放課後デート?
七尾さんを惚れさせると決意して数日が経った。俺は彼女の好感度を稼ぐために学校にいる間は直接彼女に話しかけ、家ではL〇neでコミュニケーションを取るという日々を送っていた。
そんなある日の放課後、俺は彼女からお誘いを受ける。
「ねぇ松倉っち。今日の放課後ヒマ?」
「ヒマ…と言えばヒマだけど、どうしたの?」
「この前話したあたしイチオシの唐揚げの屋台に行かない? あたしのおごりで。ほら、この前キーホルダー貰ったし、そのお礼」
「そんなの気にしなくてもいいのに。でも七尾さんイチオシの唐揚げは食べたいな。ちょうど小腹も減ってたし。OK! 行くよ」
「じゃあ決まりね。今からレッツゴー!」
七尾さんは笑顔で俺の腕を掴むと教室の外に駆け出した。彼女のはしゃぎっぷりに苦笑しながらも俺はその後に着いて行く。
七尾さんが俺を遊びに誘ってくれた。
これだけでも俺たちの関係は大きく前進したと言える。今まで色々試してきた恋愛心理学の効果が出てきているようだ。
鳥羽に命令されて俺を誘った可能性も考えられるが…しかし命令されて誘ったのなら、もう少し嫌々感が出ていてもいいはずだ。ところが彼女の表情からはそういったものは感じられなかった。
つまり、彼女は自分の意思で俺を遊びに誘った可能性が高い。それが分かっただけでも十分だ。
○○〇
俺たちは学校を出て、街の繁華街の方へ向かって行く。七尾さんイチオシの唐揚げ屋台は「揚げ吉」という名前で、繁華街の端にあるのだ。
彼女との話の種になればと思い、俺もリサーチがてら1度「揚げ吉」を訪れた事があるが、中々美味な店だった。
…ちなみに今回俺はその店を1度も訪れた事が無いフリをしている。何故なら「自分のおススメした店を相手が気に入ってくれた」という感覚を彼女に味合わせたいからだ。
こうする事で彼女の承認欲求を満たし、かつ相手との共感を形成する事でより親密になる事が出来るのである。
ププー!
「…あの車スピード出しすぎだな」
「ホントにね」
もちろん繁華街に向かう最中も気は抜かない。自分が歩道の道路側を歩いて彼女には安全な方を歩かせ、歩くスピードも彼女に合わせる。
何気ない事だが、女の子はこういう所を細かく見ているらしい。
そうして俺は七尾さんイチオシの唐揚げ屋台「揚げ吉」にたどり着いた。
「へぇ~屋台と聞いていたけど、結構オシャレな感じなんだね」
「そう! そこもあたしが好きなポイントなの!」
「揚げ吉」は小さな屋台ながらも、店の前のスペースにテーブルとイスを設置しており、座って飲食ができるようになっていた。ちょっとしたオープンテラスカフェみたいな感じである。
オープンテラスカフェ。女の子は大好きだもんね。
店の装飾もいかにも「唐揚げ屋」といった感じの肉をイメージした茶色で無骨なものではなく、彩を重視してカラフルに仕上がっている。
ネットで屋台の評判もチェックしてみたが、こういう所がウケて女性客も多いらしい。現に今も数名の女性客が並んでいた。
俺たちは列の最後尾に並んで、看板に書いてるメニューを眺めながら自分たちの番を待つ。
「柚子胡椒唐揚げ」や「ピリ辛豆板醤唐揚げ」等様々な種類があるようだが、俺と七尾さんは1番の定番メニューである「揚げ吉・特製黄金唐揚げ」を注文する事にした。6個入りで600円とそんなもんかといった値段だ。
「はい、おまちどおさま!」
「わぁー! キタキタ!」
「うおっ、旨そうだな」
店主から揚げたての唐揚げを受け取る。商品名通りの黄金色の衣から湯気がモクモクと上り、スパイシーな香りが食欲をそそった。唐揚げの1つ1つが大きく、ボリュームもある。
俺たちは屋台の前に設置されているテーブルに座り、早速唐揚げを味わう事にした。
「「いただきます!」」
