第4話 ちょっと待ってよ
「マジでだるい。日焼けしたくないし、教室戻らない?」
溜息を吐いて悠里を見ると、アンタねぇ……と悠里に深く溜息を吐かれた。
現在、私たちが炎天下のグラウンドに座っているのは球技大会中だからだ。今行われているのは、男子のサッカーの試合である。
球技大会では男女それぞれ2チームに分かれ、サッカーとバスケで勝負する。
私と悠里はサッカーで、今は男子チームの応援中だ。
「応援、義務じゃないでしょ」
「そうだけど。あーあ、可哀想。アンタが見てくれてるからって男子、張りきってたのに」
「どうでもいいもん」
先輩はたぶんバスケを選ぶだろうから、私だって本当はバスケがよかった。そうしたら体育館にいる間ずっと、衣織先輩を見ていられる。
でも、ネイル変えたばっかりなんだよね……!
バスケなんてしたら爪がとれちゃいそうで怖い。それに、運動音痴な私としては、少人数スポーツは避けたい。
「あ。この試合終わったら、私ちょっと三年生のグラウンド行くから」
「え? なんで?」
「佳奈美先輩の応援。姫奈はどうする?」
さすがに同じクラスのチームは応援しなきゃいけないけど、この試合が終わればもうグラウンドにいなくていい。
私の出番は午後だし、自由時間だ。
「もちろん、先輩のところに行く。衣織先輩の出番は午後だけどね」
♡
あれ? なんで衣織先輩、あんなに男子に囲まれてるの?
体育館に入ると、衣織先輩の周りを複数の男子が取り囲んでいた。少し離れたところから、衣織先輩と同じクラスの女子たちが見ている。
てかあいつら、衣織先輩に近すぎない? うざいんだけど。
イライラしてきて、私は急いで衣織先輩のところへ向かう。体育館の中は騒がしいから、私が近づいたところで誰も違和感は持たない。
近くまでくると、どうして衣織先輩が男子たちに囲まれているのかが分かった。
「頼む!
「ほら、あいつも怪我で出れないし、俺ら人数足りないしさ……」
どうやら男子の集団の中にいる一人が怪我をしたらしい。
先輩のクラスは文系で、男子の人数が少ない。そのため、代理として衣織先輩に声をかけているようだ。
え? あり得なくない?
衣織先輩、女子なんだけど?
「頼むよ、八王子!」
男子たちから一斉に頭を下げられ、衣織先輩は困ったような顔をしている。
「あー、えっと、これでも私、女子なんだけど……」
「そこをなんとか! ほら、逆はやばいけど、八王寺が男子に混ざるのはセーフだって!」
「……そうかな?」
強引な勧誘に、先輩は今にも頷いてしまいそうだ。
そのまま押し切ろうとする男子たちが許せなくて、私は先輩と男子たちの間に割って入った。
「話は聞きましたけど、あり得ませんから」
あまりにも腹が立って、いつもの可愛い声なんて出せない。思いっきり睨みつけてやると、男子たちは怯えた顔になった。
私が可愛いから、こんな顔するとは思わなかったんでしょ?
「男子に混ざってプレイするなんて危ないこと、衣織先輩にさせる気なんですか?」
「い、いやその……ほら、八王子って男子より全然……」
しょうもない言い訳を舌打ちで遮る。
「衣織先輩は、女の子です!」
当たり前のことを宣言し、衣織先輩の腕を掴む。
「行きましょう先輩。絶対危ないですから」
ぐいっ、と腕を引っ張っても先輩は動かない。もしかして、断ったら悪いと思っているのだろうか?
「先輩。さすがに優しすぎますよ」
「……待って。違う。そうじゃないんだ」
なぜか先輩は俯いていて、私と目を合わせようとしない。
「先輩?」
しゃがみこんで、先輩の顔を覗き込む。
先輩の顔は、真っ赤に染まっていた。
……え!?
「なんていうか、その……女の子扱いされるの、いつぶりだろうって」
恥ずかしいのか、先輩は耳まで赤い。私を見つめる瞳は少し潤んでいる気がする。
ちょっと待ってよ。衣織先輩、可愛すぎるんだけど……!?
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