第三話:オカマ剣士、街の用心棒(ボディガード)になる? 試される人情と実力
タルーネ商業街でちょっとした正義のヒーロー扱いとなったジュンだが、本人は「宿代と食事がもらえるならまあいっか」程度の気ままな気持ちで、ルイナ宅に腰を落ち着けていた。相変わらず、レイが朝から晩まで「ジュンちゃんは今日も素敵ねぇ~」などと嬉々として声をかけてくるが、ジュンは涼しい顔で流し、街中の散策や剣の素振りで暇をつぶしている。
「ねぇ、ジュンさま。」
ある昼下がり、ルイナが少し困った表情で声をかけてきた。
「どうしたの、そんな顔して。」
「実は、最近また街外れの倉庫辺りで怪しい輩がうろついてるらしいんです。そのせいで、うちの店も仕入れが滞ってしまいそうで…何か対策を立てねばと思っているのですが…」
ふむ、この街にはまだまだゴロツキやチンピラが暗躍しているらしい。ジュンは剣の柄を軽く指で叩き、少し考えるそぶりを見せる。
「そうねぇ、この前は路地裏で威張ってた連中を追い払ったけど、根が深いわね。」
「もし、お暇であれば、ジュンさまがお力を貸してくださらないでしょうか。もちろん、お礼はいたします!」
ルイナが深々と頭を下げる。そこへレイが割って入るように胸を張って、
「ウフフ、ジュンちゃん、こういう時こそあんたの出番じゃない? せっかく評判が上がってきたんだから、ここでがっちり信頼を掴んじゃいなさいな。」
ジュンはニヤリと微笑む。別に名声が欲しいわけじゃないが、助けを求められて黙って見過ごすほど、冷たい性格でもない。
「いいわよ。あたし、ちょいとその倉庫街を見てきましょ。人情に応えるため、ね。」
――こうして、ジュンは翌日早朝、少し裏通りへと足を運ぶ。倉庫街は人気の少ない場所で、錆びた扉や崩れかけの柵などが不穏な雰囲気を醸している。鼻をくすぐる微かな酒の匂いと、低い声で密談する男たち。まるで安っぽいチンピラ劇場だが、リアルに商人たちを悩ませている存在に違いない。
「ったく、どいつもこいつも性懲りもなく弱い者を脅して…人情ってもんがないのかしらね。」
ジュンは低く呟く。そして、さほど物陰に隠れる必要もなくスッと姿を現す。薄暗い路地、椅子にふんぞり返っている男たちを見下ろし、鮮やかな笑みを浮かべる。
「おはよう、殿方。朝からこんな場所で何やってるの?」
男たちは一斉にジュンの姿を見て、ぎょっと目を見開く。揃いの腕章でも付けているのか、どうやらこの辺を仕切る下っ端ヤクザの手下たちらしい。
「な、なんだてめぇ…女か? いや、あれは…」
またこれだ、男女の判定に惑う連中。ジュンはため息をつき、さらりとした髪をかき上げる。ここで安易に決め台詞を連発するのは控え、じっと冷ややかに状況を見極める。
「どうやら、あんたらが商人たちを困らせてる元凶みたいね。お仕置きが必要かしら。」
軽やかに剣を抜くその動作は、まるで踊るような優美さ。男たちは尻込みしながら武器を構えるが、すでに勝敗は見えている。
すっと踏み込み、ジュンは男の棍棒を剣先でひょいっと押しやり、繊細な一撃で頬をかする。痛みというより屈辱が相手を襲い、相手は「ひぃっ」と声を漏らす。続けて二人目、三人目も同様に手玉に取られ、全員があっという間に地面に転がった。
「これで少しは大人しくなるかしら? ま、わたしと会ったことを教訓に、人を脅す前にもう一度考えてちょうだい。」
最後に、ジュンは剣先を軽くクルリと回しながら、キメ顔で相手を見下ろす。ここで、決め台詞を放つ。
「…オカマなめんじゃねぇぞ、ゴラ!」
低く、しかしはっきりと響く言葉。男たちはその気迫にすくみ上がり、何とか這いつくばって逃げ出した。
倉庫の影で事の成り行きを見守っていたルイナやレイが、少し遅れて駆け寄ってくる。
「さすがジュンさま! これでまた仕入れがしやすくなります!」
「ホホホ! あんたやるじゃない、ますます惚れちゃうわ!」
レイは大袈裟に手を打ち鳴らし、ルイナはホッと息をつく。
「そんなに騒がないでちょうだい、たかが下っ端のチンピラ退治よ。」
ジュンは肩をすくめる。その背後で、いくつかの小商人たちが感激の声を上げている。お礼として、ジュンの食事や宿代はしばらく面倒を見るという話まで飛び出した。
昼下がり、再びルイナの家に戻ったジュンは、ゆったりと茶を啜りながら、
「ま、これでまた安心して暮らせるわね。オカマは人情に厚いの、って言ったらまた褒められちゃうかしら。」
と、ひそかに頬を緩める。
決め台詞はここぞという時に放つことで、その輝きを増す。ジュンはそのことを理解している。
こうして、ジュンは着々と街中で「頼れるオカマ剣士」としての地位を固めつつあった。次はどんな困りごとが舞い込むのか、期待と不安が入り混じるなか、人々は少しずつジュンの存在を拠り所にし始めている――。
第三話、ここまで。次回、さらなる波乱が街を揺るがす予感が漂い始める。果たしてジュンは、笑いと人情をもってどう立ち向かうのか。乞うご期待。
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