高校生の姫島瑠夏は、姫魔王の生まれ変わりである。

おもち

第1話 姫魔王は転生する。

 

 彼女は姫魔王サイフォニア。


 悪魔国と勇者国の終わりなき戦が続く戦乱の世。悪魔の王族として生まれ、生まれし日から、全ての善行を禁じられ、あらゆる悪行教育を強いられし者。


 おれ、勇者エイルは彼女を追い詰め。

 そして今この瞬間。


 彼女の心臓に聖剣を突き刺している。

 あと数センチ切り込めば、彼女は絶命するだろう。


 その刹那、俺は彼女を不憫に思い、言った。


 「言い残すことは? 最後の思い、俺が持ち帰ろう」


 彼女の口から出た言葉は、信じ難いものだった。目に大粒の涙をためて、微笑んでいるように見えた。


 「我、また生きられるなら、普通の女の子として……」


 「……そうか。お前の想い、しかとこの胸に刻んだ」


 俺は柄をもつ手に力を込めた。

 彼女の心臓は動きを止めた。


 その直後、姫魔王の周りに巨大な魔法陣が展開され、転生の秘術が発動される。

 


 勇者として元老院に遣わされた俺の使命は2つだ。


 1つ目は、姫魔王を倒すこと。

 2つ目は、転生の秘術を阻止すること。


 俺は2つ目の使命に従い、聖剣の退魔防護結界を展開する。しかし、彼女の最後の顔が頭から離れなくて。


 結界の発動が一瞬遅れてしまった。


 「……しまった」


 俺がその言葉を口にした時は、既に遅かった。姫魔王の転生結界は不完全ながらに完成し、姫魔王は姿を消した。



 数日後、おれは元老院のお偉いさんに呼び出され、詰められていた。


 「勇者エイルよ。そなたの不手際で姫魔王の転生の秘術は発動された。その責任はどうとるのじゃ?」

 

 「すみません。ですが、魔法陣展開を阻害した為、転生先も他の世界になり、姫魔王の魔力は奪われていると思われますが……」


 「ええい。愚か者。目が届かぬ世界に行ったことこそ問題なのだ。かの世界で力を蓄え、また我ら……正義を脅かすかもしれぬ」


 この爺さん、本音言っちゃったよ。

 正直、姫魔王の魔王国よりも、お前らの領土の方が餓死者多発で大荒れだと思うぞ。


 何はともあれ、俺の役目は果たした。

 あとは褒美の王姫(グラマラス美人)をもらいうけ、放蕩の余生を送るだけだ。


 「とにかく、姫魔王は殺しました。俺の役目は終わりです。報告も終わったので、失礼いたします」


 俺は立ち上がった。

 すると、背後から高圧的な声が響いた。


 お前らの言うことなんて聞く必要は……。


 「勇者よ。姫魔王は転生したのだから、そなたの使命②は失敗じゃ」


 「え?」


 「責任をもって姫魔王を監視し、その野望を阻止するのじゃ」


 「えっ?」



 こうして、何故か俺も転生し、姫魔王の監視をすることになってしまった。

 

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