大手出版社に勤める芦原慎吾は無類の女好きが災いし、オカルト雑誌の編集部へと左遷されてしまう。
興味も知識もない分野だったが、偶然知り合った美人霊媒師の事務所へと足しげく通っていた。最近、彼女は新しく事務員を雇ったという。
その名は「千晴」というらしい。どんなタイプの女の子かと期待した先に待っていたのは――?
お祓い事務所に持ち込まれた依頼の真相を探る連作短編ミステリです。
新作の告知があってから二か月ほど、それはもう、公開を待ち望んでいました。
実のところ本作は『上野恭介は呪われている』のスピンオフ作品なのです。上野の所属するオカルト同好会部の最終兵器と称された秋葉千晴が探偵役のお話です。
『上野恭介は呪われている』のファンである私は、さんざん楽しみにしていたと言いつつ、どんなミステリが始まるのか全く想像がついていませんでした。
館ものの超本格推理小説だったらどうしよう。密室トリックとか理解できる頭がないんだけど……と思っていました。
なぜなら秋葉千晴が、それだけの意外性を秘めた人物だからです。
千晴なら幽霊が出ると噂される洋館に乗り込んで、一癖も二癖もある登場人物たちが持つ過去の因縁なんてものともせず、誰もが見落としていた点を、さも「そこに落ちていましたけど」と言わんばかりにトリックを見破ってもおかしくはない。結局、幽霊は何かの見間違いで、さんざんひっかきまわした挙句、意気消沈して帰っていくのだろうか……。
と、ファンが勝手に想像してしまうほど、魅力のあるキャラクターなのです。
千晴がどんな事件と出会い、どんな推理を見せてくれるのか、楽しみにしていました。
最初の調査依頼は「久しぶりに会った息子の様子がおかしい」というもの。
芦原から説明を聞くうちに千晴は好奇心を搔き立てられるのですが、はたしてその理由とは……?
『上野恭介は呪われている』を未読の方は、芦原と一緒に新鮮な気持ちで千晴に一驚、一笑してみてください。
作者の牛捨樹さんは一編を書き上げてから投稿される方なので「ミステリなのに解決編がない!」という心配もありません。
大のオカルト好きの千晴と、オカルトに全く興味のない芦原。コンビとしての活躍も今後が楽しみな作品です。