01 帰還して

 王都に戻った俺を待っていたのは、執務机の上にうずたかく積みあがった書類の山だった。


 基本的に重要なものでない限り宰相のマルダンフ侯爵には自分の判断で決裁をしていいと言っていったのだが、それでも恐ろしい程の決裁待ち書類が残ってしまったらしい。


 城を空けたのは結局5日しかなかったはずなんだが、やはり復興途上の王都となると業務の量は想像を絶するようだ。


 俺は執務机に座り、左の補佐官席にはフォルシーナ、そして右には古代アンドロイド少女のツクヨミを配し、とにかく目の前の書類モンスターどもを討伐することにした。


 午前中に4分の1くらいの処理を終え、執務室で昼食を取る。


 料理を持ってきたのは紫の髪を短くまとめ、眼鏡をかけた秘書ルックの美女ラエルザだ。実は魔王軍四至将ミルラエルザだが、ゆえあって今は俺の配下となっている。


「ラエルザ、魔族軍の動きはどうだ?」


「軍備が整い、『転移の魔道具』の魔族領の南端に設置が終わっているようです。あとは魔宰相ロゼディクスの命一つで動き出すでしょう」


「動き出してから北の平原まで来るのにどれくらいかかる?」


「北の平原北端に全軍が集結するまで3日といったところでしょう。もちろん四至将エルゴジーラが先行するなら別でしょうが」


 今回、王都に侵攻してくる魔族軍は、2人の四至将によって率いられてくる予定である。


 一人は四至将ドブルザラクで、こちらは巨躯の大鬼オーガであり、地上軍を率いてくるはずだ。


 もう一人は四至将エルゴジーラで、こちらは自身が空を飛べるドラゴンであり、率いる兵もすべて飛行する飛龍ワイバーンである。つまり完全な航空部隊であり、軍勢としての足の速さはドブルザラクの軍とは比較にならない。


 この2軍がどう連携してくるかは気になるところだが、普通に考えればまずはエルゴジーラの航空戦力が爆撃を行ったあと、ドブルザラクの地上部隊が押し寄せるという形で来るはずだ。


「私の力があれば、向こうがどのような戦術を取ろうとも対応はできる。魔宰相とやらの命が下った時点で私にしらせよ」


「かしこまりました」


 と一応ラエルザには命じておくが、南部森林の古代遺跡の機能回復が多少進んでいて、ツクヨミの探査範囲もかなり広がっている。もし四至将が北の平原に入ってくれば、その時点で索敵にひっかかるだろう。


 昼食を摂り終え、赤髪ボブカットメイドのミアールが入れてくれた紅茶を飲み、午後の執務を開始する。


 なおフォルシーナは、午後からは近くのダンジョンで訓練とレベルアップに行くことになっている。もちろんマリアンロッテ、ミアール、クーラリア、そしてなんと、アミュエリザも一緒である。


 ただアミュエリザに関しては常時王城にいるわけではなく、王城とローテローザ公爵邸間に設置された『転移の魔道具』で決まった時間にこちらに来るだけだ。


 それすらもシスコン女公爵ヴァミリオラはかなり渋っていたのだが、アミュエリザが強く願ったため押し切られたようだ。ただ条件として俺とは顔を合わせるなと言われているらしい。本当にヴァミリオラの俺に対する評価は散々である。


 さて、午後も二時間執務をした後、俺は王城北に広がる小さな森へと足を運んだ。


 もちろんそこには『大精霊の泉』があり、『水の精霊イヴリシア』が住んでいる。


 神聖な空気をたたえた泉へ近づくと、薄い布を一枚まとっただけの、水色のウェービーロングヘアを身体にまとわせたイヴリシアがほとりの岩に座っていた。


 その脇には岩でできた犬型ゴーレムのような『地の精霊クーロ』が寝そべっていて、神話の1ページのような光景がそこにあった。


『あらマークスチュアート様、ようこそいらっしゃいました』


 俺の姿を認めると、イヴリシアは立ち上がってニッコリと微笑んだ。クーロも身体を起こしてお座りの体勢になる。


「急に済まぬな。クーロ殿がなにか不便がないか聞きに参ったのだが、いかがだろうか」


『グル』


『とても快適だそうですわ。マークスチュアート様に感謝しているそうです』


 クーロは相変わらず喉を鳴らすだけなのだが、さすが精霊仲間だけあってイヴリシアはその意味がわかるらしい。


 ちなみにクーロの住処は泉から少し離れた所に、『地精霊のしとね』を設置することで作成した。


 そこには大岩がもとからあったのだが、『地精霊のしとね』を使うと大岩に横穴が開いたのだ。入って下りていくと溶岩だまりのある地下空間になっていて、クーロは基本そこに住むという形である。


「ならば重畳。しかも貴重な『精霊石』まで使わせていただいて感謝する。おかげでわが国の錬金術錬成品は一段と品質がよくなった。これでより多くの者が錬金術の恩恵を受けるようになろう」


『グル』


『あんなものでよければいくらでも持っていけ、だそうです』


『精霊石』というのは、クーロの寝床にある溶岩が固まってできたもので、精霊の力を持った錬金術の素材である。


 イヴリシアの『精霊水』と同じく、錬金術の素材として少量加えると錬成品の品質が上がるというもので、『精霊石』は特に金属と相性がよく、同じ材料を使っても金属の生成量が倍以上になるほか、なんとミスリルやオリハルコンといった希少金属まで錬成できるようになる。


 正直これを知られたら、周辺各国が一斉にこの国に攻めてくるレベルの危険なものである。


「うむ、そこは遠慮なく世話になろう。ところでお二方とももう気付いていると思うが、精霊を狙う者がいるのは明らかとなった。そこで火と風の精霊殿たちについても交渉をして、必要があればこちらへ来てもらった方が良いと思うのだがどうであろうか?」


『クーロと話をしていて、わたくしもそう感じました。どうやらクーロのもとに現れたアンデッドは恐ろしい存在のようですし、我々精霊の力では太刀打ちできないでしょう』


『グル』


『クーロも同感だと言っております』


「うむ。ならば今回の戦が終わり次第、残り2柱の精霊にも会いにいくとしよう」


『場所をご存じなのですか? 我らも詳しくは存じないのですが』


「あてはある。ツクヨミにも探させているので、じきに正確な場所もわかろう」


『さすがマークスチュアート様です。我ら精霊の場所まですべてを見通せるとは』


『グル』


 まあすべてはゲーム知識ですからね。


 ちなみに残りの火と風の精霊に居場所については、魔族領を経由しないと行けない場所にある。マークスチュアートとしての俺もまだ足を踏み入れたことのない場所なので、『転移魔法』でちょっと行って保護するというわけにもいかないのである。今回の魔族軍との戦いが終わったら魔族領へ足を踏み入れることになるので、その時に急ぎ向かうしかない。


 その後イヴリシアとクーロの2人(?)と世間話をしてから、将軍のドルトンとリンのところに顔を出しておいた。


 どちらも準備は万端整っていると確認がとれた。兵士たちは休む暇なしだが、少なくともゲームシナリオを消化しきらない限りこの大陸に平和は訪れないので、しばらくは耐えてもらうしかない。


 本当は被害も最小限に抑えたいのだがゼロというわけにはいかないだろう。


 『ポーション』類の量産と、新たに錬成が可能になった『ミスリル』などによって兵士の装備を強力にすることが、俺のできる精いっぱいである。

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