第1話

「本とニンゲン殺人事件」 辻 真音つじ まおと


 生き返った死刑囚を知っていますか? 実は、これはその死刑囚のようなお話なのです。

(まあ、そこに辿り着くまで、お話は長くなりますが。)

 始まりは、母の言葉でした。

 母は私の部屋で、本棚を整理中、不器用な私の整理にいちゃもんをつけ、「この本たちを、捨ててしまうから」と言いました。

 やりきれなくなって、私はその日早く眠りました。


 次の日のことです。

 私は飛び起きると、頭を確かめました。思った通り、汗が吹き出ています。枕を確認すると、液体に濡れていました。

 やっぱり焦っているのです。

 2階への階段を、時折転びながら、私は走り抜けました。

 ドアを蹴飛ばして、自分の部屋を確認すると、


——ああ、ない!


 やっぱり本棚から本が綺麗さっぱり無くなっていました。

 私はノートの海をかけわけながら、一つ、からのノートを見つけました。

 1階に戻り、鉛筆を取り出し、2階に駆け上がりました。

 手に持っている鉛筆を確認するとそれは鉛筆でなくボールペンでした。

 まあいいや、と私は思いました。そしてボールペンで汚い字で文字を書き始めました。

 大きく見出しで「遺書」と私は書きました。

 

 遺産の分配:母に7割 父に3割


 やはり母は偉大でした。消すことにまだ罪悪感を覚えていました。宝のような本を消されたことにいくら怒りをおぼえても、命をかけても——やはり母は好きなのです。私は網戸を破り、飛び降りながら、そんなことを考えていました。


——


 では、なぜ私がこんな手記を書けているのかって?

 

 冒頭で話したと思います。生き返った死刑囚の話を。

 無念が残った私は前世の記憶を受け継いでもう一度人間に生まれ変わったのです。

 そして、あの家に行きました。幸い取り壊しはまだでした。

 パソコンを立ち上げ、パスワードを入れて、四歳は勢いよくタイピングを始めました。

 今も私は生きています。いつか復讐するのです。


——2024/12/16 高橋早百合たかはしさゆり. 23年前の悲劇を永遠に忘れたくない、と思う冬に。

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