俺と七尾さんは爪楊枝を唐揚げに刺し、同時に口に運ぶ。
衣を噛んだ瞬間「パリッ」っと歯触りの良い音がして中から濃厚な肉汁が溢れ出てくる。複数のスパイスが肉に染みついており、何もつけなくても十分美味しい。
以前食べた時と同じく、非常に美味だった。
「うわっ、なにこれ!? 無茶苦茶美味しい…。衣サクサク、肉汁も凄い溢れて来る! 流石七尾さんイチオシの唐揚げ!」
しかし俺はまるで初めて食べた時のような感想を述べた。理由は…言わずもがな。好感度を稼ぐためだ。
「あつっ、あつっ。でしょ? 本当にここの唐揚げはおススメなの」
「いや、本当に美味しい。ここの唐揚げ以外食べられなくなりそう…」
「そこまで気に入ってくれたんだ! 嬉しいなぁ~♪」
彼女は俺の反応にご満悦のようだった。自分の好きな物を相手にも好きになって貰えて嬉しいのだろう。
彼女はご機嫌な様子で唐揚げをもう1つ頬張る。俺も彼女に続いて唐揚げを口に運んだ。
「ここの唐揚げはこの町で1番美味しいと思うよ。数々の唐揚げの屋台を食べ歩きしてきたあたしだから分かる。噛んだ時に溢れて来る肉汁がね、もうジュワジュワとしててね…肉はジューシーで…」
「そうそう、肉汁がジュワジュワと溢れて…肉はジューシーだよね」
何気ない会話のように思われるが、ここでも恋愛心理学のテクニックを使用している。
それは「ランチョンテクニック」というものと「ミラーリング」というものだ
「ランチョンテクニック」。人は食事中に会話をする事で相手に対する好感度がより高くなる事が心理学の実験により分かっている。
その理由は美味しいものを食べるとポジティブな気持ちになり、一緒にいる人や話題に対して好感を持ちやすくからである。
「同じ釜の飯を食う」ということわざにもある通り、一緒に食事をとる行為は人間関係をより強固なものにするために重要な要素なのだ。
大人が異性をデートに誘う時によく飲食店を利用したりしているのもこれが理由である。
そして「ミラーリング」とは相手の言動を鏡のようにマネする事で相手に親しみを与える心理テクニックだ。
俺は先ほど七尾さんが唐揚げを食べると同時に自分も唐揚げを食べた…要するに動作のマネをし、更には「ジュワジュワ」や「ジューシー」といった彼女の言い回しをマネした。
これによりおそらく彼女は俺の事を「自分と同じ事をして、自分の言い回しをマネしてくれた。もしかしてあたしたち気が合うかも?」と親近感を抱いてくれていると予想される。
1つ1つは小さな事のように思えるかもしれないが、塵も積もれば山となる。小さな感情1つ1つが積もって、やがて大きな感情になるのだ。
○○〇
唐揚げを食べ終えた俺たちは屋台から少し離れた繁華街の広場にあるベンチで小休止していた。
「はぁ~美味しかった♪」
「最高の唐揚げだったよ。はい、オレンジジュースで良かったかな?」
「ありがとう。あっ、お金…」
「大丈夫大丈夫。唐揚げは七尾さんに奢って貰ったし、ジュースは俺が奢らせて」
「でもあれはキーホルダーのお礼だし…。あっ、弟喜んでたよ」
「気にしなくていいって。これは美味しい唐揚げの屋台を教えてくれた七尾さんへのお礼だから」
「う、うん…ありがとう」
彼女はジュースの缶を受け取ると飲み始めた。俺もベンチに腰掛けて購入したお茶を飲み、一息入れる。
ここまでは順調だ。さて、この後はどうするか?
「あれ? お前…もしかして七尾か?」
「えっ? あ、うん…」
俺たちがベンチで小休止していると、七尾さんが突然通りがかりの坊主頭の男から話しかけられた。坊主頭の男に話しかけられた七尾さんはなんだかバツの悪そうな顔をしている。
彼は一体何者なのだろうか?
◇◇◇
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