第4話 みーちゃんの詮索
約六時間にわたる練習時間を終え、みんなでの帰り道。
みーちゃん以外は高校が同じだったこともあり、家が近いらしい。
みーちゃんはもっと遠くの県立高校に通って居たっぽいから、家自体は類大に近いんだって。
だから、帰り道は途中まで一緒だ。詳しい家の場所は全く知らないけど。
「明後日って
みーちゃんがそう言った。
月大……って、バスケでかの有名な、あの月岡大学のこと……⁉
「そうだね! うちのサークル四人だけだから試合は無理って話だったけど……」
悠花がそう言う。本当に、なんでこんなに楽しいのに人が増えないんだろう。
「常緑大学? だっけかと連合チームなんだよな?」
「そうだよ! 会場はうちのバス体」
巧輝が聞いて、みーちゃんが答える。
さりげなく明後日の情報を言ってくれて助かった。月大と練習試合、か。
連合チームになる常緑大学、通称
「あ~、楽しみ!」
「くそっ……」
悠花と巧輝は全く違う反応をしている。
悠花の反応は分かる。強い大学と連合チームでしかも戦えるだなんて、そんな機会ほぼほぼない。
でも、巧輝はうんざりしているようだ。
なんでか知りたいけど、むやみに私が口を出すと不審に思われる。もしかしたら他のみんなは知っているかもしれない。
好奇心をぐっとこらえようとした、その時。
「巧輝、なんで嫌なの?」
みーちゃんがそう聞いた。
タイミング良いっ。みーちゃんナイス!
「俺らが通ってた類田高校で敵視してた奴が、月大にいるんだよ……」
敵視してた人……? 同じ学校なのに、そんな人がいたの?
巧輝が敵視するなんて、いったいどんな人なんだろう。
「あ~、あいつか。北川流弥!」
「そう」
あれ? 悠花は知ってるのか。同じ高校だったもんね。
「マジであいつ、ムカつくわ~!」
「同意しかできねぇ」
二人が、その北川って人に怒りをぶつけている。そんな人と明後日、会うことになるのか……。まぁ、会ってみなきゃ分かんないよね!
その時は、全然そのことなんて深く考えていなかったんだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ばいば~い!」
悠花と手を振って別れる。歩く方向を見ると、悠花の家も中学生の頃から変わっていないようだった。
みーちゃんと巧輝とは、まだ道は同じっぽい。みんなとどこで別れるかも分からないまま、他愛もない話をする。
話のネタが尽きない中、みーちゃんが声を上げた。
「巧輝、ごめん。ちょっとだけ飛鳥借りていい?」
「……いいけど。家近いし、近くで待ってる。話するんだろ?」
「うん! そこの公園で話があって」
みーちゃんが、私に話? あと、巧輝に謝る必要ってあるのかな……?
疑問は尽きないけれどどんどんと話は進んでいき、いつの間にか公園に着いていた。そこは、私が過去から飛んできた時にすぐ隣にあった公園だ。
「飛鳥、行こう!」
みーちゃんが私の手を引いていく。
私、なにかやらかしちゃったかな……?
ちょっと怖いけど、きっとそうじゃないと言い聞かせてみーちゃんについて行った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「飛鳥」
「なぁに?」
ブランコに座らされた私は、できるだけ平静を装ってそう返した。
「前置きするね。今から飛鳥に話されることは、誰にも言わない。絶対に。だから、飛鳥が今どういう状況に置かれているのか、教えてくれない?」
「えっ……」
やっぱり——私の様子がおかしいことに、みーちゃんは気づいてた?
「……きっと、信じられないと思うよ」
「大丈夫。信じる。何も責めないし、誰にも言わない。二人だけの秘密! 約束ね?」
「……」
みーちゃんはわざわざブランコから降りて、私と向かい合って目を合わせる。
その瞳の奥に、とてもじゃないけど嘘の色は見えなくて……。
「うん。聞いてくれる……?」
「もちろん!」
やっぱり、みーちゃんは優しい人だ。
私は過去から飛んできたこと、短いメモの情報だけでどうにか頑張っていること。まだこの世界に来てから一日しか経っていないこと。目的だけは言ってはいけないような気がしたから口には出さなかった。
「そういうことか……だから、今日は悠花の反応を見てから色々行動してたのか」
確かに、今日の私の行動はおかしかった。
みーちゃんと関わる時も巧輝と関わる時も、練習の動きも全部、悠花の行動を見てから真似ていた。今更ながら、そんなことでしか自分が行動できないという事実を情けなく思った。
「飛鳥!」
「なに?」
「私は信じるよ」
笑顔で、みーちゃんはそう言った。
私を、信じてくれる人が。過去から来た私を信じてくれる人が、そこにいた。
何も分からない世界で、自分を分かっていてくれる人がいた。
その事実に、堪えきれない涙が零れた。
「ちょっ……飛鳥⁉」
「ご、ごめっ……うっ、嬉しくて……」
「え? なにが?」
「みーちゃん、ありがとう……!」
我慢できずに抱き着いた私の身体を微動だにせず受け止めたみーちゃん。細くてスタイルの良いその身体でよく受け止められるなぁと心のどこかで考えながら、広い公園で情けなく泣いていた。
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