第2話 異世界転生
俺は広大な平原の中で一人立ち尽くしていた。
「本当にここが異世界なんだろうな。景色は前の世界と変わらないようだが……」
魔法書から授かった一度だけ生き返るスキルと、地名を元にテレポートできるスキルを駆使し、自力で異世界転生した俺は、広大な平原の彼方を見て、疑念を抱く。
「……まあいい。ここでボーっと突っ立っていても始まらん。まずは人里を探すか」
俺は青く透き通った大空の下をなんの当てもなく歩き出す。
魔法書を使って移動用のスキルを習得したいところだが、それはできない。
なぜなら俺は永久的に使える三つのスキルの枠を、一番最初に埋めてしてしまったからだ。
一応、四つ以上のスキルを習得する事も可能だし、現にその枠で、生き返りとテレポートのスキルを習得し、自力での異世界転生を行ったのだが、四つ目以降のスキルは一度しか使えない上に時間制限があり、スキル発動から数分で使えなくなってしまう。
ちなみに失ったスキルは魔法書へと還るが、一度習得したスキルを同じ人間が再習得することはできない。
何度も同じスキルを再習得できるのなら使い回すこともできるのだがな。
まあ、たまには散歩も悪くないだろう。
あれから何時間歩いただろうか。すっかり日が暮れた頃、小さな集落を見つけた。
今夜はここに泊まろう。
俺は村で一番大きな家の扉を開け、自分の家であるかのように堂々と中へと入る。
どうやらこの家の住人は食事中だったようだ。中年夫婦と十歳ぐらいの双子の娘が仲睦まじく食卓を囲んでいる。
「――どちら様ですか? こんな夜分にノックも無しに……」
食事をしていた中年の男が、席を立ち、怪訝な顔をしながら俺の方に向かって来る。
「悪いがこの家に今晩泊まる事にした。お前たちは邪魔だから大人しく外に出ろ」
「――――は……?」
「二度は言わん」
俺は男の頭を素手で横に薙ぎ払う。
すると男の胴体から頭が吹き飛び噴水の様に首から血が吹き出した。
「――きゃああああああ!?!!! あなた!? あなたーーー!!!!」
倒れた亡き夫の死体に覆い被さり泣き崩れる女、恐怖で震え、部屋の隅で縮こまる娘二人。
「黙れ」
俺は泣き叫ぶ女の首を男と同じ様に弾くと一家に静寂が訪れた。
「おい。ガキ。寝床を用意しろ」
俺に命令された娘二人は一拍おくと、コクンコクンと二回頷き動き出す。
急な出来事に理解が追いついていないのか、親が殺されたのにテキパキと寝床を用意する姿はどこかシュールだ。恐怖心だけで必死に体を動かしているのだろう。
今日は歩き疲れた。飯よりも今は睡眠だな。
こうして俺の異世界生活一日目は幕を閉じた。
鳥の鳴き声で俺は目覚める。
良い朝だ。腹が減ったな。
俺は寝床から起き上がり、食べるものがないか家の中を探す。
すると昨日の娘二人がまだいる事に気づく。抱き合いながら部屋の隅で一晩中震えていたようだ。
「なぜ逃げない?」
「――お父さんと、お母さんがいるから……」
床に転がった死体を見てそう答える娘二人に、俺は心底呆れた。
何を言っているんだ? 自分の親が死んだ事をまだ理解できていないのか?
