常盤村の昔話
@turezurenaru
第1話 川遊び 昭和50年代
幼いころ、よく川遊びに行った。昭和50年くらいだろうか。
大抵虫取り網と小さなバケツを持っていく。ずいぶん遠かった。
家の前の道を右に曲がって、ずっとずっと、ただひたすら歩いていくと土手に突き当たるので、十数段はあろうかという階段を上っていく。
土手の上には車道が走っていて、信号も横断歩道もない場所のため、割とスピードを出している。階段を上りきってしまうと、立っている場所がないので、数段下がったところで、しばらく目の前をタイヤが横切っていくのを見送り、車通りが途切れたところで、一気に車道を渡る。
川側に降りる階段は人一人通れるくらいの狭い幅の石段だ。石の間からも左右からもわさわさ草が生えているので、よく見ないと階段があることがわからない。そこを足で探りながら草ごと踏みしめて降りていく。
河原に降り立ち、背の高い草をかき分けて進んでいくと、目的地に着く。昔の船着き場だ。壊れかけた桟橋と沈みかけた二艘の船がある。公園のボートくらいの小さな船で、どちらにも二、三センチくらいの深さで水が入っていて、ちゃぷちゃぷ揺れている。この二艘の小船は母が子どもだったころからそこにつないであって、傾き具合も沈み具合もずっと同じだったそうだ。
桟橋は幅一メートル弱。長さ三メートルほどで、板が所々朽ちている。昔はここに船頭のおじさんたちがいて、この船で向こう岸に運んでくれたのだという。向こう岸は遥かかなたで川の流れは速そうで、こんな小さな船では向こう岸までたどり着けそうにないと思った。
川をじっと見ていると、自分の中の何かがするする引き出されて、どこかへ流されていくような気がした。
この川は海へつながっている。昔々、つまり昭和の初めごろまで、この川には高瀬舟が上り下りしていたらしい。
そういえば、船着き場の近くに曾祖母が洗濯をしていたという岩があって、母は場所を教えてもらったことがあるそうだ。何十年もの間、たくさんの人たちがその場所で洗濯をしたから、平だった岩の上は少しくぼんでいたという。私は見たことがない。当時すでに川の水量が増えていて、川岸の岩は、すっかり沈んでしまっていたからだ。ずいぶん蚊が多い場所で、家に帰ってから見てみると、大抵十か所くらい刺されていた。
次の更新予定
常盤村の昔話 @turezurenaru
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。常盤村の昔話の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
近況ノート
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます