02 周辺国
精霊イヴリシアたちのところから国王執務室に戻ると、すぐにロマンスグレーな切れ者宰相、マルダンフ侯爵がやってきた。
「陛下、報告とご相談があります」
「聞こう」
「王都の復興に関してですが、元の状態を100とすると、85程度までは回復をすることができております。特に家屋を失った者たちについては、すべて仮家へ入ることが完了いたしました」
「結構なことだな。商人の動きはどうだ?」
「この機に
「そうか」
『件のダークエルフ』というのは、以前命を助けたジラルナをリーダーとするダークエルフ3人娘のことである。アラムンドに鍛えさせて密偵となってもらったが、すでに宰相直属の密偵として王都内の情報収集に飛び回っているようだ。
「そういったこともあって、陛下の評判は市井では天井知らずに上がっております」
そんなことを言ってマルダンフ侯爵は目元を緩めたが、冗談を言ってくれるまでに信頼関係が築けているのは俺としても嬉しいところである。
「その評判を落とすことなくこの先も王を務めたいものだな。しかし侯爵、そういった耳に心地よい話は、この先面倒な話があることの前触れであろう」
「陛下にはかないませんな。実はこの神聖インテクルース王国を囲む国のいくつかが怪しい動きを見せております。具体的にはミルザム王国、ベランゴル民主国、ミュールザンヌ教国の3国ですな」
「ふむ。政治体制が異なる国がそれぞれに、か。その3国ならば、互いに手を結んでどうこうという形ではないか」
「恐らくは」
この大陸にある国々については、神聖インテクルース王国以外についてはゲームに出てこなかったので、完全にマークスチュアートの知識頼りになる。
それによると『ミルザム王国』はそのまま王政国家で、規模は神聖インテクルース王国の半分ほどだが、歴代の王の野心が強いことで有名らしい。過去にインテクルース王国とも事を構えたことがあり、一番に警戒が必要な国である。
『ベランゴル民主国』は、首長を選挙によって選ぶという民主主義に近い体制を取っている国である。ただ民主制に移行する際に相当に血なまぐさい闘争があり、しかもいまだに権力闘争が絶えることがないとか。民主主義というと前世の知識がある人間として興味が湧く国ではあるが、正直あまり近づきたくない国だ。
そしてそれに輪をかけて胡散臭いのが『ミュールザンヌ教国』である。名前の通り『ミュールザンヌ教』という宗教を広める教団が建てた国なのだが、この『ミュールザンヌ教』というのがかなり過激な宗教で、人族以外はすべて家畜に等しいという、なかなかに強烈な教義を標榜しているのだ。
ちなみに聖女オルティアナが属する『ラファルフィヌス教』は種族間の平等を謳っているので、『ミュールザンヌ教』とは真っ向から対立する関係にある。大陸では『ラファルフィヌス教』が多数派ではあるが、『ミュールザンヌ教』も徐々に勢力を伸ばしてきており、油断できない状況ではあるらしい。
いずれもゲーム知識が活かせない相手であるので、俺としては慎重に構えなければならない。といっても正面切っての戦となれば相手にはならないだろうが。
「その3国がこちらになにか仕掛けてくるとして、ミルザム王国とベランゴル民主国は単純に領地や資源狙いか」
「だと思われます。ミルザムの現国王は歴代の中でもとびぬけて野心家であると言われております。ベランゴルも現政権が民衆の支持を失っているそうで、対外的な成功を求める可能性は高いと思われます」
「どこも考えることは同じか」
「でございますな。問題はミュールザンヌ教国でしょう。彼の国は単純に領地を求めてくるとは思えませぬ」
「というと?」
「我らが神聖インテクルース王国はもともとラファルフィヌス教を国教とするゆえに、種族間の平等意識が他国より強うございます。さらに陛下のご意向や、臣下に種族を選ばないなさりようもあって、その意識がますます浸透しております」
「うむ」
「それゆえ、人族以外の種族がミュールザンヌ教国からここ神聖インテクルース王国へと数多く流入しているのです。それはミュールザンヌ教国としては耐えられぬところかと思います」
「自業自得だが、人の流出はそのまま国家の盛衰にかかわるゆえ仕方ないか」
「しかもこの度わが国がエルフと国交を結ぶとなると、それを理由に何かを仕掛けてくる可能性は大きいかと」
「確かにな。エルフについては、魔族を退けるまではなるべく情報は伏せておくことにしよう」
エルフを人族が迫害していたというのはすでに述べた通りだが、その精神的背景にミュールザンヌ教の教えがあったというのは、マークスチュアートとしての記憶にもあるところである。
要するにエルフの美しさに邪な考えを抱く人間が、ミュールザンヌ教の教義を都合のいいものとして利用していたのだろう。ともかくエルフがこの国と手を結ぶことによって教国を刺激するのは確かである。
「いずれも動向は監視させておいてほしい。ミルザム王国、ベランゴル民主国は軍事行動を起こされても短期的にはそれぞれゲントロノフ公、ローテローザ公の方で対応してもらえよう」
「魔族軍侵攻に乗じる可能性も高いと存じますが」
「援軍と称して軍を送ってくるか、それとも直接的に宣戦布告をしてくるか。後者とするなら大義名分が必要だな。教国は教義を理由に動くであろうが、他の2国はどうか」
「民主国は王政国家に対しては、民を迫害する制度を敷く国などと批判をしておりますので、国内に対する大義名分は十分かと。ミルザム王国の方は確かになんらかの理由は必要かもしれませんな」
「ふむ……アラムンド」
「はっ!」
シュッと片膝をついた姿勢で現れる、ちょいエロコスチュームのダークエルフ女忍者。
アラムンドは俺直属の諜報部隊の長である。
「失踪した元王妃がミルザム王国へ入ったという情報はないか?」
「ミルザム国は監視しておりますが、そのような情報は入ってきておりません」
「各国の動きについてはどうだ?」
「公爵閣下がお持ち以上の情報はこちらにも入ってはおりません。ただ、ベランゴル民主国の内情はかなり酷く、現政権を批判する者たちが多く投獄され、処刑されているようです」
「現政権に対する批判が高まっているということか。とすると、目を逸らす目的で対外的な行動に出る可能性は高いな」
「最も警戒すべきかと存じます」
「わかった。下がってよい」
「はっ」
現れた時と同じように、シュッと消えるアラムンド。
いつものように口の部分はマスクで隠し淡々と受け答えをしていたが、その目が微妙に焦燥の色を帯びていたのは俺のマークスチュアート面が見逃していない。
実は彼女が焦る理由を俺はゲーム知識から知っている。だが彼女の件を解決するのはもう少し先になるだろう。
それまでシナリオの変わったこの世界で、致命的なことをやらかさないように祈るのみだ。
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