03 始まり

 マルダンフ侯爵やアラムンドの報告によって、国外に不穏な動きがあることがわかってきた。


 だが、いずれも基本的には向こうが動いてくれないとこちらも動きようがない事案である。


 なにか起こるのがわかっていながら待つしかできないのはストレスが溜まるが、こればかりは仕方がない。今まで通り準備だけはしておいて、後はその時が来たら対応するだけだ。


 今回の魔族さえ撃退してしまえば魔族との大規模な戦闘は一段落し、その後はゲームの展開通り、主人公パーティ・改で魔族領を旅することになるだろう。


 ただどうやら、その前に周辺国との外交も必要となる気配である。先に怪しげな動きをしている3国の話が出たが、この大陸には他にも国は存在する。規模から言えばこの神聖インテクルース王国がかなりの差をつけて一番だが、だからといって国力さえ回復すれば安心安全などということはない。


 とまあ色々考えないといけないことは多いが、喫緊の課題が王都の復興と国力の充実であることもまた変わりはない。


 ゆえに翌日も普通通りの執務である。


 午前分の書類処理が一段落して、ティーカップを片手に窓から王都を眺める。


 街並みは見た目はほぼ以前と同じレベルにまで戻っていて、建物の改修を手伝うゴーレムの姿もまばらになった。皆頑張っているなあ、などと小市民的な感想を心の中で浮かべていると、フォルシーナが隣に並んできた。


「お父様、ラファルフィヌス大聖堂の修復はいつごろ始められるのでしょうか?」


 窓からほど近くに見える大聖堂だが、まだ魔族襲撃の時の破壊の跡はそのままであり、修復が進むその他の家屋と比べると悪い意味で目立ってしまっている。


「教皇猊下には常に聖女オルティアナを通して援助する旨は打診しているのだがな。寄付をしようとしても民を優先にして欲しいと言われてしまうのだ」


「ですがその民の方からも、大聖堂修復の歎願が出てきているようですが」


「うむ。ゆえに今度の魔族軍襲撃が片付いたら、さすがにとりかかってもらうよう強く頼むつもりだ。やはりラファルフィヌス教を信奉する者たちにとって、大聖堂は心の支えとなろうからな」


「私もそう思います。聖女オルティアナ様もそうですが、やはり人々には希望を抱かせるような対象が必要なのだと思います。もちろんその頂点にはお父様がいらっしゃるわけですけれど」


「それを言うならフォルシーナ、お前もその資質は十分にあるのだぞ」


 そもそも創造主ゲームクリエイターに愛されたゲームナンバーワンヒロインだし、見た目は陰険糸目丸眼鏡おっさんとは比較にならない。すでに魔導師としても国内屈指、じきにヴァミリオラを抜いて頂点に立ってもおかしくないレベルだ。まあどこかのチート中ボス野郎を除いての話ではあるが。


 フォルシーナもそこに気付いたのか、ハッとした様子で俺を見返してきた。


「私に資質があるというのは、お父様の隣に立つ資質があるということでしょうか?」


「ん? いや待て、それは意味がわからぬ。どういうことだ?」


「私がお父様の隣に立てば、私もお父様と同じように皆の希望になれるということでしょうか?」


「ああ、まあ……そういうことだな。お前は美しく、賢く、魔法の腕も秀でている。その上で王族であることを示せば、間違いなく民の目には特別な人間として映ろう」


「お父様はやはり口がお上手でいらっしゃいますね。ですが民にとって、お父様の後継がどうなるかというのも大切ですから、誰がお父様の跡継ぎを産むのかが注目されるのは理解できます」


 うん? なんか微妙に話がかみ合ってない気がするが……。


 今俺の直系の血族はフォルシーナしかいないし、確かに今のままなら将来的にこの国はフォルシーナとその夫が継ぐことになる。そういう意味でもフォルシーナが『人々の希望』になることもあるだろうが、婿も決まっていないうちから生まれる子供の話が出てくるのは時期尚早にすぎないだろうか。


 いやそれとも、これはやはり俺を『追放』することの匂わせか? 国を復興させておいて、いいところで俺を『追放』して自ら実権を握るとか、そんな恐ろしいことを考えているのだろうか。


 忘れかけていたが、俺の『断罪』ルートはともかく『追放』ルートは完全に消えたわけではない。なにしろ今でも時々フォルシーナが『氷の令嬢』モードに入ることはあるのだ。しかもそれが『有能な臣下』を手に入れた時に多く発動していることを考えれば、『追放』ルートとのつながりは明らかではないだろうか。


「……フォルシーナよ。もし私の代わりに王となりたいならいつでも位を譲ろう。私は辺境で館でも構えてのんびり生きていければそれでよい。覚えておいてほしい」


「お父様、なにをおっしゃるのですか。以前から申し上げておりますが、私にそのような気持ちは微塵もありません。お父様の隣にいることが私の一番の望みなのです」


「うむ、ならよいのだが……」


「よいのですね!?」


 う~む、なぜそこで過剰に反応するのかも意味がわからない。やはり常に近くにいて機会をうかがうつもりだろうか。


 俺が久しぶりに自分がを思い出していると、俺たちのやりとりを無表情に見ていた古代文明アンドロイドのツクヨミが、急にピクンと反応した。


「マスター。北の平原にAランク反応が2つ現れました。さらに300以上のCランク反応のほか、無数の微弱な反応も見られます」


「来たか」


 Aランク反応は魔族軍四至将のドブルザラクとエルゴジーラだろう。300体のCランクは魔族の幹部や、ワイバーンやトロールたち強力なモンスターを指している。


 直後に執務室の扉がノックされ、美人秘書官のラエルザが入ってきた。


「陛下、魔族軍が平原北部に侵入、陣を構え始めました。ドブルザラク、エルゴジーラともに姿を確認しています。どうやら歩調を整えて、ほぼ同時に王都を攻撃するつもりのようです」


「うむ。では早速迎撃準備に移るとしよう。フォルシーナはマリアンロッテ嬢たちと共に準備を始めなさい」


「はいお父様」


 フォルシーナの後ろ姿を見送ってから、俺は『通話の魔道具』を使い、まずはエルフ族の長ゼファラに連絡を取り、次いで将軍のドルトンとリンに出撃の命令を下した。


 さらに領地にいるヴァミリオラと、ゲントロノフ公爵家にも連絡を取る。彼女らにはそれぞの領地にとどまってもらい、西方、南方からの他国の動きに目を光らせていてもらわねばならない。


 同時に宰相のマルダンフ公爵と、家宰のミルダートを呼び、事前準備の通り戦時体制を取るよう命を下した。こちらは王都民への対応が主となるが、こういった状況で不心得者が動き出さないようにするのも非常に重要な仕事となる。


 さらに大聖堂の教皇ハルゲントゥスにも連絡をし、王都民の慰撫いぶを頼んでおくのも重要だ。うむ、ちょっと国王が忙しすぎだな。後でもう少し伝達系統を整理しよう。


 その後俺もミスリル製の鎧を装着、腰に『シグルドの聖剣』をき、戦の準備を整えた。


 実際に魔族軍とぶつかるのは3日後の朝になるだろうが、兵士たちの士気を鼓舞し、王都民と安心させるために俺が戦装束になるのは重要である。


 しかしほぼ予定通りなのはありがたい、なんて考えが脳裏をよぎるが、魔族の大攻勢を前にして余裕が持てるのは本当に原作知識チート様様である。


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