未来戦争からの徴兵

ちびまるフォイ

未来戦争のひきがね

未来からのゲートが開くと、大きな宇宙船が入ってきた。


「な、なんだ!? 宇宙人の侵略か!?」


近くにいた人たちは驚いたが、出てきた人を見てさらに驚いた。


「に、人間!?」


「こんにちは。驚かないでください。

 我々は未来からきた人類です」


「どうして未来から……」


「未来の戦争を勝つためにここへ来ました」


未来の人間はすぐに国の一番えらい人のもとへ召集された。


「いやはや。本当に未来から来るとは……」


「信じていただけましたか?」


「まあ君たちの船や装備を見ればね。

 現代の技術じゃ到底不可能なことくらいわかるとも」


「もし協力してくだされば、我々の技術や知識は惜しみなく提供しましょう」


「協力?」


「戦争に勝つための手助けをしてほしいのです」


「なるほど……。具体的には?」


「この世界から未来戦争のため徴兵させていただきたい」


「未来にいって戦争に加担しろと?」


「ええ。あなたは未来戦争の状況を知らないでしょうが

 すでに戦争は泥沼で人類は90%が死んでいます」


「なんと……」


「人類が死に絶えている今、人を更に増やすことができれば

 確実に未来の戦争を勝つことができるのです!」


「それはわかるが……」


偉い人はたくわえているヒゲをなでつけた。


「その、SF映画とかでよくあるやつはできないのか。

 過去にいって戦争の原因の人を殺したり、

 戦争が起きる原因をつぶしたりとか」


「できません」「なぜ?」


「タイムパラドックスが起きてしまうからです」


「……」


「過去を改変してしまえば、未来戦争がどうなるかわかりません。

 もちろん戦争そのものを消すこともできるかもですが、

 どんな効果が起きるかは未知数なのです」


「君らがここへ来ているのも、ある種の過去改変なのでは」


「覚悟のうえです。しかしあくまでも主戦場は未来としたいのです」


「まあ君たちの帰る故郷は未来にしかないものな」

「そういうことです」


いくつかの会議がその後も行われたが、

結論はえんぴつを転がして出た目によって決まった。


未来戦争に協力する、と。



18歳以上で健康な男子のもとには赤い紙が郵送された。


「どうして!? どうして息子が戦争に!?」


「これも良い未来のためですよお母さん」


「そんなの未来の政治の失敗じゃない!

 どうしてそんな尻拭いを息子がしなくちゃいけないの!?」


「未来の戦争はどうして起きたのか。

 なぜ戦っているかもわからないほど長期化してるんです」


「じゃあ戦うのをやめればいいじゃない!」


「あなたはもっとひどい目にあっている、

 未来の同年代の子どもに死ねと言うんですか?」


「知らないわよ! ここは現代なのよ!!」


「おい未来麻酔」「はっ」


抵抗する肉親には一時的に気絶させる未来麻酔で黙らされた。


平和な慣れ人間を未来に送ったところで使い物にならない。


そこで徴兵された男どもはまず兵役をさせられ、

未来戦争の独特なルールや技術を惜しみなく学んだ。


「いいか、新人ども! お前らは兵役をつんだあと

 未来で過酷な戦争に参加して敵どもを殺す!」


「いえっさー! 敵とはなんでありますか!」


「敵は敵だ! 見た目は同じ人間の形をしているが、

 その思考や精神構造はまるで理解できないバケモノだ!」


「いえっさー! 対話はできないのでありますか!」


「未来はもうそんなフェーズじゃない!!」


成人男性たちは残らず未来の戦争に向けたトレーニングを課せられた。

うちは女の子しかいないから、などと安心していた家庭にも赤い紙が送り込まれた。


「というわけで、あなたのご家庭の娘さんもこちらで引き取ります」


「ばかいうな! 娘も未来で銃を持って戦えと!?」


「いいえ。未来にいく必要はありません」


「え? 現代にとどまっていいのか」


「はい。もちろん。ただし……」


徴兵にやってきた未来の人間はまるで感情もなく告げた。


「未来の兵士を増やすため、最低でもおひとり3人以上は出産いただきます」


18歳以上の健康な女は、体に未来注射をされて

本人の意思とは関係なく出産を経験させられる拷問が行われた。


非人道的な行為が当たり前に行われていても

未来の人たちはまるで心が傷つかない。


それほどまで戦争は苛烈で凄惨な状態であった。


けれどそれもあくまで未来の基準。

平和と人道を重んじる現代人はこの所業にガマンなどできない。


「うちの息子が……」

「私の娘も連れて行かれました……」


「みなさん。子どもたちを取り戻しましょう。

 未来で勝手に起こされた戦争に加担する必要などない!」


「でもあっちは未来の兵器を駆使してるんですよ?」


「ええ。ですがこちらには数があります!

 みんなで協力すれば未来の人たちを追い返せます!」


「そうだな。あんなこと許しておくわけにいかない!」

「未来の人間どもを追い払おう!」


「「 えいえい、おーー!! 」」


ついに現代の人間たちは立ち上がった・


手塩にかけて育てた子どもたちを戦争から取り戻すため。

愛情を学ばせた子どもたちの手を血でけがさないため。


未来に対する現代人の反乱がそこかしこで発生した。


襲ってきた現代人に未来の人たちは困惑した。


「おいやめろ! 未来の戦争のためなんだぞ!?」


「うるせぇ! 未来なんか知ったことか!」


「この……! なにも知らない現代人がーー!!」



未来の人は徴兵施設をめちゃくちゃにしようとやってきた現代人に発砲。

現代人は未来の兵器により原子分解されてしまった。


「なんてことを……! おのれ未来人!!」


「未来の戦争を邪魔するなら、お前らも敵だ!!」


事件をきっかけに現代人と未来人の戦争がはじまった。


この戦争が未来まで長期化する大規模な泥沼戦争になることなど、

当時は誰も気づくことはなかった。

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