「……まあいい。メシの用意をしろ。それが終わったらお前らも父と母の元へ送ってやる」
娘二人が用意した昨日の夕飯の残り物を食べ、後始末をした俺は村を散策する。
「何も無いなこの村は」
見渡す限り畑しかない。それに村にいる女もブスばかりだ。あの家の娘二人の方がまだマシな容姿をしていた。
「まあ、ガキには興味ないがな。それにしても不愉快な視線だ」
村にいる老若男女が俺を見るたびに値踏みするかの様な視線を送ってくる。
「この村に大したものはなさそうだし、情報だけ集めてさっさと次の場所に向かうか。
――なあ女?」
「――へ?」
俺は先ほどからこちらをジロジロと見ていた女に急接近し、女の頭を鷲掴みにするとトマトの様に握り潰した。
「――う、うわぁぁあああああ!!!?」
横でこの状況を見ていた男が叫びながら、腰を抜かす。
「おい、お前。俺の質問に答えろ。この近くに大きな町はあるか?」
「――こ、ここから馬を走らせて数時間の場所に……領主様が住む大きな町がある!」
「ほう? そこなら良い女はいるか?」
「俺は一度も行ったことがないから詳しくは分からない! ――だ、だが、領主様のご令嬢はものすごい美人だという噂は聞いたことが……」
「美人ねえ。本当だろうな?」
「ほ、本当だ! 町から来る行商人たちが口を揃えてそう言っていた!」
「なら俺を案内しろ」
「それはもちろん構わないが、お、俺は馬を持っていない!」
「持ってる奴から借りてこい。断られたなら俺が持ち主を殺してやる」
「着きましたぜ! 旦那!」
馬車の荷台で居眠りをしている俺に、男から声がかけられる。
「――ふぁ……ああ……背中が痛え」
俺は背伸びをして、長時間の移動で凝り固まった肩を回す。
荷台に積んであった藁の中で寝ていたとはいえ乗り心地は最悪だ。
愛車のフカフカのシートが恋しいぜ。
「城塞都市か。初めて見たな」
俺は町を囲っている城壁を見上げる。
「俺も初めて見ましたが、大きめの町ではこれが普通だと聞いたことがありますぜ」
「へー」
「では旦那、俺はここら辺で失礼しやす」
男は会釈すると、馬にまたがり帰路に付こうとする。
「おい、待て。勝手に失礼すんじゃねえ」
俺は男の襟をひっぱり引き留める。
「――ま、まだ何か……?」
「お前が言ってた領主の名前と屋敷の場所を教えろ」
「領主様の名前はヴァンス・アルバリンです。屋敷の場所までは……」
「ちっ……使えねぇな」
「す、すみません!! ご勘弁を!!」
「もういい。さっさと失せろ」
「はいいいいいい!! 失礼しまぁぁああすうう!!!!」
脱兎の如く逃げ出す男から、視線を外し俺は城壁の入り口へと足を向ける。
「おい、衛兵。この町に入りたいんだが」
俺は門の前で暇そうに突っ立ってる衛兵二人に話しかける。
「んんん? なら、通行証を見せてくれ」
「通行証? そんなものは無い」
「ならダメだな。今は帝国との戦争中だ。通行証無しで町の中には入れない」
「そんなこと俺が知るか。もう一度だけ言う。中に入れろ」
「だから無理だっ――――ぐおおおおおおお!??!!
――俺の、俺の腕がああああああ!?!!」
俺が衛兵の腕を弾き飛ばすと、衛兵は地面に倒れのたうち回る。
「――き、貴様?! 今、何をした!!?」
もう一人の衛兵が仲間の腕が吹き飛ばされたことに驚愕しながらも、俺に長槍を向けてくる。
「そんなチンケな槍で俺と戦うつもりか?」
「――ふざけるなよ!!」
衛兵は槍を振りかぶり俺の胸を貫こうと突進してくる。
しかし、槍は俺の胸に当たると木っ端微塵に壊れてしまう。
「――は?」
衛兵は粉々になった自身の槍を見て驚愕する。
「残念だったな」
衛兵の額に俺はデコピンを放つ。
するとパンと風船の様な音を鳴らしながら衛兵の頭が爆ぜた。
「――ば、化け物が!!!!」
失った腕から血を滴らせながら最初の衛兵が叫ぶ。
「顔色が悪そうだな。それもそうか。その出血じゃお前はあと数分で死ぬ――――なんの真似だ?」
「――はぁ……はぁ……お前の様な化け物を町に入れるわけにはいかん……!! 町には妻と娘がいるんだ!!」
衛兵はふらつきながらも片腕で槍を構えると決死の覚悟で突撃してくる。
だが結果はさっきと同じだ。俺に物理的な攻撃は効かない。
衛兵の槍が俺の体に当たると真っ二つに折れ、後方へと飛んでいく。
「無駄な抵抗ご苦労さん」
「――くっ……そ……」
衛兵は最後の一撃が無駄に終わったことを悟ると、俺が何をするでもなく、その場に崩れ落ちた。
「さて、ゴミの処理は終わったことだし。町観光と行こうか」
邪魔者を排除した俺は、鼻歌混じりに城壁を潜るのだった。
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