「天国」はわからない

明鏡止水

第1話 散財と物が増える義務感の「地獄」

かわいいおばあちゃんになりたいよね!


かつて、フリーターだった私に。


伝説のフリーターが可愛く言っていた。


当時の私は100均のお店の店員で。100円でモノが買えるとなると客層もその性分も。

お客さん、従業員に限らずそれは多岐に渡っていた。


……いつも自由に書かせてもらっているけれど、私の書くお話は文章も日本語の文法すらおかしいものなんじゃないのかな。わかりにくくてすみません。


昔の100均は上品なセリアとかアングラで雑多なダイソーとか、あまり知られていなかったキャンドゥとか。ライバル同士なのか。それとも真似しあいっこで意外と仲良しというか。似たり寄ったりなものだったか? いや、「個性」はあった。

ただ、だんだんと時代は変化して、他のホームセンターや国際的に人気な作品に似た置物を作ったり、色々スレスレだったりする。


メラミンスポンジで有名な激落ち君も名前は違うが100均でどんどんパクられていき、名前までそっくりだったりする。


ちょっと、いやかなり、従業員から見れば

「いつ訴えられるやら」

と言った感じだが。

お客さんからしたら、……まあ、安くて便利で楽しくて、たまにすぐ壊れて腹が立つが所詮は100円均一商品。潔く捨てられる。


みかんの皮剥き機とかポテチを挟んで食べたりするチョップスティックとか、じゃがりこみたいなお菓子のしけるのを防ぐフタとか、いるか? みたいな。

でも、なんでもある。


100円で。


水切りネットもお年玉袋もクリスマスオーナメントも、キーケース、化粧ポーチ、食器、掃除用具、アニメとのコラボ商品。


靴の中敷にタオルにマスク、手芸用品。


20個買っても110円なら、2420円?

裏で電卓機能使った。

それくらい私は計算も雑学も地理も何もかも覚えられない。よく道に迷う。計算も間違える。


昔は消費税8%でレジの一円玉がたまったり、逆に足りなくなったり、銀行への途中の両替が大変だったと思う。


108円から110円に変わるだけで、高くなったな〜、と感じると思う。


私の働いていたところは、メダルゲームというのか。ゲームセンターとホームセンター、スーパーマーケットも近くにある複合施設。

という感じ。


年金支給日はお年寄りが増える、客足が多い、と言われていた。それだけ頑固なおじいちゃんおばあちゃんやメダルを使ったゲームでジャラジャラするお年寄り、毎日100均商品を「孫が来るから買ってるの!」というちょっと臭うおばあさんまで。大変だった。中には、魚臭症なのか、洗濯、入浴していないのか。

激臭でレジで3回嘔吐しながら会計をしたお客さんもいる。


買うものはいつも同じもの、たまに園芸用品。息を止めたり、距離を取ったり、サッカ台に物を移す際に呼吸して、毎回しのいでいたが。小銭をすべて50円玉で払われた時にレジ内のアルミのゴミ箱にたまらず吐いた。


いろいろなお客さんがいた。どうして、100均で働いてたの?


さて。それはまたの機会に。


最近、お金の管理をしようとセリアでマルチケースと6連の穴あきジップ袋などを買っておいた。マルチケースにセットして袋ごとに何に何円使うか。仕分けのためだ。非常用に千円札をセットしたりして、お金持ち気分を味わう。


