人だったしな。


 俺が見ているとも知らずに、瑠夏は1人で何か呟いている。


 「……闇から生まれし眷属よ。いまこそ、我を守護する使い魔となれ……。フフッ。闇の眷属よ。そなたの名前は、チョチョ丸じゃ……。フッ。我が魔王城に戻ったら、この血の贄を与えるからの……」



 ……あれは!!

 使い魔召喚の秘術!!


 姫魔王め。

 やはり、魔力を隠していたのか。


 俺は聖剣(刃渡り5センチ。日本国内適法バージョン)の柄に親指を添えた。


 やばい。

 こっちはまだ戦闘準備ができていない。


 だが。

 使い魔の規模によっては、今討伐しなければ、日本が崩壊しかねないっっっ!!!!


 俺は意を決し、物陰から飛び出した。

 瑠夏は、こちらに気づき動きを止めた。


 そこで目の当たりにしたのは。


 子猫を両腕で抱きあげる、ただの女子高生の姿だった。


 ねこ?


 あれ、どーみても普通の猫だぞ?

 しかも、瑠夏の右手には小袋。


 小袋には「愛猫大好き、にゃんにゃかキャットフード(試供品)」と書いてある。


 瑠夏は目をぱちくりさせている。

 直後、頬をりんごのように真っ赤にし、口をパクパクさせた。


 「ま、ま、まま、まさかっ。我……わたしの独り言を聞いたの!?」


 すっげー気まずい。

 俺は頬を掻いた。

 

 「あぁ。厨二病全開の召喚呪文みたいなのをな……」

 

 瑠夏の手先は震えている。

 

 「その制服……。もしかして、姫島学園の生徒ですか?」


 嘘をついても仕方ない。

 調査のために、わざわざこの高校に入学したのだ。

 

 「あぁ。今年の新入生だ。あんたは?」


 瑠夏は涙目になった。


 「ああ。わたしの高校生活終わった。もう学校やめたい……」


 ちょっと。

 高校やめられたら、俺の苦労が水の泡になるんですが?


 ご機嫌をとらないとヤバい。


 「いや、誰にも言わないからさ」


 瑠夏は俺を指差した手を下げない。


 「あなたみたいなスケベそうな顔をした人、信じられませんっ。きっと、弱みにつけこんで、エッチなお願いする気でしょ?」


 ……魔王にスケベとか、本気で言われたくないんですが?


 しかもこいつ。

 転生して魔力なくなった分、妄想力が振り切ってる。


 「おまえな。とにかく、その手を下げろ。初対面の人を指さすのは、普通に失礼だぞ」


 瑠夏はキッと俺を睨むと、涙目になった。

 

 おいおい。

 指くらい、睨まずに普通に下げてくれよ。


 こいつ。

 転生して、16年間で色々こじらせてるのか?


 女の子を泣かせて……、これじゃ俺が魔王みたいなんだが。


 俺は続けた。


 「もう入学式はじまるぞ? とりあえず、行こうぜ」


 「さっきのをみて、ドン引きしないんですか?」


 「誰しも心に闇の1つや2あるだろ。別に気にねーよ」


 瑠夏はついてきた。

 勇者の耳をもつ俺は、瑠夏のボソッと独り言を鮮明かつ明確に聞き取ってしまった。


 「今日は、猫ちゃんと出会えて。さっそく喧嘩からの仲直り……。幸せ友達作ろうマニュアルに書いてあったとおりだ。生まれて初めてのお友達もできたし。わたしグッドジョブ」


 生まれて初めての友達って。

 まさか、前世通算じゃないよね?


 それに。

 お友達作ろうマニュアルって。


 ネットで買ったのかな。

 すごくボラれてそう。


 「姫島さん。そのマニュアルいくらしたの?」


 「えっ……。さんまんえ……」


 「ごめん。やっぱ言わなくていい」


 聞いたら俺が傷つきそうだ。

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