(恋愛)

「あっ、氷馬くん

 お祭りの笛の練習って……」



『あ、ごめん

 委員会があるから

    ……またね』



奈美が話しかけてきたとき、内心嬉しかった。


なのに、僕はそんな気持ちとは裏腹に同じ空間から遠ざかってしまう。




話すことも少なくなった。


それなのに、気づいたら遠目で奈美を追っていることに気付く。


廊下ですれ違っただけで息が止まってしまうような感覚。


胸に居座る気持ちが何なのかは、なんとなくわかっていた。


好きだと言語化してしまえば、この苦しさは無くなるのだろうか。



いや、それよりも大切な何かが壊れてしまうんじゃないかと、臆病になっていた。ガラス細工でも扱うかのように慎重になる。深入り出来ない。



今まで勝手に運命を感じながらも、心のどこかでは一緒になんてなれる筈もない……そんな風にも思っていたから。




「氷馬くんはかっこいいし、頭もよくて運動もできるし、モテるでしょ?」




放課後、委員会の活動をしているときに担任が僕にそう言ってくれたけど……




正直、恋愛というものがわからずにいた。




恋愛というものに背を向けてしまう。




そんな自分の弱さすらも直視できなかったから、毎日違うことを考えて3年間を過ごした。




傷ついても構わないとは思えなかったんだ。あの頃は。

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