でも、せっかく仕分けても思うように管理できていなければ。


すっからかん。


一応、ノートに計算した金額を書き出したり、ジップ袋の中に一緒に「◯◯費」と書かれたメモを挟んだりして、使いすぎないようにしている。


でも、欲しいものや珍しいものに出会うとたかが外れる。


それでも、先日妹に借りていた10万円を返すことができた。


貯金したわけでは無い。


今月入った障害年金から払った。

怒られるかもしれないけれど、早く返したかった。

本当はしっかり貯金して返してやりたかった。

借りた時は早く返してやれると思っていた。

でも、借金がバレないように散財して取り繕ったり。

無理しておせちをネットで頼んだり。

そうするうちにお金は、当然なくなっていく。


お給料は、1ヶ月頑張った成果。

将来に備えられる道標。

それでも、知らない間にストレスが溜まっているのかもしれない。

稼いだ分は働いた分だけ消費していく。

給料日がきたら他の返済をして、その月にかかるお金を計算して、ギリギリまで引き落として、銀行には全然残さず、思いがけない出費と衝動ですべてをなくしていく。

給料の3割を貯金とか全然していない。

そんなのは過去にやってきた。

今やるのもいいじゃ無いか、返済にいつか全額回るとしても無いよりマシだ。

だけど、苦い思いがあってやらない。


年金をメダルのゲームに費やすお年寄りや毎日100円商品を買っていく認知症を疑うようなあのおばあさん達を思い出す。


老人ホームに勤め始めて、よく接していた利用者さんが3人くらい亡くなった。


トイレ介助をすると、毎回、ありがとさん……っ! と手を合わせて拝んでくれた人。


最後は食事も発語もなく、静かに肺炎で亡くなってしまう人。


救急隊に運ばれて深夜に帰らぬ人になった低血圧だった人。


名前はフルネームで全員覚えている。

だけど、私は、泣かない。人が亡くなっても泣かない。涙が出てこない。なぜか。良い人ばかり、亡くなっていったのに。

心が思う。


人の死に、心動かされない。


ここでの生活はどうだったのか、私はあなたの満足に値する接し方ができていただろうか。あなたは、認知症があっただろうか。70、80、90まで生きて何を思い、何を感じていたか。


聞けるはずもない。聞いてみたら答えてくれるだろうか。


世の中、綺麗事だけじゃない。

「死んで欲しい」利用者を感じている、胸に思いを抱えている介護者。看護師。医師。家族。


いるだろう。いるに決まってる。


それでも、今日も私は「仕事」をするつもりだ。


介護職員として一人前になりたいとか。

仕事を早く覚えたいとか。

当日のすべての従業員の動きやシフトの組み方を理解したいとか。

毎日ちがう、更新されていく利用者の情報をすべて勉強したいとか。

昭和や大正と、年号と生まれた生年月日を聞いただけで相手の年齢を即答できるようになりたいとか。

入浴する人たちの日程を把握したいとか。


色々あったけれど。


別に借金返済は重くないけれど。


思っていたことが。感じていたことが。


初心が、廃れていく。


前の職場よりはマシ。

貯金はない。

借金はある。

やりがいとか感じてる暇はない。


それでも。笑って仕事がしたいのは変わらない。


今日は仕事の分担だと「入浴の介助を頑張る予定」。

「別館の方で認知症の強い人の記録や介助をする予定」。


まいにち、変わっていく。


あの人は前、食事を自力摂取できていたけれど、今は全介助。

あの人は前、自分で手すりに掴まりながらトイレに行けていたけれど、今はリクライニングの車いすで2名で移乗する。

あの人はバルーンをいれて尿道カテーテルになった。


これは大まかなこと。細かいともっとある。


……珍しいから、買っている。

買わないで後になって後悔したくないから買っている。

親がなんでもやってくれるから、お金をどんどん注ぎ込んでいる。


自分がどうしてこうなってしまったのかわからない。


たぶん、「残す」ため、だと思う。

「後悔」したくないからだと思う。

こんだけ貴重な品物があるんだよ。

これだけ珍しいものがあるんだよ。

好きとか嫌いとかもうどうだって良いんだよ。

価値がすごいかどうか、それだけ。

私のお部屋、すごいでしょ?

いつか、誰か、わあ! すごい!

って言って。


だから、未開封で、スペアも買うし。

同じものが二つもある。

断捨離で手放すのはもったいない。

ずるい、と思う。


こんなに素敵なものを集めて他に渡すのはずるい。


でも。


血のつながった誰かが、


「いいじゃん! すごいじゃん! よく手に入れたね!」


と言ってくれたら大満足。


そんな言葉は一生来ない。


私は私の義務感で購入しているだけだから。


好きなものを、一生懸命楽しめる自分になりたい。

戻りたいんじゃない。もう一度、「自分」になりたい。


老人ホームでは利用者の居室は大体物がない。


「物がない」からって「綺麗さっぱり」、というわけではない。ただ単に持ち込む理由がないだけ。


掃除担当の職員がいるから部屋は清潔だけど。


将来、自分の部屋がああだったらどうだろうかと考える。


漫画もない。グッズもない。衣類も必要最低限。家具は備え付けのベッドくらい。お茶を飲むためのコップが一個。押入れとかクローゼットもない。


将来、自分はどうすれば良いんだろう。

欲しかったものを欲しいだけ手に入れてきたはずだった。


これから先、私に待つのは地獄かもしれない。

欲もないのに義務でお金を失くす地獄。

かつて楽しかったから、またいつか楽しめるだろうから。


だから、すがって生きていく……。


私の人生にも、買うものにも、撮る写真にも、睡眠時間にも、入浴を頑張る努力も、なにも認められないのに。


地獄のために天国を買う。でも天国を買うと面倒になる。天国は高い。天国は増える。天国は数が多い。天国はいくつかある。天国が足りない。天国は、天国は、天国は、


売れる。


ずっといっしょにいたかった。





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「天国」はわからない 明鏡止水 @miuraharuma30

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