第11話 鳴り響く警鐘
時刻は深夜、聖竜についての文献を漁っていると、書斎にアイリスが入ってくる。
「お父様、今日も遅くまでご苦労様です」
「――アイリスか……決心はついたのか?」
「私一人でこの国から逃げろというお話でしたらお断りした筈です」
悪びれもせずにそういうアイリスに私は肩を落とす。
「やはり心は変わらんか。お前は母親に似て強情な子だ」
「あら、強情なのは父親譲りだと思っていましたわ」
悪戯な笑みを浮かべながら冗談を言うアイリス。
「ふふ……これは一本取られたな。だが、本当に危なくなったら私が手配した馬車に乗りこの国を出なさい。これ以上は私も譲れない」
「分かりました……ですが、その時が来たらお父様も一緒に、です」
私は苦笑いをしながらアイリスの頭を撫でる。まったく我が娘には敵わん。
「そういえばお父様、王城に先ほど貴族の方が家族連れでお見えになっていましたが、何かあったのですか?」
「ああ、貴族殺しと呼ばれる男が王都に現れてね。そ奴から彼らを守るため、王城に避難させたのだよ」
「貴族殺しですか……恐ろしい名前ですね」
「奴は美しい貴族令嬢を狙って現れる。お前も気をつけなさい」
「安心してくださいお父様! もしそんな人がこの王城にやってきても、私が返り討ちにしてみせます!」
アイリスは自信に満ちた表情で、剣を振る動作をする。
「はっはっは! 頼もしい限りだ。でも、無理はいけないよ。アイリスは強いが私からすればまだまだ子供なのだからね。お前に何かあれば私は死んでも死にきれん」
「……お父様……」
「さあ、今日はもうお休み。明日からは王都も騒がしくなる。休める時に休むのも立派な勤めだ」
「はい、お父様。お休みなさい」
アイリスが部屋に戻るのを見送った私は書斎へと戻る。
聖竜グリムノア……最強にして最悪の竜。最後にこの地に姿を見せたのは何百年前だっただろうか。
「帝国軍め、この王都に足を踏み入れたが最期だと思え……」
私は王国に仇なす蛮族への怒りを募らせながら来る決戦に向けて準備を進めるのだった。
「……もう朝か」
聖竜を呼び出す儀式の準備をしていたらいつの間にか夜が明けてしまったようだ。
「そろそろ避難民が出発する時間だな」
部屋の窓を開け城下町を見下ろす。
いつもと変わらない気持ちのいい朝だ。これからこの美しい街が戦場になるなど一体誰が思おうか。
「嘆いていても仕方がない――――何事だ!?」
窓を閉めようとした私は、突然鳴り響き始めた警鐘に驚く。
「――馬鹿な……帝国軍が攻めてくるまでどんなに早くても後数日は猶予があったはず……」
私は状況を確認しようと急いで部屋を飛び出した。すると廊下の反対側から鎧を着た兵士が慌てた様子で走ってくるのを見つける。
「――陛下! そこにいらしたのですね!!」
「何があった!?」
「大変です!! 例の貴族殺しが行方不明だった令嬢たちを連れ……城に攻めてきました!!」
「――なんだと……?」
そんな馬鹿な話があるのか。ここは王城であるぞ。いくら兵の大半を街の守りと前線へ駆り出しているとはいえ、城である以上、攻め落とすにはそれなりの兵力が必要だ。
「……まさか、攫った貴族令嬢を人質にしているのか?」
「いえ! 現在、大半の兵が城内にて三人の令嬢たちと交戦中です!! そして貴族殺しだと思われる男は令嬢たちを残し、単独で城内へと消えました!」
なんと。攫われた令嬢たちを無理やり戦わせて囮にしているのか。
「ならば早く令嬢たちを取り押さえ、貴族殺しを探し出すのだ!!」
私は額に青筋を立てながら激怒する。
貴族令嬢たちを気づ付けない様にしているのだろうが、たかだが小娘三人に大半の兵がかかりっきりとはどういう事か。
「それが、令嬢たちは不可思議な力を使って――」
そこまで言うと兵士の頭が突然爆散し、廊下に血飛沫を撒き散らしながら、ガシャンという音を立てて、その場に倒れた。
「――な!?」
「よう王様。それともお義父様と呼んだ方がいいかな?」
いつの間にかこの場に現れた男は、爆散した兵士の死体を踏みつけ、獰猛な笑みを浮かべながら私を睥睨していた。
一人の少女が剣を携えながら警鐘が鳴り響く城内の廊下を走っていた。
「嫌な予感がする……」
この警鐘は王都内に危機が訪れた時に鳴らされるものだ。実際に聞いたのはこれが初めてだが、間違いない。
今の王国の情勢を考えれば帝国軍が攻めてきたと普通なら考えるが、これは帝国軍が攻めてきたわけでも王都に危機が訪れたわけでもない。
私の生まれながらにして、天から授かったこの左目の魔眼がそう教えてくれる。
城の中に何か得体の知れない脅威が入って来たと。
「お父様が危ない……!!」
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