彼女とのやり取り
その日の学校も終わり、俺は自室のベッドに寝転びながらスマホで恋愛関連の記事を読み漁っていた。もちろん七尾さん攻略の糧にするためである。
「これ使えそうだな…。これも」
俺は使えそうな記事をブックマークしていく。そうしているとスマホが震え、メッセージの着信を知らせる「ピコリン♪」という音と共に、画面上部に通知が表示された。
どうやらメッセージの送り主は苗木のようだ。俺は急いで通知をタップし、内容を確認する。
『ヤァ松倉! ひょっとして自慰行為にでも励んでいたのカナ? もしそうならすまなかったネ』
「何言ってんだコイツ…」
苗木がこんな感じなのはいつもの事なので、俺はそれをスルーしつつ次のメッセージを待つ。
『サテ、今朝君から依頼された件だが…ある程度情報が集まったのでネ。報告させてもらうヨ』
「流石苗木、仕事が早いな」
そのメッセージの後に、苗木から七尾さんに関する情報が長文で送られて来た。その中から彼女を堕とす上で必要になりそうなものをピックアップしていく。
「えっと…七尾茉莉。身長160センチで体重56キロ。スリーサイズは上からきゅうじゅ…っとこれはあんまり関係ないか。誕生日は10月21日…来月ね。家族構成は両親と小学生の弟が1人。帰宅部。明るい性格で顔も可愛いので結構モテているが、現在付き合っている異性はいない」
俺は頭の中で情報を整理しながら続きを読み進める。
「…しかし中学時代の彼女はどちらかというと地味で目立たない人間だった。いわゆる高校デビュー組。髪は金髪だが地毛ではなく染めている。…へぇ、なるほど。彼女が鳥羽グループにイマイチ馴染み切れていないのはこれが理由かな」
これは結構いい情報を貰ったのではないだろうか。
苗木の情報によると彼女は生粋の陽キャではなく、高校から心機一転して陰キャから陽キャになろうと転身した人間のようだ。
一見すると陽キャギャルにしか見えないので、相当な努力をしたのだろう。しかし生まれついた性格というのは取り繕ろう事はできても中々変えられるものではない。
彼女が生粋の陽キャではなく、元々陰キャよりの人間だったのならば…俺にも十分切り込む隙はある。
「趣味は食べ歩き…と仲間内では隠しているがアニメや漫画。特に最近は『鬼殺の刃』にドハマりしており、休日は弟と一緒にアニメを何周もしている。ほぅ…良い趣味持ってるねぇ」
アニメや漫画なら俺の得意分野だ。ここから攻めても良いな。
彼女が趣味を仲間内で隠しているのは、おそらく陽キャグループ内でアニメや漫画が好きだと言うと馬鹿にされるからだと推測する。
『とりあえずここまでダ。他の事は分かったらまた報告スル。ではまたナ。オ〇ニーのやりすぎには注意しろヨ。テクノブレイクするゾ!』
そこまで読み終えた俺は最後のメッセージは華麗にスルーしつつ、苗木に感謝のスタンプを押した。
「いや、十分だ。流石苗木。明日も何か差し入れしてやるか」
…でも苗木の奴はこんな情報をどこから持って来るんだろうなぁ。風の噂では彼女独自の情報網を持っていると聞いた事があるが、真実は定かではない。
○○〇
苗木からのメッセージを読み終えた後、俺は動き始めた。
…何をするかって?
七尾さんにメッセージを送ってコミュニケーションを取るのである。彼女と仲良くなるためには必須の行為だ。
『ういっす! せっかくID交換したんでメッセージを送ってみた。これからよろしく!』
数分後、俺の送ったメッセージに既読が付き、七尾さんから不細工な鶏のスタンプと共にメッセージが返って来た。
『よろしく~♪ 気軽にお話ししようね』
男同士なら、用がある時以外は特段連絡などしないという人も多いだろう。
しかし女性は男性に比べ共感性を重要視する生き物であり、このようなメッセージのやり取りや電話を気持ちを交換するツールとして認識している場合が多い。
故にマメに連絡を取る事によって相手に安心感を与えたり、相手に大切にされていると感じ、好印象を与える事が出来るのだという。
「連絡がマメな男性はモテる」とよく言われるのはそういう理由かららしい。
なのでこれからは頻繁に七尾さんとメッセージのやり取りをするつもりだ。たとえ小さな事でも気づいて送ってあげれば、彼女は喜んでくれる…かもしれない。
…っと、早速話のネタを1つ見つけたぞ。
『何そのスタンプ? 草』
俺は七尾さんがメッセージと共に送ってきた不細工なスタンプにツッコミを入れた。
『え~結構可愛くない? ニワ次郎って言うの』
『なんかのキャラクター?』
スマホでメッセージを打ちながら、部屋のPCで『ニワ次郎』について検索をかける。
去年の秋アニメとして放送されていた『特攻野郎トリ之介』というギャグアニメのキャラクターらしい。
俺も有名どころのアニメは結構見ている方なのだが、このアニメはマイナー過ぎて知らなかった。彼女、結構ディープなオタクなのかもしれない。
『えっ? あー…、そのぉ…弟が好きなアニメのキャラ。このスタンプ使うと弟喜ぶから』
なるほど。自分がアニメを好きなのはまだ隠しておきたいのか。だから「弟が好き」という事にしたんだな。
今はそれでいい。
でもそのうち俺の前ではオタクである事をオープンにさせてやる。
『そうなんだ。…言われてみるとなんだか可愛く思えてきた』
『でしょ? この…なんていうのかな。ブサ可愛い!』
『ちなみに何円ぐらいするの?』
『120円。松倉っちも買っちゃいなよ。可愛いよ』
スタンプショップに行き、早速そのスタンプを購入する。七尾さんの気を引けるのなら、これくらいは安いものだ。後でアニメの方もチェックしておこう。
『買ってみた』
購入したばかりのスタンプと共にメッセージを送る。
『早っ!?』
そんな感じで俺は七尾さんと1時間ほどメッセージのやり取りをしていた。文字でのやりとりなので表情こそ見えないが、彼女もそこそこ楽しんでくれていたのではないかと思う。
ついでのその中で会話を広げ、彼女の弟(実際は七尾さんも)が『鬼殺の刃』が好きという情報も聞き出しておいた。明日のための仕込みだ。
フッフッフ。明日が楽しみになってきたぞ。
◇◇◇
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